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変身は子供の大好物

 

「何それ! メチャイケてんじゃん! マジやばい! カッコイー!!」


 ピンチの時に竜化した右腕。半端な攻撃なんか無効化する鱗の鎧に、反撃すればどんな敵でも粉砕するであろう筋肉。手の先には鋭い爪も付いている。何コレ最強じゃん!!

 だが、興奮のあまりそう叫んだあたしの褒め言葉が聞こえているのかいないのか、イースは気の抜けた声を発しただけだった。


「は?」

「光輝と郁が見たらガチでテンション上がりそう!」


 あの二人なら目を輝かせて飛びつくに違いない。そんな嬉しそうな二人の姿を想像するだけであたしの表情が緩む。


「……。ご家族ですか?」

「……あー、うん。ウチのチビ達」

「そうですか」


 すると何を思ったのか、イースは人間の腕の方であたしの腕を掴み、足早に歩き出しだ。まるで少しでも早くこの場を立ち去ろうとしているかのように。いや、実際そうなのかもしれない。頭上から物が降ってくる場所なんて危ないもんな。

 あたしに与えられている客室まで着くと、やっと腕を放してくれた。その間もイースの右腕は変化したままだ。それをじっと見ていると、イースも竜化した自分の右腕に視線を落とした。


「こういう半端な竜化しか出来ない存在は嫌われるんですけどね」

「へ? そうなの?」

「えぇ」

「ふーん。カッコイイのにな」


 心底不思議に思ってあたしは首を傾げる。そもそも竜を崇めている国なんじゃなかったっけ? だったら好かれそうなもんだけど。そんな事を考えていると、くすっとイースが笑った。


「……なに笑ってるんだよ」

「本当に、変な人ですね」

「うっさい! あんたらの価値観なんか知んねーし」


 ぶっきらぼうに言って目を逸らせばポツリ、と今まで聞いた事がないような気の抜けた声でイースが言った。


「そうでしょうね。けどだからこそ、僕は嬉しかったですよ」


 あまりに色々な感情がその言葉には詰まっていて……。それだけで今までイースがどんな思いをしてきたのかがあたしにも伝わってくる。


「……。そんなに嫌がられんの?」

「まぁ。高貴な人々からすれば僕のような半端者は認めることが出来ないのでしょう。竜の血が薄い僕では王家の方々のように全身竜化する事は出来ませんし」


 竜を崇めるが故に半端なものは忌避され疎まれる。それが護国の現状。


「ばっかみたい」


 皆大なり小なり竜の血を引いているのは同じだっていうのに。


「竜を尊ぶ国ですから。仕方がありません」

「……本音は?」


 あまりに物分りの良いイースの言葉に、あたしは興味を惹かれてそう尋ねていた。見た目からして、こいつだってあたしと二つ三つくらいしか歳は変わんないでしょ? 聞き分けが良いのは彼があたしより大人だからで、けれど不満を全て飲み込むことが出来ないぐらいには子供な筈なんだ。

 そんなあたしの考えを肯定するかのようにイースはこう言った。


「竜化すら出来ない奴が人にケチつけてんじゃねーよ。バーカ」

「ぶっ!」


 あたしは声を上げて笑った。それにつられたのか、イースもいつのまにか笑っていた。

 

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