第3話「文化祭バラエティ計画」
「文化祭でバラエティやりたい」
放課後の放送室。城戸は目を輝かせながら言った。
俺は嫌な予感がした。
「バラエティって具体的にどんなの?」
「生放送っぽい感じのやつ。MC置いて、ゲスト呼んで、企画やって、笑い取る。」
「……体育館で?」
「そう。文化祭のステージ一時間貰った」
こいつ、本気で言ってるのか。
「無理だろ」
「なんで」
「俺たち二人しかいない。MCは誰がやるんだよ」
「それは俺が見つける」
「見つけるって……」
「言っただろ。俺は『面白いやつを見つけて輝かせる』のが得意なんだ。MCに向いてるやつ、ステージ映えするやつ、そんなやつらがこの学校にいるはずだ」
俺はため息をついた。
「お前、本気で言ってる?」
「本気」
「……構成は俺が考えるとして、台本も俺?」
「頼む」
「予算は?」
「一万」
「……少なくね?」
「少ない。だから金のかからない企画にして欲しい」
無茶苦茶だ。一万円で体育館一時間のバラエティなんて、普通に考えたら無理がある。
でも、面白そうではある。
校内放送の大喜利は、スピーカー越しにしか届かない。自分の周り以外は聴いてるかどうかも分からない。反応も見えない。
でも、今回は生徒や生徒の親族の反応が直に見える。
俺の構成で、何人もの観客が笑う。
……ちょっと、想像しただけで心臓が跳ねた。
「……一個だけ条件」
「なに」
「俺は絶対に舞台に出ない」
「分かってる。お前は裏方。袖で台本持って指示出すだけでいい」
「…………」
「どうする?」
「……まあ、やるだけやってみるか」
城戸はニヤッと笑った。
「よし。じゃあ俺、キャスティングしてくる。一週間で揃える」
「キャスティングなんだけど、MC以外に10人出てくれる人を集めて欲しい。基本お前に任せるけど、人前に出ても緊張しない兎に角声がデカいやつ、冷静な秀才タイプ、いつも先生のものまねしてるやつ、学校のアイドル的存在の女子は加えて欲しい」
「注文多いな…まぁ、俺に任せておけ」
城戸は放送室を飛び出していった。
俺は一人残されて、ノートを開いた。
一時間のバラエティ。予算一万円。観客は生徒とその親族。
……さて、どう構成するか。
その夜、俺は机に向かってノートを広げた。
文化祭のステージ企画。一時間。
何をやるか。
答えは最初から決まっていた。大喜利だ。
校内放送でやってるやつの拡大版。お題を出して、出演者が答える。金もかからない。シンプルで、分かりやすい。
問題は、一時間を大喜利だけで持たせられるかどうか。
同じ形式の大喜利を延々やっても飽きる。だから、パターンを変える。
俺はノートに書き出した。
◆大喜利パターン
①写真で一言
→学校の風景や日常の写真を見せて、一言ボケる
②こんな○○は嫌だ
→校内放送でやってるやつ。鉄板。
③もしも○○が△△だったら
→これも鉄板。学校ネタに寄せる。
④〇〇が〇〇に入ってきて一言
→シチュエーションを提示して、一言だけ答える。
このくらいパターンあれば、一時間は持つだろう。
次に、審査方法。
観客投票だと集計が面倒だ。手を挙げさせるにしても、数えるのに時間がかかる。
……教師に審査させたらどうだ。
審査員席に先生を五人座らせる。一問ごとに、一番面白かった回答に投票してもらう。
これなら集計が早いし、「先生が生徒のボケを審査する」という構図自体が面白い。厳しい先生が意外なところで笑ったり、ゆるい先生が辛口だったり。
お題も、学校ネタに寄せる。
先生いじり、授業あるある、部活ネタ、行事ネタ。審査員が当事者だから、リアクションが生まれやすい。
俺はノートに構成を書き直した。
◆構成案
MC:未定
出演者:未定(10名)
審査員:教師陣(5名)
1. オープニング(5分)
出演者登場、ルール説明
審査員(教師5名)紹介
2. 第一回戦:写真で一言(10分程度)
学校の風景や日常の写真を使用
各自2回答程度、審査員投票
3. 第二回戦:こんな○○は嫌だ(10分程度)
お題「こんな体育教師は嫌だ」等
各自2回答程度、審査員投票
4. 第三回戦:もしも○○が△△だったら(10分程度)
お題「もしも校長がYouTuberだったら」等
各自2回答程度、審査員投票
5. 第四回戦:〇〇が〇〇に入ってきて一言(10分程度)
シチュエーション提示
ステージ全体を使って動きのあるボケ、ものまねがウケる
各自2回答程度、審査員投票
6. 審査(5分)
審査員からの感想
7. エンディング(5分)
表彰
締め
猶予時間:5分
悪くない。いや、かなり良い。
大喜利だけで一時間。シンプルだけど、飽きさせない構成。
あとはMCと出演者だ。城戸が連れてくるらしいけど、誰になるのか。
回答者として面白いやつ。MCとして場を回せるやつ。アドリブが利くやつ。
ただ、回答を全部出演者任せにしてしまって良いのだろうか…
一週間後。
城戸が放送室に三人を連れてきた。
「紹介する。MCの立花蒼太、佐伯由衣。出演者の篠原キョウカ」
俺は三人を見た。
立花蒼太。地味な男子。背は低い。顔も普通。正直、第一印象は「こいつがMC?」だった。
佐伯由衣。ダンス部の女子。表情が明るい。いかにもリアクション要員って感じ。
そして、篠原キョウカ。
演劇部の…って、こいつ。
「あ」
篠原も俺を見て、少し目を丸くした。
「あれ、桐原くん?」
「……知り合い?」
城戸が聞いてきた。
「同じクラス」
篠原キョウカ。教室ではいつも友達に囲まれてる、派手な女子。演劇部で目立ってる。俺とは正反対の人種。
以前、昼休みに話しかけられたことがある。「なに聴いてんの?」って。あの時は適当にあしらった。
まさか、こいつが文化祭の企画に参加するとは。
「桐原くんがキラーUMAなんだ?」
「……は?」
「城戸くんに聞いた。今回の企画の構成やってるの、キラーUMAって人だって」
「おい城戸、お前──」
「名前は言ってないって。キラーUMAとしか」
「それでもバレるだろ、同じクラスなんだから」
「あ、そっか」
こいつ、天然なのか馬鹿なのか。
篠原はニコニコしている。
「校内放送、毎週聴いてるよ。キラーUMAさんのネタ、いつも面白いなって思ってた」
「…………」
「まさか桐原くんだったとは思わなかったけど」
なんだ、この状況。
俺は居心地が悪くなって、話を逸らした。
「……とにかく、構成の説明するから座ってくれ」
俺はノートを広げて、構成を説明した。
「一時間、大喜利一本でいく」
「大喜利だけ?」
立花が不安そうな顔をした。
「大喜利だけ。ただし、パターンを変える。四種類の大喜利を回していく」
「あー、大喜利王みたいな感じ?」
佐伯が言った。お笑い番組を見てるらしい。話が早い。
「そう。それを四回戦やって、ポイント制で優勝を決める」
「審査は誰がやるの?」
篠原が聞いた。
「教師五名」
「え、先生が審査するの?」
「そう。審査員席に座ってもらって、一問ごとに審査してもらう」
三人は顔を見合わせた。
「先生がボケを審査するって、めっちゃ緊張しない……?」
立花が青ざめている。
「逆だ。先生が審査するから面白いんだ。お題も学校ネタに寄せる。先生いじり、授業あるある、部活ネタ。審査員が当事者だから、リアクションが生まれる」
「あー、なるほど。厳しい先生が意外と笑ったりしたら盛り上がるもんね」
篠原が頷いた。理解が早い。
「そういうこと。審査員は城戸が交渉中。多分、田所先生、山本先生、佐々木先生あたり」
「佐々木先生って体育の?あの人絶対ノリノリで審査しそう」
佐伯が笑った。
「だといいけどな」
「台本は来週までに仕上げる。お題と、回答例と、MCの進行セリフを全部書く」
「回答例も書くの?」
「書く。『このお題にはこういう方向のボケがハマりやすい』っていう分析と、模範回答をいくつか用意しておく。本番で詰まった時の保険だ」
篠原が目を細めた。
「……それ、相当大変じゃない?」
「大変だよ。でも、やらないと本番で事故る。編集ができないぶっつけ本番の勝負だからな」
「…………」
「だから台本を信じて、思い切りやってくれ」
三人は黙っている。
「……分かった」
篠原が最初に頷いた。
「キラーUMAの台本、信じる」
「俺も、やるだけやってみる……」
立花も覚悟を決めた顔になった。
「私もー!楽しみになってきた!」
佐伯は最初から乗り気だ。
「よし。じゃあ来週、台本読み合わせする。それまで各自、お笑い番組見てボケの引き出し増やしておいて欲しい」
「了解!」
三人は放送室を出ていった。
城戸だけが残っている。
「どう?良いメンツだろ。今他の七人もある程度目星ついてるから少しだけ待っててくれ」
「……まあ、悪くないんじゃないか」
「悪くない、じゃなくて、最高のメンツだろ」
「お前が言うな」
俺はノートを閉じた。
「台本、頑張れよ」
「分かってる」
城戸も出ていった。
俺は一人で放送室に残って、天井を見上げた。
文化祭まで、あと二週間。
全校生徒を笑わせる台本を、俺が書く。
……正直、緊張してきた。
でも、ワクワクもしている。
俺の「面白い」が、体育館いっぱいに届くかもしれない。
その瞬間を想像すると、自然と口元が緩んだ。




