第2話「校内放送と始まり」
『はい、今週も始まりました!「お昼の校内放送・大喜利コーナー」!』
昼休み、放送室のマイクに向かって俺は叫んだ。
城戸玲、高校二年。
趣味、バラエティー番組を見ること
放送部部長。
顧問は、学校生活の邪魔にならないBGMを届けるという控えめな方針を掲げていて、大喜利コーナーの企画はなかなか通らなかったが、企画書を四回出し直して、ようやく勝ち取った。
『今週のお題は「こんな体育教師は嫌だ」!たくさんの投稿ありがとうございます!』
投稿ボックスには、毎週二十通くらい届くようになった。最初は五通くらいだったから、かなり増えた。匿名OKにしたのが良かったらしい。
学校を爆笑の渦で包む。俺がずっとやりたかったことだ。
ただ、自分にはお笑いの才能が全くない。だから、人の力を借りて笑いを取る作戦。
だから、校内放送で大喜利をやりたかったんだ。
ただ、相手はただの高校生。くだらない投稿も多い。でも、たまに「お」と思わせるネタが来る。
そして最近、俺がずっと気になってる投稿者がいる。
『さあ、今週のベスト回答!二年、ラジオネーム「キラーUMA」さん!』
キラーUMA。
こいつのネタは、毎週レベルが違う。
『「50メートル走のタイムでTier表を作って校内に貼りだす」──これ好き!嫌だなーーー!SS田中5.9秒!F佐藤9.2秒!とかゲームの攻略サイトみたいに貼りだされるの嫌だなぁー。でも、中学くらいまではクラス替えで先生が足早いやつ取り合いになるって聞いたことあるな。まさか先生Tier表実際に作ってたりする!?』
読み上げながら、俺は笑いをこらえてる。
構成が上手いんだよな、こいつ。ツッコみしやすいし、高校生に分かりやすいネタなんだよな。
放送を終えて、俺は投稿用紙を見返した。
二年、ラジオネーム「キラーUMA」。
学年は一緒だ。誰なんだ、こいつ。こんな面白いやついたら俺が見つけてるはずなのにな。
キラー……UMA……。
UMAって未確認生物のことだよな。
UMA。ユーマ。
──ゆうま?
名前か?ゆうまってことか?
もしそうなら、二年に「ゆうま」って奴がいるはずだ。
放課後、俺は友達に聞いて回った。
「なあ、二年で『ゆうま』って名前の奴、知ってる?」
「ゆうま?知らないなぁ……ごめん、分かんない」
「サッカー部にゆうまってやついない?」
「いないよ」
「ゆうまって奴、知らない?二年で」
「ゆうま……聞いたことないな」
「バスケ部にゆうまってやついない?」
「俺の弟がゆうまだけどまだ小学生」
「いや、うちの二年で…」
「知らないわ」
全然見つからない。
俺は各クラスを直接回ることにした。
一組。「ゆうまって名前の奴、このクラスにいる?」「いないと思う」
二組。「ゆうまって奴いない?」「誰それ」
三組。「ゆうま」「知らん」
四組、五組、六組……全滅。
なんでだ。二年に「ゆうま」がいないのか? 俺の推理が間違ってたのか?
最後に諦め半分で七組の教室で声をかけた。
「なあ、ゆうまって奴このクラスにいない?」
「ゆうま?え、いたっけな?」
近くにいた別の奴が首を傾げる。
すると、窓際の席から声が上がった。
「……俺、ゆうまだけど」
振り向くと、地味な男子が座っていた。
イヤホンを片耳につけて、スマホを見てる。教室の隅。誰とも喋ってない感じの奴。
「お前がゆうまか!探したぞ!」
「……は?なんで?」
俺は近づいた。
「ってか、なんで誰もお前の下の名前知らないんだよ」
「……桐原くんとしか呼ばれないから」
桐原。
桐原……キリハラ……キラ……
キラ+UMA。
キラーUMA。
「お前、やっぱキラーUMAだよな!」
桐原の顔が凍りついた。
「……っ!なんでそれを」
「俺、放送部なんだ!お前のネタ、毎週読んでる!」
桐原は周囲をキョロキョロ見た。クラスメイトが何人かこっちを見てる。
「……声、でかい」
「あ、ごめん」
俺は声を落とした。
「ちょっと話さない?放送室来てよ」
「……なんで」
「話したいことがあるんだ。お前のネタ、すげえ好きなんだよ」
桐原は明らかに警戒しているが、ネタが好きって言った時、明らかに顔が少しにやけたように見えた。
「誰にも言わないから。お願い、五分でいいから」
「…………」
長い沈黙。
「……じゃあ、五分だけ」
よし。
放送室。
桐原は入口近くの椅子に座った。すぐ逃げられる位置。警戒心丸出しだ。
「改めて。俺は城戸玲。放送部の部長で、大喜利コーナーの司会やってる」
「……知ってる」
「お前のネタ、毎週楽しみにしてるんだ」
「……」
「ネタいつも外れないんだよな。今週の体育教師のやつどうやって思いついたの?」
桐原は少し考えてから、ぼそっと言った。
「体育で一番わかりやすい強さの指標がゲームの攻略サイトみたいに明かされたら嫌だなってだけ……」
「それだけか?」
「体育教師は数字で評価する。タイムとか、回数とか。ゲームでもステータスが重要って共通点を見つけて、組み合わせた。高校生ならソシャゲ好きだろうし、男子は笑うだろうなって。この校内放送って女子は自分たちの話に夢中でほとんど聞いてないから男子をターゲットにしただけだ」
「すげえ……お前、そうやって毎回考えてんの?」
「……まあ」
「他にもテクニックあるのか?」
桐原の目が、少しだけ変わった。
「……まぁ、いろいろある。お題のズラしとか」
「なにそれ」
「例えば、『こんな体育教師は嫌だ。』ってお題を『こんなホストみたいな体育教師は嫌だ』みたいに自分でお題をズラして考える」
「ほう」
「シャンパン入りまーす!みたいなテンションで準備体操入りまーす!って体操を始めだす」
「なるほどな!面白い!自分でお題をズラして考えたら考えやすいのか!お前やっぱすげーな」
桐原は黙っている。でも、表情が少しだけ緩んでいる。
「俺さ、お前と組みたいんだよ」
「……は?」
「俺は『面白い奴を見つけて輝かせる』ことが得意なんだ。誰がMC向きか、誰がリアクションで光るか、どう使えば輝くのか分かる。でも俺自身は笑いのセンスないし、企画の構成も苦手。企画の流れを論理的に作るのが下手」
「……」
「お前は逆だろ。笑いを考えるのは天才だけど、人付き合いも苦手だし人前に出るのも苦手」
「……天才ではないけど、まあ笑いを考えるのは好きだ」
「その笑いのセンスを活かすなら俺と組むのが一番だ。俺がキャスティングして、お前が構成を考える。校内放送だけじゃなくて、文化祭とかもっとでかいことやりたい」
桐原は眉をひそめた。
「……俺、別に目立ちたくないんだけど」
「出なくていいよ。裏方でいい。構成だけ考えてくれたら」
「……」
「なあ、ひとつ聞いていいか?」
「なに」
「誰かに聞いて欲しかったから、大喜利のネタを俺の番組に投稿してたんだよな?」
桐原は何も言わない。
「誰かに届けたかったんだろ?お前の力を」
「……まあ」
「分かるよ。俺もそうだから。面白いこと思いついても、一人でニヤニヤしてるだけ。誰も分かってくれない」
桐原は俯いている。
「俺と組めば、少なくとも一人は共有できる相手ができる。どう?」
長い沈黙。
「……条件がある」
「お、なに」
「俺の名前、表に出さないで。キラーUMAのままでいい」
「なんで?」
「恥ずかしいから」
俺は吹き出した。
「それだけ?」
「それだけ」
「いいよ。構成・キラーUMA。匿名の天才作家、かっこいいじゃん」
桐原は、少しだけ笑った。
「……じゃあ、やる」
俺たちは拳をぶつけた。
何かが、始まる気がした。




