誰が美人に会わせろと言った
「なぁ、オイ」
「なんですか?」
「アンタ、会うのは王子様って言ってなかった? あれはどう見てもお姫様だろ」
「あちらは第一王子のレビエント殿下ですよ」
いやいやいや。パリコレモデルも真っ青な美女じゃんよ!!
これまで見た中でも群を抜く鮮やかさの赤髪は高い位置でポニーテールにして纏められ、真っ直ぐ背中に垂れている。小麦色の肌はピチピチでお肌キレーとしか言いようがない。無駄な贅肉も筋肉もついていない細身の体。おぉ、サラサラとした生地から覗く組んだ足が色っぽいな。ルビーのような瞳が興味深げにこちらを見ている。
「アカリ。気持ちは分かりますが、いつまでも殿下をお待たせするのは止めてください」
「あ、あぁ、そっか。ゴメン」
イースはこの王城で働いている書士(要は役所の事務員みたいなモン)らしい。王子様のご機嫌を損ねると大変なんだろうな。
つい、入口で立ち往生していたあたしは慌てて部屋の中に入った。部屋と言うべきか、ホールを言うべきか。どうやら此処は王子がプライベートな客を迎える部屋らしい。つーか、マジ広いな。パネェよ王族。この部屋だけでウチの家と同じぐらいなんじゃねーの?
「君がアカリ?」
「あぁ、はい。津島燈里です」
「……ツシマアカリ?」
「ツシマが家の名前、アカリが個人を現す名前だそうです」
優美な仕草で首を傾げる美女……いや、王子にイースが補足する。
そう、この国には姓、つまり家名がないらしい。皆個人を示す名前しかないそうだ。そんなん名前被ったらどうすんだよ。子供の名前を考える親も大変だな。
あたしは王子に向かいのソファを勧められ、そこに腰を下ろした。おぉ、ふわっふわだなこのソファ。流石金持ち。イースは座らずに、あたしの斜め後ろに立っている。
「へぇ。面白いね。それで、アカリ。イースから事前に話は聞いているけど、君、この国の人間じゃないんだってね」
「国っていうか世界っていうか……。まぁ、違うトコの人間だ……です」
慌てて敬語に言い換えるが、特に王子がそれを気にした様子は無い。お偉いさんとこうして話をするなんて、慣れない事はするもんじゃないよな、ホント。
「そう。困ったね」
「へ?」
「実はね、僕もそんな話は聞いた事がないんだ」
「……ないって?」
「僕らはね、君がどうやって此処に来たのか検討もつかない。だから、」
ちらりと王子がイースと目配せする。そして再度あたしを見た。本当にすまなそうな、気の毒そうな顔をして。
「君を家に帰してあげる方法も分からないんだ」