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君と笑み

「へぇ~。結構城から近いんだな」

「えぇ。毎日通うのに便利ですから」


 連れて来たのは宣言通り僕の自宅。男の独り暮らしだから部屋もそれ程広くは無い。リビングダイニングに寝室、風呂・トイレ。リビングにあるのは本ばかりで、女性が喜ぶようなものは何一つ無い貸家の二階。けれどアカリは所狭しと本棚に並べられたそれらを見て、イースらしいと笑った。そんな些細な一言がやけに嬉しいのは何故なんだろう。


 此処に来るまでに、僕達は商店街に寄って今日の夕飯を買い込んでいた。料理は元々得意じゃないので大抵夕食は城の食堂で済ませるか、商店街で惣菜を買うかだ。アカリが食べたいと言った白身魚の包み焼きと僕が勧めた木の実のサラダを並べる。後は買い置きのパンとお茶を添えれば夕食の準備は完了だ。

 いただきます、と両手を合わせてアカリが食べ始める。どうやらそれがアカリの母国の習わしらしい。

 夕食も半分ほど進んだところで、僕は本題を口にした。


「聞かせてくれませんか? アカリの、家族の話」


 すると彼女はちょっと顔をしかめた。普段からアカリの口からよく兄弟の話が出てくる。それだけで随分と仲が良いのだと知ってはいたが、こうして改まって聞く機会など今までなかった。突然何だ、と思われても仕方がない。


「はぁ? 何で……」

「憧れ、かもしれません」

「あこがれ?」

「僕孤児なんです」


 両親は一体どんな家に住んでどんな人物だったのか。知る術は無いが、捨てられた原因は恐らく半端な竜化しか出来ない事。けれどそれはもういい。長い間抱えていたコンプレックスだったけれど、その痛みはアカリのお陰で薄れているから。

 正直に出自を告白すれば、アカリは渋々といった様子で話し始めた。口は悪くとも根は優しい。こう言われてしまえば無視が出来ないのだ。既にそれを僕は良く知っている。子供やお年寄りには無条件で優しい事も。


「ウチは……父ちゃんと母ちゃんと、ばーちゃんがいて。じーちゃんは死んじゃったんだけど。後は光輝と郁……あ、弟と妹な。光輝は6歳。郁は9歳でまだ本当にチビなんだ。一輝はあたしのイッコ上の兄キ。そんであたしの7人家族。父ちゃんはトビ……あーっと、大工してて。大工って大して給料良くないらしいし、それなのに家族は多いからどっちかって言うウチはビンボー。父ちゃんと母ちゃんは元ヤン……つっても分かんないか。んー、若い時にバイクっつー乗り物乗り回して、自分達のシマ……領土? を荒らす奴らをボコボコにするような生活しててさ」


 アカリの両親は若い頃自分達の領土を守る為に戦っていたと言う。


「?? ご両親は騎士なのですか?」


 僕が真面目に問えば、ぶっとアカリがお茶を噴出した。汚いですよ、アカリ。

 布巾を用意しようとした時、アカリは僕の顔を見て……大爆笑していた。

 

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