その2
一通り外の景色を眺め終わった俺たちは、再びシェルターの中に戻っていた。
空気に触れないように厳重に保管されていたであろうプラスチックの箱がお目当てである。
開ける前からカビの匂いがする箱があるため、中身に期待は持てなさそうだ。
「あーよかった。これが無くなってたら私生きる希望が無くなってたよ。」
俺が用意した分と彩音の分、それと生活に必須なものを詰めた3箱用意してある。
これからの生活に役立てるためにコールドスリープ前に選んでおいた品を入れておいたのだ。
とりあえず、二人がそれぞれ用意した箱を開けてみる。
その瞬間、叫び声が上がった。
「わっ私のぬいぐるみちゃん…。」
黒くカビついて見るも無惨な姿となってしまっている。俺たちの寝ていた時間はこの箱の保存能力のはるか上をいく時間だったようだ。
一応この箱は最新技術で中の食べ物を100年は保つことができるはずだが。いったい俺たちはどれだけの期間眠っていたのだろうか。
それでも、外に置いてあるものよりは幾分かマシだ。
自分が用意したキャンプ用具、折り畳み式のルアー、その他ガラクタはその大部分が無事だった。
「えー、健斗のやつだいたい大丈夫そうじゃん。」
「こうなることぐらい予想しとかないとな。彩音だって使えるのも残ってるだろ。」
「そうだけど…。」
ムッとしながらも使えそうなものを広げていく。
その大部分が機械の修理用具だ。錆びついているものが多いが使えないことはなさそうだ。
いや、使うのか?
こんな世界で?
そうか、今後を見通して便利な機器を手に入れたら生活も楽になる。先行投資なのだ。そうに違いない。
いやー、少し見直したぞ。
「これで機械を修復できたら生活が豊かになるな。さすがだな。」
「えっ?これはぬいぐるみの中の腕を動かす機器を直すためのものなんだけど…。」
「は?」
「でももうぬいぐるみダメになっちゃったし、そういうことにする!ほら、もっと褒めて褒めて。」
正直に全部言ってしまった。
これもある意味さすがだ…。
適当に頭を撫でてあげてる間にもう一つの箱の中身を確認する。
丈夫そうな靴2足、サバイバルナイフ、救急箱、一つ一つ厳重に袋詰めされた食料、薬、二人分の衣服
衣服はシミのせいでぼろぼろなのでコールドスリープしてから着ている患者服のようなものでしばらくは我慢するしかなさそうだ。
思っていたよりも便利なものばかりだ。特に食糧まであるとは思わなかった。数は少ないし、安全か確かめる術はないが、おそらく大丈夫だろう。
コールドスリープ前の時代からの贈り物は以上だ。
「よし、荷物を外に運び出そう。」
「ねえ?ここで過ごしたらダメ?」
「危険だからダメだ。外で見た感じこのシェルターはでかい建物の下敷きになってる。しかも入り口がいつ塞がれるのか分からないから外で生活したいしな。」
なるべく往復する回数を減らすために箱ごと一気に外に出す。俺が2箱、彩音が1箱外に出した頃にはトンネルの入り口は半分ぐらいまで小さくなっていた。
もうこれ以上シェルターを使うのは厳しいだろう。
これからは本格的に外で生活しなければならない。
すでに太陽は傾き始めている。今すぐ、生きるために行動しなくては。
「まずは、火おこしだな。」
生活の基盤。今の俺たちに必須なものである。
太陽が沈む前に火を用意しておかなければ寒さに凍えることとなる。
しかし、ここで一つ問題が発生した。
マッチがすべて湿っているのだ。
完全に誤算だった。
ガスを使う道具は危険だから除外している。
「てことは、あれ、やるの?」
「あれ?」
「ほら、あの手で棒をぐるぐるー!てするやつ。」
「もしかして、きりもみ式の火おこしのことを言ってるのか?」
「たぶん、それ。」
まじか。
やらないといけないのか。
趣味がアウトドアな俺はこれまでに何度か火おこしをしてきてはいるが、それでもきりもみ式は使ったことがない。
時間もかかるし、体力が持たないからだ。
でも、方法はそれぐらいしかないだろう。
すぐにサバイバルナイフを使って枝を整形する。
形は思い浮かんでいるので、道具はすぐに揃った。
さあ、気合いを入れろ。
木の板に開けた穴めがけて棒を回して押し付け続ける。
後ろで彩音が応援してくれてるみたいだが、内容を耳に入れる余裕などない。
一心不乱に回す。
どれぐらい経ったのだろうか。
板が削れて木の香りが充満し始める。
それと同時に限界も近づいている。
目を血走らせてもう少しだと言い聞かせ続ける。というか、それしかできない。
ついに、手元から煙が上がり始めた。
よし!いける!
気が緩んだのか、握力の問題か、棒がずれ、穴から外れてしまった。
力を棒に入れ続けていたため、バランスを崩して前のめりで倒れてしまう。
もうダメか…。
「貸して!」
彩音が手から棒を無理やり引き剥がすと、火おこしの席を押しのけて再び始め出した。
まだ多少温度が残っていたらしく、煙がまた上がり始める。
出来上がった火種を枯草の中に入れてあげると、真っ赤な炎が上がった。
それを、組んでおいた枝に投げ入れる。
火おこし、完了だ。
「はぁ、はぁ、あーよかった。ナイスフォロー。」
「まあね。このくらいまかせてよ。あと、健斗は無理しすぎ。次からは私にもやらせて。」
「それもそうだな。あーしんど。」
立ち上がって固まった腰を伸ばす。
おじいちゃんになったの?と彩音は笑った。
さっきまでは頼りになったのに。と、こっちも笑った。
いつのまにか太陽は隠れ、火が目立ち始めていた。




