王道なんて求めちゃいない
(……んだよ、この王道展開)
あたしは今、夕日に照らされたツルツルテカテカで白い大理石の長い廊下を歩いている。
建物のイメージはアラビアン(?)な感じ。絵画の代わりに刺繍の美しい絨毯なんかが飾られていて、周囲が砂漠ならまさしくアラビアンナイトの世界だ。だが幸か不幸か、廊下から見える光景は緑が多い。整えられた庭。小川なんかも流れていて、まるでお金持ちの豪邸みたい……。いや、実際はそれよりもっとすごいんだけどさ。
「どうしました?」
「あっ、すいません」
いつの間にか足が止まっていたあたしに気づいて、先導していた男性が振り返る。170cmちょいくらいの身長に、襟足にかからないよう整えられた赤い髪と小麦色の肌。凪いだワインレッドの瞳が銀縁の眼鏡越しにこちらを見ている。
こいつの名前はイース。昼間、路地裏でしゃがみこんだあたしに声をかけてきた奴で、この国の書士だそうだ。
「緊張していますか?」
「まぁ、そりゃぁ……」
「大丈夫ですよ。レビエント殿下はお優しい方ですから」
そう言ってにっこりと柔らかな笑みを浮かべるイース……ってお前、完全に他人事だろ!!
そう。あたしは今レビエント殿下、とやらの所へ連れて行かれる途中なのだ。殿下、つまり王子様。ってびっくりじゃね? 王子だよ、王子!!! なんでこんな事になっているこかと言えば、事の顛末はこうだ。
あたしの名前は燈里。津島燈里。今年の春に高校一年になったばかりのジョシコーセー。高校に入って初めての夏休みをバイトと遊び、そんでもって家で兄弟と共にダラダラ過すことに費やしていた。
昨日もバイトを終えて家に帰ってメシ食ってテレビ見て、寝た。そんで気づいたらお祭り騒ぎの街の中。明らかに地球人ではない人々と街の光景。てっきり夢だと思っていたのに、人ごみの中でぶつかった肩の痛みにどうやらそうではないと気づかされた。ありえない現実に混乱と恐怖で人気の無い路地裏から動けなくなってしまったあたしを見つけたイースは、どうやら体調を崩した人がいると勘違いして声をかけたらしい。初めてココで受けた親切にあたしはヤラれ、初対面の人の前だというのに泣き喚いてしまった。……くそ、こんなの兄弟達に知られたら一生の恥だ。
まぁ、ともかく落ち着くまで共に居てくれたイースにあたしにも何がなんだかさっぱり分からんこの状況を話した。そして此処に連れてこられたのだ。このアラビアンな……王城に。王城だよ? 王城。王様やらお姫様やらが居るお城!! そこでレビエント王子なる人に会えと言われたのだ。「きっとお力になってくれます」とか何とか言って。
多分此処は異世界ってヤツだと思う。こんなファンタジー展開、あたしは一輝のやってるゲーム知識ぐらいしか持っていないのだが、大抵こう言う状況って王様とかのお偉いさんが出てきて、何かの目的で召喚したのだ!とか言われるのが定番。
まさかこんな事が自分にも起こるなんて信じられないけど、ともかくあたしは家に帰る方法を見つけなきゃならない。おまけに縋る人もイースしか居ないのだ。言う事を聞くしかない。
そんなこんなでファンタジーの定番。王子様にご対面だよ、コンチクショー。