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ボクのラップっぷ!

作者: 双鶴
掲載日:2025/12/11

ケンタは五歳。幼稚園の帰り道、ランドセルよりも軽い足取りで町へ歩き出す。

「ラップっぷ!」そう叫ぶと、胸の奥からことばが次々にあふれてくる。本人はラップを刻んでいるつもり。けれど実際は、ダジャレの大洪水だ。


パン屋の前で立ち止まる。ガラス越しに並ぶ丸いパンが夕陽に照らされて黄金色に輝いていた。

「パン屋でパンパン!」


おじさんが顔を出して笑った。

「今日はパンパン売れそうだな」


ケンタは胸を張り、まるで自分のことばがパン屋を元気にしたような気がした。

「明日もラップっぷ聞かせてくれよ」

「もちろん!」


パンの匂いが風に混ざり、ケンタの鼻をくすぐる。ふわふわの食パンが並ぶ棚を見て、ケンタはつぶやいた。

「ふわふわでふわふわ!」


おじさんは笑いながら「パンも踊り出しそうだ」と言った。その言葉にケンタの胸はさらに弾んだ。


---


ポストの赤い口を見つけると、ケンタは叫んだ。

「ポストでポッと!」


郵便屋さんが手紙を入れる瞬間、ほんとうに音がしたような気がする。

「お、いいリズムだ」

「手紙もラップにのせて届けたいな」


ケンタはさらに調子に乗り、胸がドキドキと高鳴った。ポストの赤が夕陽に染まり、まるでステージのライトのように輝いていた。


---


電柱の上ではスズメが鳴いている。

「電柱でチューチュー!」


通りすがりのおばさんが声をかける。

「よく思いつくねえ」


ケンタは照れながらも次のことばを探す。心の中でつぶやいた。

「ぼくのラップっぷ、広がってる!」


電線の影が地面に伸び、まるで五線譜のように見えた。


---


空を見上げると、雲がくるくる回っている。

「雲でクルクル!」


犬が駆けてくる。

「犬でドンドン!」


川の水面がきらめく。

「川でカワイイ!」


ケンタはつぶやいた。

「ほんとに踊ってるみたいだ」


川辺の草が風に揺れるのを見て声を重ねる。

「草でクサクサ!」


夕陽が水面に映り、赤と金の帯が流れていくのを見て、胸がじんわり温かくなった。


---


八百屋の前でケンタは叫ぶ。

「やおやでやおや!」


店のおじさんが返す。

「野菜もやおやお元気だ」


トマトが赤く光り、キャベツが丸く並んでいる。おじさんは「君の声で野菜も元気になる」と笑った。


魚屋では声を張る。

「さかなでさかなさ!」


氷の上の魚がきらりと光った。魚屋のおばさんは「魚も歌ってるみたいだね」と返した。


公園のすべり台にのぼれば叫ぶ。

「すべりだいでだいすべり!」


子どもたちが笑って真似をする。ケンタは胸を高鳴らせた。

「ぼくのラップっぷ、広がってる!」


---


図書館の前では声を響かせる。

「ほんでほんほん!」


静かな建物が一瞬だけ楽しい舞台に変わる。司書さんが微笑んで「本も踊り出しそうね」と言った。


花屋の前では叫ぶ。

「はなでハナハナ!」


色とりどりの花が拍手しているように見える。花屋のおばさんは微笑んだ。

「花もあなたの声に合わせて咲いているみたい」


駄菓子屋では声を張り上げる。

「だがしでだがしし!」


ラムネの瓶がカタカタと踊る。おばあさんが笑う。

「よく思いつくねえ」


ケンタは照れながらも次のダジャレを探す。外では子どもたちが真似をして遊び始める。

「ラップっぷ!」


バス停では叫ぶ。

「バスでバスバス!」


停まったバスのドアがリズムを刻むように開閉する。乗客の一人が「君の声でバスも歌ってるみたいだ」と笑った。


---


季節は秋。落ち葉が風に舞う。

「はっぱでハッハッ!」


冬になれば叫ぶだろう。

「ゆきでユキユキ!」


春には声を響かせる。

「さくらでサクサク!」


夏には鳴くにちがいない。

「セミでセミセミ!」


ケンタのラップっぷは季節を越えて続いていく。冬の朝には白い息を重ねる。

「いきでイキイキ!」


春の桜並木では声を響かせる。

「さくらでサクラサ!」


夏の蝉の声に応えた。

「セミでセミセミ!」


町全体がケンタの歌に包まれる。


---


夕暮れが近づく。空はオレンジから紫へと変わり、町の影が長く伸びる。ケンタは大きな声で叫ぶ。

「ラップっぷ! ラップっぷ! ぼくのラップっぷ!」


世界は変わらない。けれど、ケンタの心は満ちていく。ダジャレはただの遊びじゃない。ケンタにとっては、町を探検する冒険の歌なのだ。


---


家に帰り、ケンタはつぶやいた。

「今日のラップっぷ、最高だった」


夕ごはんの匂いに包まれながら、ケンタは眠りにつく。夢の中でも、ダジャレはあふれていた。町も空も、ぜんぶがケンタのラップっぷにのって踊っている。


パン屋のパンは太鼓になり、ポストはマイクに変わり、川はライトのように輝いた。町全体がステージになり、みんなが踊り出す。ケンタのダジャレは町を包み込み、夢の中で世界を照らしていた。観客は笑い、子どもたちは声を合わせ、大人たちも手拍子を打つ。ケンタは胸の奥で思った。


「ぼくのラップっぷは、みんなのラップっぷだ」


その瞬間、夢の町はひとつの大きな歌になった。


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