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「お嬢様=姫ベッド」は異世界共通

 高校最初の夏休み。一ヶ月以上経った今では、向こうの世界はもう新学期が始まっているのかもしれない。グリマス夫妻に与えられた部屋で、何の気なしに窓から外を眺めていたあたしはそんな事を思う。


 子爵ってのがどんだけ偉いのかは分かんないけど、領地を持つ地主だけあって周囲の民家とは比べ物にならない程グリマス卿の自宅はでっかい。家というより屋敷という言い方がぴったりの、三階建ての建造物。広々とした庭もあり、裏の山もチョビ髭の私有地らしい。これでプールなんてあった日には「セレブか!!」とツッコミを入れる所だ。

 自室の広さは学校の教室一個分くらい。更に寝室は別についている。しかもそこに置いてあったのは正にお金持ちを絵に描いたようなフリフリの天蓋つきベッドで、本当にこんなものでお嬢様と呼ばれる生き物は寝ているのかと関心してしまった。


 着替えから何から自分つきの侍女に鬱陶しい程世話をされた後、この屋敷に着いてから初めて一人の時間が訪れた。特にやることもないので、窓から手入れされた庭を眺めている。けれどあたしの頭を占めているのは、庭に咲く花々の鮮やかさではなく、王城で出会った人々の顔だった。


 この世界に来てから辛いことも理不尽に思うこともヤバイくらい沢山あった。家族に会えなくて、ダチと遊べなくて、せっかく始めたバイトもすっぽかす羽目になって。あたしはこの世界にたった一人の異世界人だけれど、それでも立ち上がれなくなる程の、自分が駄目になる程の寂しさは感じなかった。それは多分、あいつらが傍に居てくれたから。


(美女王子が話を聞いてくれた。レイモンドさんが居場所をくれた。レティシアが遊んでくれた。侍女さん達も優しくしてくれた。それに……)


 周囲の連中が遠巻きに見る、得体の知れない異世界の自分。けれど哀れむこともなく、忌避することもなく、間違った時には遠慮なく叱ってくれたイース。


(毎日毎日説教ばっかで寂しさなんか感じる暇なかったっつーの)


 頭に浮かんだ穏やかな笑顔がやけに憎たらしく思えて、あたしの眉間に皺が寄る。


「……ばか眼鏡」


 口をついて出るのは悪態ばかりで、こんな女は可愛くないと分かっている。けれどこれがあたしなのだ。今更後悔したって仕方が無い。どうせもう会う事もないだろう。


――なら、アカリが僕の家族になってくれますか?


 あの時の言葉、嬉しかったよ。今なら素直にそう思える。告白すっとばして行き成りプロポーズみたいな台詞だったけど、そんなこと男の人に言ってもらったの初めてだったから。

 不思議だよね。イースと恋人同士になるなんて想像もつかない。イチャコラしたいなんてちっとも思わない。それなのに、家族にはなれる気がするんだ。


 もしもイースが日本に生まれたのなら、あたし達きっと仲の良い兄弟になれた。夫婦には、どうなのかな? なれるのかな? ちょっとそれは分かんない。だってあいつ一々口うるさそうだし。旦那に毎日怒られたら、あたしソッコー家出する。間違いないよ。


 ……なーんて、こんな想像したって意味ないのにな。

 

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