ご主人様と犬
晴れた日の昼下がり。
ご飯で満腹感を得た後の授業は、ひたすら眠気との戦争だ。
そして、この教室でただ一人、既に戦いに敗北の旗を振ろうと、途切れ途切れしか意識が無い人物がいる。
それが俺、――犬飼健二だ。
ついこないだ高校生になったばかりなのに、緊張感のかけらも無いとはまさにこの事。
最近頻繁に起こる居眠りのせいで授業が理解出来ない事も無いし、偶には休息も必要だと思う。
前には教科書を置き立てて、机に突っ伏してみれば、眠気は簡単にも俺を夢の世界へと連れて行ってくれる。
まぶたの重さには逆らわず、導かれるままにゆっくりと閉じた。
……さよなら現実、こんにちは夢の世界。
「何を寝てるんだ馬鹿者がー!」
バシッと重たい音が脳天に響きわたった。
「いったーっ!」
夢の世界への一歩手前で、教師から頭に重いチョップを受けて飛び起きた俺は、悲痛の雄叫びを上げながら立ち上がった。
「犬飼……俺の授業中に寝るとはいい度胸だな?ん?」
顔を上げれば黒い笑みを浮かべている先生。
これには顔から血の気がサーと引いた。
「いや~、お誉め頂き光栄です!」
「誉めてなんかないわ!こっちは怒ってるんだよ!」
冗談でこの場が流せるかと思いきや、火に油を注いでしまっただけだった。
非常にまずい状況だ。
先生の鬼のような面を前に、さすがに額から冷や汗が滲み出る。
「もういい、わかった。放課後、全員のノートを職員室まで持って来なさい」
「え!?待ってください!放課後は友達と遊びに……」
「何か文句でもあるのか?ん?」
無理矢理作った先生の笑顔が、ズイっと俺の顔面まで寄せられた。
「……いえ、何もありません」
「よろしい。じゃあ、頼んだぞ。あと、また寝たら仕事追加するからな」
「……はい」
最後にきちんと釘をさして、再び授業は再開された。
けれど、俺が騒いだせいでみんなの集中力は途切れてしまい、視線は黒板ではなく俺に浴びせられた。
周りの目を気にしながらも席に着いた。
斜め前に座ってる片岡さんも、俺を見てクスリと笑っている。
ああ、想いを寄せている片岡さんにまで笑われてしまった。
穴に入りたいとは、まさにこの事なんだろうな。