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涙と笑顔

 王城東の庭に差し掛かると明るい声が聞こえてきた。レティシア姫とアカリの声だ。アカリが来てからレティシア姫はよく外で遊ぶようになった。共に遊べるような同年代の少女が居ない為、今まで侍女達と共に屋内で過ごす事が多かったというのに。

 僕が庭に足を踏み入れると、それに気づいたアカリがこちらを見る。


「やべっ! 説教眼鏡が来た!! 逃げろー!」


 キャーと声を上げながら走って行く二人。楽しそうな彼女の笑顔に、僕は先程まで頭にあった問いを口に出来なかった。明るいこの空気に水を差す気がして。

 彼女達に追いつくと、僕は大して乱れても居ない呼吸を整えるように深く息を吐いた。


「……何をしているんですか」

「イース!! 見て見て!! アカリが作ってくれたのよ!」


 レティシア姫が嬉しそうに両手で掲げて見せてくれたのは花で作られた輪っか。それを誇らしげに頭の上に載せる。成る程、これは花で出来た冠という訳だ。白や黄色の五枚花がバランス良く配置され、とても綺麗で可愛らしい出来となっている。


「すごい。意外に器用なんですね」

「意外は余計だ!」


 いーっと子供のように歯を見せるアカリ。僕が笑えば彼女も釣られて笑みを見せる。その笑顔の裏で、本当は君が泣いているって?


(そんなの嘘だ)


 彼女は笑ってるじゃないか。いつもの通り。けれどそんな僕の主張を否定するかのように、レビエント殿下の言葉が追いかけてくる。


――本音を明かせる人間がいないのだろうね。


 後ろめたい事を言い当てられた時のようにドキッと嫌な音を立てる心臓が煩い。


――この世界のどこにも


(あの時は泣いていたじゃないか!?)


 初めて会ったあの日。確かにアカリは僕にすがりついて泣いていた。あぁ、どうしてこんな気持ちになるんだ。アカリにもう一度僕の目の前で泣いて欲しいだなんて。


「おーい、どうした?」


 突然黙りこんでしまった僕の顔を覗き込むように、アカリが一歩近付いてくる。僕は自分の手を伸ばした。そして触れる。彼女の、頬に。


「?」


 触れた手に伝わる温かいアカリの体温。君は昨夜もこの頬を涙で濡らしていたの? そう思ったら勝手に口が動いていた。


「……この後、僕の家に来ませんか?」

「へ?」

「ダメですか?」

「いや、いいけど……。何をそんなに……って、おい!!」


 アカリが何か言っているけれど、それを無視して彼女の手を取り歩き出した。

 レティシア姫が何故か両手を頬に当てて赤い顔をしている。けれど最後は僕たちに手を振って送り出してくれたので、それは見なかった事にしよう。

 

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