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ヒーローが王子とは限らない

 

(暇も過ぎれば人間って腐るんだな〜)


 毎日ダラダラして過ごせたらそれは幸せだろうと思っていた。けれどやる事が無いってのは本当に退屈で。この世界のお嬢様は一体何をして遊んでいるんだと、マジ不思議でしょうがない。


 貴族のお嬢様らしい教育を受けていないあたしを外に出せばこの家のいい恥晒し。だからと言って教育係を付ける様子は無い。つまり、最初からチョビ髭夫婦はあたしを娘として外に連れて歩く気はないのだ。世のお嬢さん方のように綺麗なドレスを着てお茶会やらパーティーやらでうふふあははする機会など一生来ないだろう。いや、来てもそんな似合わないことこっちから願い下げだけどさ。

 最初は屋敷を抜け出して街に遊びに行こうかとも考えた。けれど予想以上にこの屋敷には警備員っぽい人がうじゃうじゃいてそれも出来ない。私兵って言うのか? こういうの。どんだけ此処に金目のモンがあるんだって話だよ。警備員に捕まって監禁でもされたら堪らない。だから今の所無理に抜け出す気はない。となればやっぱり退屈と戦うしかなくて……。あたしは今日も窓の外を眺めながら欠伸をかみ締めている。


 そろそろ昼メシの時間だな〜、なんて思っていた時だ。屋敷の正門前に留まった一台の馬車に気がついたのは。二匹の馬に引かれた、小型だけれど白塗りの質の良い馬車。貴族仲間の来客か?

 けれど馬車から降りてきた人物を目にした時、あたしの心臓が止まるかと思った。


「っんで……」


 いやいやいや。チョビ髭は貴族だし、そんなこともあんのか? よく分からんけど。

 馬車から降りたそいつは真っ直ぐに正面玄関へと向かう。あたしが目にしたのはそこまで。後の事は分からない。

 けれど五分もしない内に廊下が騒がしくなった。チョビ髭と奥さんと、そして使用人達の焦ったような声。そしてバタバタという複数の足音。なんだぁ?


 そちらの方を向いた時、同時に自室の扉が乱暴に開いた。そこに居たのはこの国ならどこででも見かける赤い髪に小麦色の肌。あたしよりも五センチ程高い身長のそいつはエンジ色のこの国でもあまりないかっちりとした制服を着ている。薄いレンズの眼鏡越しにあたしを見るワインレッドの瞳。


「どうです? 貴族の生活は楽しいですか?」


 あぁ、イースだ。この真面目ぶったしゃべり方。耳に触れると柔らかい声。

 言葉を返す事も出来ないあたしに、イースはペンだこの出来た手を差し伸べる。


「帰りましょう」

「帰るって……何言って……」

「アカリ、あなたを迎えにきました」

「帰る所なんか……」


 そんなもん無い。だって、本当に帰りたい所には帰れないのに。


「僕ではダメですか?」


 あんた、何言ってんの? またそんなプロポーズまがいなこと言って。

 頭の中には文句が次々と浮かぶのに、口から音となって出て行ってはくれない。だから、イースの言葉も止まらない。


「少なくとも、此処よりは楽しいでしょう?」


 あぁ、それもそうだ。おかしいなぁ、イースの説教聴いている方がマシだなんて。退屈は猫をも殺すって言葉は本当だったらしい。

 あたしは差し出されたその手を取った。ぎゅっと、ちから強く。

 

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