第二話 編入鬼ごっこ
「ようこそ、楽園へ」
その言葉を聞いて、私は理解した。ここは、・・・
最高に面白い場所だ、と。
しかしどうにも気になる点しかない。だが私が口を開くより、ソウカが手を引いて立ち上がらせる方が早かった。
「とりあえず、地下通路に逃げるからついてきてください」
そして、有無を言わさず飛ばされ始めた。「引き摺られる」というのならわからなくもないが、まさか高速移動によって新体操のリボンの気分を味わうとは思っていなかった。
階段を通り過ぎ、トイレに飛び込むと。右から二番目の個室に入って、そのまま壁を突き破った。そして、落下。着地の際も即座に移動を開始し、結果彼女が立ち止まるまで、私の足が地面につくことはなかった。
そして、10分ほど飛ばされ続けたあと。ようやくソウカが立ち止まり、私も言葉通りの方で地に足がつくこととなった。ああ、肘がガクガクする。
「だいぶ移動したから、ちょっと休憩です」
「・・・まさか移動で足じゃなくて右腕を痛めるとは」
「あ、ごめんなさい。今度は左腕にしますから」
「・・・うん、よろしく」
ソウカの制服は、すでに何箇所も破れていた。当然、先ほど投げ捨てたスカーフは存在しない。それでいて微笑む黒髪メガネという部分だけ切り取るならば、やはり優等生にしか見えない。
「・・・ところで、どうしてこうなったのかよくわからないんだけど。ここどこ?」
「えっと、ここは『汽水舎』って呼ばれる建物の地下、の通路です」
「ここ以外校舎見当たんなかったけど、名前ついてんの?」
「汽水舎っていうのも通称です。私もこんな感じなんだなって驚いてます」
「・・・あんまり使われてないの?」
「私が担当になったのは、今回が初めてなんです」
なんだろう、この子との会話、絶妙に噛み合わない。今になって、ソウカのさっきの学校説明を聞いておけばよかったかもしれない、と思い始めた。いったい私が聞き流していた学校説明は、どんなものだったのだろうか。
そう考える私を気にすることなく、ソウカは続ける。
「制服も支給されて、準備期間に校舎の探索もできて。やっぱり担当になれてとっても楽しいです」
「・・・準備期間って?」
「編入生が楽園に『慣れる』ための汽水舎に、担当生徒はちょっと早く入るんです」
「慣れる、ねぇ」
「それで、破那さんはもう『なれた』ので編入鬼ごっこが始まったんです」
さて、この後も絶妙にズレた会話を繰り返した。その重要部分を切り抜くと次の通りである。
〜〜〜〜〜
「編入鬼ごっこって、私が追われてるの?」
「編入対応が終わったら担当生徒は全員『楽園』本舎に連れ戻されるので。ただ捕まったら面白くない、って始まったんです」
「私だけじゃないってことね。学園本舎?って別の場所にあるわけ?」
「汽水舎は編入生が来るたび、編入対応のたびに造られるんです。昔は『楽園』本舎で行なってたらしいんですけど、規則の抑圧から解放された生徒が毎回暴れたらしくって」
〜〜〜〜〜
「ボイスレコーダーで『なれた』っていう言葉記録しさえすればいいわけ?」
「先生への証明はしなければいけないんです。担当生徒は抑圧されてるので、早く解放してあげなきゃなって」
「投げ捨ててたよね?」
「正確には、先生が証拠を確認してからが編入鬼ごっこですから。それまでは一旦解放を楽しんで、それから逃げるんです」
「先生がボイスレコーダーを回収するまではっちゃけるってことなのかな。言われてみれば静かになって・・・いや、爆発音聞こえるけど?」
〜〜〜〜〜
「他の生徒は?」
「この地下通路は、私がモグラ先輩に頼んで作ってもらったんです。編入生を誰が担当するかって、結構揉めたんですよ。あ、莉子ちゃんはみんなから反対されて、除外されてましたけど」
「へー?」
「弄栗くんにまで『戦車で逃走は無理だよ、美里立。相手はあの細見先生なんだから』って言われてて。面白かったです」
「細見ってあの優男?」
「戦車なんかで勝てるわけないですよね」
-----一際大きな爆発音-----
〜〜〜〜〜
「この道どこに続いてんの?安全なんだよね」
「伝説保持のモグラ先輩が作ったんです。大丈夫に決まってます」
〜〜〜〜〜
「追手って、細見以外にいるの?」
「足手まといになりますよ?」
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「細見…先生って何者?」
「なにって、『楽園』教師ランキング五位の先生ですよ」
「なんなのこの学園」
「ただの『楽園』ですよー」
「一応漢字聞いても?」
「楽しい園を体現していますよね」
「多分理解した」
〜〜〜〜〜
うん、この「楽園」おかしいわ。言葉はなんとか理解できるけど、全然納得できない。異常なことは、今も私の左腕を掴んで疾走し、それでいて普通?に会話を続けられるソウカを見ていてもわかるが。
さて、あれだけの猛スピードで地下道を駆け(飛ばされ)続け。上からの音も特に聞こえなくなった頃。再度休憩を挟んだ私は、「次はまた右腕で」と頼んでいた。
「ソウカみたいなのって、楽園では普通なの?」
「私は私ですよ?楽園には面白い人は多いですが」
「楽園好きなんだよね?ならなんで編入鬼ごっこなんて逃走ゲームがあるの?」
「せっかくなら、伝説になりたいじゃないですか」
「・・・さっきも出てきた気がするけど、伝説って?」
「よく達成できたなって思うのばっかりですよね」
よくわからないが、現在私は今まで経験したことのないほど高揚している。面白さの巣窟のような楽園。その生徒が言う「やりたいこと」ならば、私も協力するしかないじゃないか。
今いる地下道も、話によれば「伝説」が関係するモグラ先輩とやらが作ったらしい。改めて考えると、編入生が来るまでの短期間にこれだけの抜け道を作り上げるとは、凄まじい能力を持っているのではないだろうか。
「そうですね、とはいえモグラさんは土を掘ることだけに特化しているので。特殊効果を持った抜け道を作ることができる、というわけではないですから」
だとしても、これだけの長さを掘り抜いているのはやはり異常というべきではないだろうか。
「モグラさんは、土を掘る能力と危険察知能力が高いそうです。私は赴任してきてからまだお会いしたことがないんですよ。いつか挨拶はしたいと思っていますがね。さて、これで良し」
そして、気がつくとソウカが縄に巻かれて転がっていた。
「一時間もかかるとは、なかなかやりますね。まさかモグラさんの手も借りているとは思いませんでした」
細目細身の優男、もとい細見先生。その服は別に新品同様ではなかったが、書類手続きの時と全く変化した様子がなかった。
「さて、荒天さん。書類はもうまとめ終わりましたので、楽園へとご案内いたします」
そして、視界が暗転したのだった。
毎話バラバラに書いているので、妙なところがあっても大目に見てください。
下手したら名前が変わります。もう変わってるかも。
もし見る人がいらっしゃったら、ですが。




