その3
二人で大きくなった火を囲む。
ボロボロの服を何枚か着込むことにしたが、それでも体の芯にまで寒さが浸透する。
人類がいなくなって温暖化が終わったのだろうか。
夜の寒さは以前よりも増していた。
「あー、さむさむ。服も臭いし最悪なんだけど。」
彩音は手をこすり合わせて愚痴をこぼしている。
寒さは今の俺たちじゃどうすることもできないので仕方ないことだと割り切るしかない。
それでもこれは何か対策しなければ。
「ん?」
一寸先も見えない闇の中、何かが輝いた。
「何?どうしたの?」
「あっち。なんか光らなかったか?」
二人で同じ方向を向く。
その時、再び光が灯った。
まさか、野生動物か?
背筋がぞくっとするのを感じる。もし本当にそうなら、大変だ。
どうする?武器になるようなものは…。
彩音を逃がさなければ…。うん?
彩音が立ち上がっている。そしてあろうことか光の方へ歩き出してしまった。
「ちょっと?!危ないかもしれないから待てって。」
兄の心配を無視してどんどん遠ざかって行く。
仕方がなく、焚き火の枝を一本取り出して松明代わりにして追いかける。
「健斗ー、見て見て。」
彩音は光を発しているもののそばでしゃがんでいた。
遠くからは分からなかったが光源は思っていたよりも小さそうだ。
「あのなあ、少しは警戒しとけよ。いくら肝が据わってるとはいえ。」
「えへへ、それが取り柄だし。」
流石に害はなさそうなので自分もしゃがんで光源を観察する。
小さなモニターのようなものが付いたスタンドタイプのロボットだ。モニターの上のセンサーを放つ機器が光を放っていた。
確か、一時期これが流行った時期があったような気がする。AIが搭載されており、持ち主の行動を学習してどんどん便利になっていくのが売りだったはずだ。しかし、さらに高性能なAIが搭載されたもの、四肢が搭載されたものなどが生まれるとあっという間に影が薄くなってしまった。
「どれどれ…。うごくかなー。」
彩音が状態を確認している。これでも彩音は機械の修理が大の得意だ。
親は機械をいじるのが好きで、彩音はそれに影響されたのだろう。やろうと思えば親と同じようにコールドスリープの容器を作ることだってできるかもしれない。
彩音は修理用具を持ってくるとモニターを外し、テキパキと壊れた部品を取り出しては持っていた新しい部品で埋めていく。
「こいつ、旧式の中でも一番の旧式よ。マニアの中で高額取引されてたぐらいの。」
「へえ、でもそんなのがどうしてまだ動いてるんだ。」
瓦礫の中にはかつて主人を支えたであろう残骸が転がっていた。そのどれもが動き出す気配がない。
「うーん、構造がシンプルすぎて一周回って長生きだったとか。」
そんな話をしていると、できた!と彩音が顔を上げた。
ぴっぴっぴっとモニターが点滅すると、設定画面が表示される。ひびの入ったモニターをタップして埋められそうな項目を入力していく。
その中で、時刻の更新という項目があった。
もしかしたら…と淡い期待をしながらその項目を押す。
「ピー、ようこそ、
あなたたちのニックネームを決めてください。」
「ニックネーム?」
「登録する名前だよ。その名前で呼んでくれるの。」
彩音が横から手を伸ばして設定する。
彩音は顔をセンサーで登録すると、ニックネームの欄に「あやねん」と記入した。
「ねえ。健斗の名前も私が決めていい?」
「いいけど、変なのはなしな。」
自分も顔を登録すると、あとは彩音に任せる。
すると、「あやねん様、ケンケン様、ようこそいらっしゃいました。」と登録が完了したようだった。
ケンケンか、まあ無難といったところだろう。
「最後に、私の名前を、教えてください。」
モニターいっぱいに記入欄が表示される。こいつにも名前をつけられるようだ。
「こっちも私が決めていい?」
「いや、こっちは俺が決めたい。さっきの見てたら面白そうに見えてきた。」
「えー、じゃあいいよ。」
名前か、どうしよう。言い出したのはいいが何も思いついていない。
ふと、足元に一輪の花が咲いているのに気がついた。
よく見慣れた黄色い花。セイヨウタンポポだ。
そうだ、「たんぽぽ」にしよう。名前を呼ぶたびに出会った時を思い出せるいい名前だ。
早速モニターに打ち込む。「安直すぎ。」と彩音から言われたがそっちもニックネームは安直だっただろと心の中でツッコむ。
「こんばんは、あやねん様、ケンケン様、たんぽぽが日々の生活をサポートします。」
ついにホーム画面に切り替わった。
といっても電波がないので使える機能は限られていそうだ。
「たんぽぽ、今の日付を教えてくれ。」
「承知しました。電波がないため、稼働した日数を逆算してお知らせします。少々お待ちください。」
画面上でぐるぐると粒が回り出す。
「お待たせしました。正確ではないですが、3xxx年4月1日と推測しました。」
「「3xxx年?!」」
同時に驚いてしまう。
コールドスリープしたのは2xxx年だ。
つまりたんぽぽが正しければ1000年も寝ていたことになる。一応両親から寝る時間は聞かされていなかったが、ここまで眠らされてしまうとは。
どうりでここまで荒廃してしまったわけだ。
「これは、本格的に俺たち二人で生活することになりそうだな。」
「二人?違うでしょ。たんぽぽも入れたら三人よ!」
「いやたんぽぽは人の単位で数えないだろ。」
「いやいけるって、ねぇたんぽぽ。」
「ぴぴっ、今のたんぽぽは人の単位ではないですが、1000年後には人の単位を獲得するかもしれませんよ。」
「いや、1000年後って…。」
思わず苦笑してしまった。まさか製作者も1000年後がこんなことになっているとは想像できなかったことだろう。
とにかく、たんぽぽが新しい仲間に加わったのは事実だ。なぜか、それだけでこれからの生活に期待が持ててしまう。
「たんぽぽ、睡眠用のBGMをかけてよ。」
「承知しました。それではおやすみなさい。」
焚き火に連れて帰ると、早速彩音がたんぽぽに頼み事をした。
心地いい音色が暗闇に響く。
しばらくすると、あれだけ寒いと愚痴をこぼしていた彩音が肩にもたれかかってきた。やはり音楽の効果は絶大だ。
「たんぽぽ、もう切っていいよ。ありがとう。」
「どういたしまして。」
再び静けさが戻ってくる。なんとか生き残ることができたこの1日に感謝しながらいつしか眠りについていた。
第一章完結です。読んでいただきありがとうございます!
ここからはしばらく幕間ということで単話で二人の日常が続いていきます。
ストーリーもございますので、しっかり第二章に続いていきます。こちらはもう少しお待ちください。
以上!作者からでした。




