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嫌な予感ほど外れない

 

(リオのカーニバルみたい)


 目の前に広がる光景の、第一印象がソレだった。大通りに溢れかえる人々。そのほとんどが赤い髪に小麦色の肌。そしてそんな容姿に負けないくらい派手で露出の多い衣装を着ている。

 しっかし、おにーさんは程よい筋肉、おねーさんはボンッキュッボンとスタイルの良い人達ばかり。髪が赤い人達は老若男女問わず鮮やかな刺繍の施されたパレオのような腰布を巻いている。民族衣装のようなもんか? いや、もしかしたらこのお祭り騒ぎに参加する為のお決まりのスタイルなのかもしんない。

 陽気な音楽がこれでもかとかき鳴らされ、派手な人々が踊り、その周囲を更に観客が囲んで眺め、歓声を上げている。それでもうるさいなぁ、と思わないのは人々が皆笑顔だから。“コレ”が一体何なのかは不明だが、何がしかのお祭であることは確かだ。


(あ、観客は赤だけじゃなくて色んな色の人が居るんだ)


 赤は勿論、緑や黒、青、銀など様々な髪の色をした人々が大通りの脇にひしめき合っている。まぁ、どちらにせよ派手だ。


一輝かずきのゲームみたいだな)


 周囲の建物なんかを見ると、よく一つ上の兄がやっていたRPGのような風景だった。煉瓦と木材を主材料に建てられた家屋。店舗の看板に描かれた見た事の無い文字や文様。色とりどりの布で作られた旗が飾られ、このお祭ムードを盛り上げている。


(ん? なんだ?)


 あたしが突っ立っている通りで、一際大きな歓声が起こった。一体何が来たんだ?と背伸びをして大通りを覗いてみたけれど、何せ数え切れない程の野次馬がひしめき合っていて人の壁の向こうが見えない。


(うーん。もっと端っこに移動してみっか)


 人の少ない場所へ移動しようとした時、どんっと肩がぶつかった。


「あ、すいません」

「あぁ、いや」


 ぶつかってしまったのは多くと同じ赤い髪の男性。軽く頭を下げて、あたしは人ごみをすり抜けようと歩き出す。けれど残った肩の感触の意味に気づいて――ゾッとした。


(痛い……?)


 おかしい。痛い筈が無い。だってコレは夢だ。夢なら痛みなんか感じない。あたしは今、いつものように自宅の部屋で妹のいくと共に薄っぺらな布団でザコ寝してるんだから。その証拠にあたしの格好は使い古したTシャツに中学ジャージ。今日寝た時の格好のままじゃんか。

 途端に不安にかられ、同時にお腹から気持ち悪さがこみ上げてきて眩暈までする始末。おいおい、勘弁してよ。貧血みたいな症状に、人を避けながらなんとか大通りから外れた小道にしゃがみこむ。今まで気にならなかった裸足の裏が急にジンジンと痛み出す。


(ヤバイヤバイヤバイ……)


 冷や汗が止まらない。吐き気がする。日陰になった小道の空気がひんやりとして、益々あたしを混乱させる。


(夢だよな? そうだなよな?)


 さっきまでお祭り騒ぎを見物していた高揚感は既に消え去り、頭の中にあるのは混乱と焦燥。


(もういいよ!! さっさと覚めろ!!)


 綺麗に晴れた青空も、遠くに聞こえるお祭の音も、今や何もかもが恐怖でしかない。

 その時だ。声を掛けられたのは。


「大丈夫ですか?」


 しゃがみこんだまま顔だけ上げれば、目の前に銀縁の眼鏡をかけた若い男が立っていた。先程まで沢山見かけた赤い髪、小麦色の肌、そして少し落ち着いた色味のワインレッドの瞳が心配そうにこちらを見下ろしている。人の良さそうな気の弱そうな顔をした、高校1年のあたしより2〜3コ年上っぽい男。


 夢の中の登場人物に認識されている事に絶望を感じ、ただ一人で混乱の中に居たあたしを心配してくれる優しさに苦しくなって、気づけば大声で泣いていた。

 

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