第二の特殊能力発動!?
ハイ! 津島燈里は一つ腹を括りました。
まずレイモンドさんの離宮を出た。王城で働く人達が使っているという寮の一室に移る事にしたのだ。離宮とはいえ前国王の居住区に用意された客室は子守として働く者には不釣合いに豪華な場所で、与えられる食事も処遇も過剰だったから。次に、正式に子守兼侍女として働く為の勉強を開始した。子守としての仕事は今まで通りだけど、空いた時間にレティシアの侍女さん達に色々教わっている。そして最後、仕事が休みの時にこの世界の勉強を始めた。竜の事、国の事、世界の事。本を読むだけじゃなくて、ちゃんと人から教わって常識と知識を身につけるのだ。
何に対して腹を括ったのか。要はこの世界で前に進む覚悟。今までみたいに皆の好意に甘えているだけじゃダメだと自分にカツを入れた。異世界に来てしまった今の状況を、あたしはようやく受け入れる事ができた。誰が悪いとかそんな事はもうどうでもいい。あたしは此処で自分がやれる事をやらなきゃならない。元の世界に、家族の下に帰る為に。
だからレイモンドさんの庇護下を抜けた。まだ人の力を借りなくてはどうにもならない事は沢山あるから、まずは自分で出来ることは自分でやる。その為に本格的に仕事をやる覚悟を決め、居住を移して仕事を教わり始めた。自分で帰る手段を見つける為、勉強を始めた。……まぁ、その勉強を教わる先生がイースって所が未だ納得できないんだけど……。
「手が止まってますよ」
「だってこれ、意味分かんねー」
今日はあたしもイースも休業日。イースの自宅に転がり込んでお勉強中だ。こいつの部屋には勉強になる本が山ほどあるから、王城の図書室へ行く必要も無いので非常に便利。流石眼鏡キャラってか?
「先ほども説明したでしょう。それとも聞いてなかったんですか?」
「いや聞いてたよ。聞いてたけど……難しい単語だらけでちっとも頭に入ってこなかったんだよね~」
「……アカリ」
あ、声が低くなった。ちょっち嫌な予感。
「…………。はい」
「クレルレド教王の政策と功績の所、全て音読してください」
「いや、ちょっと待ってよ!! 音読って30ページはあるじゃん、コレ!!」
「ア・カ・リ」
「はーい……」
あたしは渋々分厚い本のページをめくる。イースが本気でキレるとリーサルウェポンが出てくっからな。気をつけなくてはガチで命が危ない。……いや、ちょっと待てよ。わざと怒らせてカッチョイーあの右腕を拝むのもアリなんじゃあ……
「アカリ。あなた今何考えました?」
ちっ、だから何でコイツにはあたしの頭の中がバレるんだ。これも竜の特殊能力か? そんなことを考えていたあたしに、イースは深々と溜息をつく。
「あなたの顔を見れば何を考えているかなんて丸分かりです」
だからあたしの頭の中を読むなっつーの!!
「……そういえば、」
「ん? 何?」
「アカリ、とは何ですか?」
「え? 何の話?」
「“アカリ”という名前の意味です。こちらでは聞いたことの無い言葉なので」
「あぁ、アッチの言葉で“里を燈す”」
「里を……?」
「そ。大切な誰かにとって“故郷を燈す温かくて優しい灯り”のような人になれますようにって事でつけたらしいよ」
考えたのはばーちゃんだけどね。そう説明すると、イースは何故かちょっと……ちょっとだけ、寂しそうな顔をした。
「……なれますよ」
「へ?」
「あなたなら、誰かにとっての“灯り”に」
「あぁ、うん。ありがとう……」
なんでだろう。励まされている気がするのにちっとも嬉しくない。
イースが、寂しそうに笑っているからかな。




