通り雨
新しい小説の途中で出来た副産物を勢いで書いちゃいました(^^;
「雨、か?」
そう呟いた男の右の目尻に、水玉が落ちて涙のように頬を伝う。空を見ると排気ガスのような雲が空を覆っている。
男の目に雨が刺さる。
「成央」
彼は目線を戻し、さっきまで会話をしていた女の子の名を呼ぶ。女の子はおかしそうに笑う。
「だから言ったじゃない、雨が降るって」
水滴の屋根を射つ音が次第に強くなってくる。男は持っていた蝙傘を差した。
「備えあればなんとやらってね」
男は得意げな顔をする。
「さっきトイレ行くついでに持ってきたんだ」
女の子はそれを知っていたかのように話を進める。
「で、次どこ行ったの?」
彼女の言葉で、思い出したかのように男は話し始める。
「ローマの次は、イタリアのパリに行ったんだ」
女の子は感嘆の声を上げた後、五、六回目の同じ質問をした。
「やっぱり男は背が高くて、女はスタイルのいい人ばっかなの?」 男は頷く。
「うん。ローマの人よりね、痩せてて背の高い人が多かった」
デタラメだ。この質問の度にこの男はくだらない比較をしている。
「あはは、じゃあ、よーろしあ大陸の中で一番背の高い人は、イタリアのパリの人なんだ」
女の子の無邪気な笑い声が彼の耳に届く。
「ユーラシア大陸だよ」
雨のノイズはだんだんと小さくなっていた。
「成央」
男は女の子の名前を呼ぶ。出会ってから三度目だ。「なに?」
彼女は名前を呼ばれて聞き返す。
「俺の話、聞いてて楽しいか?」
彼女の家の中から母親らしき女性の声がする。客人のようだ。
「うん、とっても!私、外の世界見たことないから。でもね!もう少ししたら外の世界が見えるようになるかも知れないの!」
女の子の嬉しそうな顔が目に浮かぶ。
「そうか、きっと楽しいよ」
母親の女の子を呼ぶ声が聞こえる。
「はーい!お母さんに呼ばれたからもう行くね。お話すっごく楽しかった!バイバイ」
雨はすっかり止んでいた。
「バイバイ」
男はそう言って後ろを向いて壁を背にしながら、ぬちゃぬちゃと自分の家に戻っていく。左手で羽を閉じた傘を持ち、右手で白い杖を突きながら。
小窓のある壁に顔を向けていた女の子は、ベッドに座りながら犬を呼ぶ。
「ヒカル!」
開けっぱなしのドアから入ってきたラブラドールは、ベッドに飛び乗る。女の子はハーネスを持ち、母親のもとへと急いぐ。
開いた屋根付きの小窓からは、ほんのり赤い空と、気持ち良さそうに流れる雲が見えた。
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