第一話 編入
楽園規則その一、編入について
第一条:編入生が生活に慣れるまで、秩序ある行動をとること。ただし、・・・
「あー、つまんないの」
結局、そうなのだ。
荒天破那にとって、毎日は退屈以外の何物でもなかった。布通野市立多々野高校での日々は、本当に辟易するほど「普通」のものだった。
だから、ちょっと手を加えてみた。
「えー皆さん、おはようございます。早いもので今年も、もう半分ほど過ぎたということで・・・」
なんの捻りもない定型文、そして始まる無意味な時間。恒例の校長大演説である。この校長大演説会、毎回貧血か何かで倒れる人がでてくるものなのだ。
つまり今回も・・・
バタン、キーーン
「校長!?」
だがせっかくなので今回はちょっと趣向を変え、校長をその人にしてみようと思ったのである。
ちょっと毒ガスを仕掛けておいただけであるが、校長の話はすぐに終わることとなり、同時に破那の多々野高校生活も終わることとなったのであった。
しかし、破那の高校生活自体が終わったわけではなかった。事件から一週間後、自宅謹慎中だった破那に来たのは、「移籍通知」。彼女は、多々野高校からとある高校へ「移籍」することとなったのであった。
その高校は聞いたことのない全寮制の学校らしく、ご丁寧にも迎えの車まで来るという。
「で、期待してたのに。一体どんなに愉快な学校なんだろなーって。だってのに、」
蓋を開けてみるとどうだ。できたばかりと言わんばかりの、汚れ一つない小ぶりの校舎。ゴリマッチョでも出てくんのかと思いきや、細目細身の優男が出迎えてくる。せめて生徒は、と思ったが、新品同様きれいな制服を着た数人を見て、「終了」を感じた。
言われるがままに書類手続きをして、「それでは、担当生徒が案内しますので」と言われて出てきたのは。
長い黒髪に、知的な眼鏡。制服はやはり新品同様に綺麗な状態。イケダチソウカ、と名乗った彼女の「なんでも気軽に聞いてくださいね」と微笑んだ様子には、「ハイアリガトーゴザイマース」としか返せなかった。
「・・・こんな、つまらないを体現するようなやつ」
「あれ、なにか言われました?」
「いや別にー」
生徒の総数は、思っていたよりもずっと少なかった。案内を聞く気などなかったため適当に見ていたが、全員合わせても十数人しか見ていない。曇り一つないガラスから差し込む陽の光のもと、静かに自習する生徒たちの姿。
・・・ああ、本当につまらない。
校舎は、一階が通常教室と職員室、二階が特別教室のようだった。ただ、「実験室」だとか「音楽室」だとか付いてはいるものの、どちらも一階の教室と同じようにしか見えなかった。
一通り教室を巡り、ソウカの説明を聞き流したあと。ゆっくりと階段に向かい始めた時、ソウカが話しかけてきた。
「・・・あの、破那さんって、」
「はいなんですかー?」
「どんな高校生活を望んでますか?」
「・・・楽しい学校生活だよ。作り物じゃなく、本心から楽しめるような生活」
そう、だから叶うはずがない。なんでまたこんな整然とした場所で暮らさなきゃいけないんだろうか。
「友人と共に実りある高校生活を送るっていいですよね」
前を歩いていたソウカが足を止め、嬉しそうに振り返った。
「この学園では、本当に自分のやりたいように過ごせるんです。自らの好奇心の赴くまま、学び、遊んで暮らしていける、最高の空間なのです。破那さんどうですか、そんな生活に、・・・」
「・・・くだらない」
「えっ?」
つい、言葉が漏れてしまう。「実りある高校生活」だとか、「自らの好奇心に〜」だとか。優等生の望む高校生活なんて、私には面白くもなんともない。
「私が求めてんのは、そんな毎日平穏で幸せだね、みたいな生活じゃない。そんな変化も何もない生活面白くもなんっともないよ。私が求めてるのは、」
「毎日が爆発のような生活ですか?」
「ああもう、そっちのがまだマシだよ。そんな生活、望みのかけらもないけど」
「じゃあ、そんな生活に、なれるとしたら?」
「はっ、なれたらいい「ピッ」わn・・・え?」
私の言葉は、ソウカが突如取り出したボイスレコーダーによって止められた。
「え、一体何を」
ピッ『はっ、なれたらいい』ピッ
「いや、だから何を」
ピッ『なれた』ピッ
「?、ねえ、」
「・・・ふふ」
「・・・ソウカ?」
「よかった、成功です」
するり、とスカーフを抜き取る。そしてその片側になれた手つきでボイスレコーダーを巻き付けて。数回まわして勢いをつけると、
ド、ガッシャーン!!!
真横にあった窓ガラスに叩きつけた。
「え?」
そしてもう一周させると、割れた窓からボイスレコーダーを投げ飛ばした。
と、同時に。
「「「「「ワアァアアァアアアーーーー」」」」」
ドガガガガガガガガガ
バリンバギゴンゴゲボン
映画でしか経験したことのない轟音と、さらに映画でも経験したことのない揺れが襲ってきた。
「・・・へ?」
思わず尻餅をついた私に、さっきまでの優等生がゆったりと近づいてくる。割れた窓から吹き込む風が、その黒髪を舞わせている。彼女の顔にかかる髪はしかし、彼女の浮き立つ心をこれ以上になく表現していた。
「よかったです。破那さんも、いい友達になれそうです」
彼女の言葉は、周りの音を弾くようで、妙にはっきりと聞き取れた。
「改めまして、荒天破那さん」
そして、にっこりと笑って言った。
「ようこそ、楽園へ」
好きな時に、好きなように。
間違えてたって知ったこっちゃない。
なるようになるんだ。




