一度タイミングを逃すと難しい
「……何をしているんですか」
「へ? 何って水浴び」
分かりきった事を聞くイースに、あたしは親切に答えてやる。するとイースは何故か握った拳を震わせた。
「何を馬鹿なことを言っているんですか! 今すぐ出なさい!! ここは王城の庭園ですよ!!」
「へーい」
あたしは渋々庭を流れていた小川から上がった。先程まで川に足を浸しながら水の掛け合いをして遊んでいたのだ。今共にいる美少女、レティシアと一緒に。だって夏だよ? 暑いじゃん。そこに川が流れていたら入るでしょうが、フツー。けれど公園や山の中とは違い、ここはお偉いさんの庭だからダメらしい。
「ちぇーっ。この川観賞用かよ。つまんねぇの」
自然と出た不満の声に、イースが反応した。
「……この庭を眺める人々の目を楽しませる為に毎朝早くに庭師が手入れをしているのです。この川も、あなたの足元の花々もです」
うわっ、マジギレだよ。
真剣な顔につられて足元を見れば、そこには確かに小さな花が川に沿って植えられていた。踏んづけはしなかったものの、あたし達が遊んで撒き散らした水のせいでびちょびちょになっている。いくら草花でも水をあげ過ぎれば根腐れしてダメになってしまう。毎日欠かさず面倒を見ている人達からすれば、子供の遊びのせいでそんな事になったら堪ったもんじゃないだろう。流石にちょっと申し訳ない。
「……ごめん」
あたしが素直に謝れば、イースは「何か拭くものを持ってきます」と言って一旦中へ入っていった。こんだけ暑いんだから放っておけばすぐに乾くのに。真面目な奴。
「あーっとごめん。あたしのせいで怒られちゃった」
「ううん。楽しかった!」
無邪気にそう言う美少女にあたしもつられて笑った。
あたしの部屋に来たこの美少女、レティシアは例に漏れず鮮やかな赤い髪と小麦色の肌をしている。まず間違いなく紅の国民だ。そんな彼女と最初のうちは部屋の中で話しをしたり歌を唄ったりしていたのだが、部屋から見える庭にこの小川が流れていて入りたくなった。そこで彼女を連れ出したのだ。まぁ、まさかマジギレされるとは思っていなかったけど。
(今度会ったら謝ろうと思ってたのに……)
再会して開口一番説教されて、昨日の失言を謝る機会を逃してしまった。川に入った事に対して謝罪はしたが、本当に謝りたいのはそっちじゃなかったのに。
(それもこれもあの説教眼鏡が悪い)
最終的に全て人のせいにして、あたしはイースがタオルを持ってくるのを待っていた。




