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廊下が長いのは走るため

「アカリ!!」


 突然客室に飛び込んできた姿にあたしは緩んだ顔を向けた。


「あれー、イースじゃん。あたしにはいつも廊下は走るなって言ってるくせに」

「今そんなことはどうでもいいんです!!」


 珍しく声を荒げてソファでお茶を飲んでいたあたしに詰め寄ってくる。あたしは座ったまま、イースは立ったまま互いの顔を見た。あらら、額に汗が。どこから走ってきたんだコイツ。


「グリマス卿の養子になると云うのは本当ですか?」


 へ〜。そんな名前だったんだ、あのチョビ髭。つーか、情報早いな。まだレイモンドさんにしか話してないのに。


「そうだけど?」

「何故です! あなたには本当の家族がいるでしょう!」


 あぁもう。嫌なトコ突くなぁ、コイツ。


「だっていつ帰れるか分かんないし〜。それにあの人貴族でしょ? 養子になったら働く必要ないらしいじゃん。断る理由の方が思いつかないけど?」

「馬鹿ですか、あなたは!! 貴族社会はそんなに簡単なものではありません! そんな考えなしで簡単に養子になどと。……それに貴方は幼い子供ではありません。養子になったら直ぐにでも家の都合で婚姻を結ばされてもおかしくない歳なんですよ? どうしてグリマス卿があなたを養子に望むか考えたんですか?」


 そんなこと、言われなくたって分かってる。

 子供がいないからなんてありがちな理由で引き取ることが出来る程、あたしは簡単な立場じゃない。この国の人達からすれば教養も躾もなってない得体の知れない女。タダでお貴族様が望むわけがないのだ。けれどあたしを保護しているのが王族ならばその理由に簡単に行き着く。つまりチョビ髭の本当の目的は身寄りも居場所も無いあたしを引き取って王家へ恩を売り、パイプを持つこと。勉強嫌いの女子高生だってこれくらいのことは分かるっつーの。

 あたしはイースから顔をそらしてフンッと鼻を鳴らした。


「どうだっていーよ。そんなこと」

「なっ!! あなたのことでしょう!! ちょっとは真面目に……」

「もう、うっさいなぁ! あの人達の養子になれば、あたし子爵令嬢だよ? 言っとくけど、庶民出の書士がたてつける様な身分じゃないんだからね!」

「!!? 貴方は……」


 イースが顔を強張らせる。そして今まで叱られた中でも見た事がないような怖い顔をした。


「な、なにさ……」

「貴方は身分とか出自とか……、そんなもので人の言葉に耳を貸す貸さないを決めるような人ではないと思ってました」


 あんたが妄想の中であたしをどう思っていようがそんなの知らねーし!!


「別に、っんなの……」

「もういいです。……お元気で」


 それだけ言って、イースは踵を返した。いつも穏やかな彼には似合わない、静かで冷たい声で。

 ぽつんと部屋に独り残されたあたしは、なんでか黙ってその背中を見送る事が出来なくて、震える手を握り締めて閉まる直前のドアに向かって怒鳴りつける。


「言われなくてもあたしはいっつも元気ですよーっだ!!」


 悔し紛れの叫び声は、きっとイースには届いていない。

 

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