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第三話 生徒棟

スタ、スタ、スタ、スタ


清々しい朝である。珍しく小鳥の囀りが聞こえてきたので見ると、

「手前から三本目、上から二十一本目の枝の、先から五枚目の葉っぱの付け根、か。かわいいなぁ、誰にも捕まらないよーにね」


スタ、スタ、スタ、スタ


ここは楽園生徒棟の一つ、現在は一年棟となっている建物だ。楽園では、学年が変わるごとに生徒棟の名前も変化する。逆に言えば、棟の名前が変わるだけで住んでいる生徒は変わらないのだ。


「昔はクラス替えもあって、棟の入れ替えもしょっちゅうやってたなぁ。でも、制度って変化するものだからね。私としても、部屋と生徒が一致しやすくて今の制度は結構気に入ってるんだよねぇ」


コンコンコン

「朝ですよぉ」


現在は、通常一部屋につき生徒が四人で暮らしている。部屋の扉は閉まったまま。中の生徒が起きた気配もない。


「ふふ・・・、一回」


コンッ、コンッ、コンッ

「朝ですよぉーーー」


シーーーン


「にぃかぁーい」


彼女は、ニンマリと顔を歪めた。


ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ

「アゥウウゥサァアァデェェエエェスゥゥゥゥ、ィヨォォォォォオオオオオオ」

「はいすみません不起(ふき)さん、おはようございます」

「アあ、起きまシたか。きそく正しイ生活は大切でスからね」

「はいおっしゃる通りです」

「他の三人ハ?」

「はいまだ寝ていますがすぐに起こしますのでご容赦の程を」

「ああ、そうイえば編入生もいましたっけ。・・・でしたらぁ、今回は大目に見ましょう。それでは、私は次の部屋へ行きますのでぇ」

「はいありがとうございます」


スタ、スタ、スタ、スタ


不起(ふき)焉終(えんし)、年齢不詳。楽園生徒棟の管理者(生徒間での通称は棟主)の一人。生徒の生活習慣を監督しており、特に起床時間には厳しい。通常はのんびりとした性格だが、だらしない生徒に対しては・・・。


「〜〜〜」

不起さんを見送って扉を閉めると、彼女はへたり込んでしまった。普段彼女が寝坊することはない。また、万が一の時ももう一人が対応してくれるものだった。

が、今日は事情が違った。奥に並べられた布団に目を向ける。手前から、空(自分のとこ)、人、ミイラ、人。・・・そう、「万が一の時もう一人」は、現在ミイラなのである。

だが、いやだからこそ納得いかないのが、今も目の前ですやすやと眠るこいつである。


「ねぇ、層華」

(すやすや)

「いつも起きてこないけどさ」

(すやすや)

「こういう時ぐらい起きてくれたっていい気がするんだけど」

(すやすや)

「あなた早々に破那連れてどっかに消えてたでしょ」

(すやすや)

「・・・」

(すやすや)

(すやすや)

(すやすや)

「さっさと、起きろーーー」


敷布団を掴んで勢いよく引っ張ると、層華は空中に放り出され、くるくると回転し、“ミイラ”の元へ落下した。


「グゥッ」

(すやすや)

「ごめん莉子大丈夫!?」

「ゥゥゥゥゥ」

(うーん)

モゾモゾ、ドンッ

「あっ」


布団を失った層華は、ちょうど落下したところにあった布団に潜り込んだ。・・・元の主(ミイラ=莉子)を弾き飛ばして。そしてそのミイラ(=莉子)は、


ゴロゴロゴロゴロ、ゴンッ

四人目に衝突するのだった。


〜〜〜〜〜


「さて、荒天さん。書類はもうまとめ終わりましたので、楽園へとご案内いたします」


がくえん、ソウカがいて、編入対応というものがあって。気がつくと細見という先生に捕えられたようだった。一体どうなるの・・・か・・・


・・・ロゴロゴロ

ゴンッ


何かの衝突で眠りから弾き出される。目を開けると、そこには・・・


「ウゥッゥゥウウウ」


ミイラがいた。


「・・・え?」


「っ莉子!、あ・・・、破那も、大丈夫?」

「ゥウゥゥウ」

(すやすや)

「えっと、?」


見知らぬ天井、見知らぬミイラ、見知らぬ人と、あ、ソウカは知ってる。


「と、そうだ。破那は私のこと知らないか」


短めの黒髪に茶色の瞳。あの性格のソウカとインパクトのミイラとは違って、普通に見える子である。


「私は幽儘(ゆうじん)鏡花(きょうか)、1Yの学級委員長もやってるわ。よろしくね、破那」

「・・・よろしく、でもなんで私の名前は知ってんの?」

「あれ、層華から聞いてない?編入先のクラスの生徒、つまり1Yには、事前に編入生の名前を知らされてるんだよ。それに、破那はあんまり見てなかったかもしれないけど、私たち編入対応の時にもいたから、破那のことは見かけてるんだよね」

「あの時いたのって、全員1Yってこと?」

「そそ。なんなら細見先生も1Yの担当教員だから」

「へー」


あの時見かけた子は、誰も彼も優等生っぽくて。だが、第一印象がそうだったソウカも、実際は随分面白い子だった。「学級委員長」というこの子は、果たしてどうなのだろうか。

ところで、


「ウウウウウ」

「このミイラって?」

「ああ、その子は莉子(りこ)美里立(みりた)莉子(りこ)だよ。同じく1Y」

「このミイラも昨日いたの?」

「あー、いや普段はミイラじゃないから。昨日細見先生に爆砕されてこうなった」

「爆砕?」

「ウーーー」

「そう、戦車ごと爆砕。あんなにみんなで止めたのに、おかげで周りにも被害出たし」

「!ウゴー、モガモガ」

「戦車なんかで勝てるわけないって何度言ったらわかるんだか」

「ゴモゴモゴモゴモ」

「これで懲りればいいんだけどさ」

「フンフンフンフン」

「ま、無理そうだね」

「フッフーン」


ミイラ、もとい莉子は見た目よりも軽傷なのだろうか。先程まで「ウ」の連続だったのに、鏡花の言葉にずいぶん元気に反応した。ミイラに命が吹き込まれ、カイコへと変貌したかのようであった。


「でも、思ったよりも大丈夫そうだね。火だるまが出てきた時は、莉子が戦車で作ってた穴に埋葬したほうがいいのか迷ったけど」

「へ・・・ぇー?」

「まあいいや、破那も起きたし、準備して朝食行こっか」

「あれ、ソウカは?」

「もういいよほっといて。起きないもの」

コンコンコン『今、なんて言いましたかぁー?』

「冗談です今すぐ起こします、起きろ層華ぁーーー」


言うが早いか鏡花は拳を握り、勢いよく寝ているソウカに向かって振り下ろす。


ボゲン「ゴバッ」


人から出ていいのか甚だ疑問な音が二回続くのを聞きながら。

私はこの先の「楽園」生活にだいぶ期待できるようになっていた。



楽園=ガクエン

イケダチソウカって、どんな漢字でしょうか。


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