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後悔と焦燥

「すいません! 僕よりちょっと年下ぐらいの少女を見ませんでしたか? 長いストレートの明るい茶髪に黒い目で、象牙色の肌の」


 会う人会う人に尋ねるが、皆知らないと首を横に振った。僕は昼間に保護した少女を探して再び城の廊下を走る。

 帰りたい、と悲痛な叫びを残してレビエント殿下の下から走り去ってしまったアカリ。彼女の態度も言葉遣いも王族に対してとても失礼なものだったが、レビエント殿下はそれを咎める気はないようだ。


 ツシマ・アカリ。この国ではないどこかから来た異国の、いや彼女の言葉を信じるならば異なる世界から来た少女。王城の内部など全く知らないのだ。今頃迷子になっているか、不審がられて兵士に捕まっているかもしれない。早く保護しなければ。僕は焦燥を覚えていた。


(また泣いているかもしれない……)


 路地裏で少女が蹲っている姿を見つけ、具合が悪いのかと声をかけた。すると彼女は僕を見上げるなり顔をくしゃくしゃにして、大きな黒い瞳から涙をぽろぽろと零した。やがて堰を切ったように大泣きしたのだ。それはまるで、迷子になって母親を探す小さな子供のようだった。

 泣き止んだ彼女が話す言葉は支離滅裂で、正直何がなんだかさっぱり要領を得なかった。けれど分かった事が二つ。彼女はこの国の人間ではない事。そして何故此処に来たのか、どうやって帰るのかを知らない事。


(もっと落ち着いてから殿下に会わせるべきだったか……)


 今頃になって対応の不味さが悔やまれる。彼女を国で保護するのならば、対応は早い方が良いと思って今日王城に連れてきた。けれど、彼女は最後まで話を聞かない内に飛び出してしまった。彼女の心の整理がつかない内から強引に動いてしまった僕のミスだ。

 走りながら頬を流れる汗を袖で拭う。今、城下は夏の訪れを祝う夏節祭の真っ最中。つまり季節は夏。陽が落ちてきたと言えど、体を動かしていればすぐに汗だくになる。


「イース」

「はい!」


 声を掛けられ振り向けば、そこに居たのは僕と同じく城で書士の仕事に就いている先輩の一人だった。


「お前、茶髪の少女を探しているそうだな」

「はい。レビエント殿下の客人です」

「彼女は今、レイモンド様の下にいるそうだぞ」


 僕は耳を疑った。何が一体どうなれば、レイモンド様と共にいるなんて事態になるのだろう。


「わ、分かりました! 行ってきます」


 兎にも角にも事実を確かめるべく、普段は決して走ったりしない王城の廊下を再度駆け抜けた。

 

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