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2.前世と今世

 ゆらゆらと、闇の中を揺蕩っているような気持ち悪さ。絶え間ない痛みに腕を伸ばせば、ふわりと甘い香りがした後、こめかみの痛みが引いていく。


 何も考えられないほどの鋭い痛みから、消えはしないものの耐えられる痛みになったことで、頭が動き出したらしい。


 次の瞬間、私は、前世の『私』__身を乗り出し、テレビを見つめている幼い『時高(ときたか)汐織(しおり)』の背中を見つめていた。


 画面に映し出されているのは、ゾナ・フロンティアの23話。アルバートが、命を落とす回だ。


『俺は、今度こそ守ると、決めているんだ……!!』


 テレビから発される、眩い閃光と爆発音。幼い『私』は、小さく肩を揺らして。一拍おいて、何が起こったかを理解し、小さく声を漏らした。


「えっ__」


 がたん。『私』が握りしめていたリモコンが落ちて、床を転がり、消えた。


「なんで__」


 プログラマの父と化学系研究者の母を持つ私は、ロボコン優勝経験がある父の影響もあり、幼少期からロボットが好きだった。


 だが、小学生になったばかりの私はロボットが好きなだけで、将来はケーキ屋さんになりたいと思っていた。


 この話を、見るまでは。


「エネルギー、しげん……。でんきとか、ガスとか、ストーブのやつ……」


 アルバートの死に衝撃を受けた『私』は、アニメを見直し、どうすればアルバートが生き残れるかを幼いなりに考えた。


 事前に、自分が死ぬことを知っていたら。主人公のように、特別な機体に乗っていたら。その戦いを避けられたら。


 そもそも、戦争が起こっていなかったら。


 子供のやる気は、意外と侮れないもので。『どうしたら良かったのか』を考えた結果。一週間後、最終回の放送が終わる頃には。


「わたし、けんきゅうしゃになる」


 そう、決めたのだ。『私』の姿が、変化していく。


 小学校に上がってからは、夏休みの自由研究は全力で。算数と理科は勿論、国語と工作も頑張った。地名を覚えるのは、少し苦手だったけど。


 中学生になって、彼以外の『推し』ができても。ロボットもの以外の、別のアニメを好きになっても。その目標は変わることなく。


 高校で理系を選択し、国立大学の工学部に進み。大学院を出て、宇宙関係の研究職について。


 宇宙空間で作業を行うロボットについて研究を、していたのだ。


 ザザザ、とノイズ音が混じったかと思うと、再びテレビの画面が明るくなった。青い背景に幾つもの文字。ニュース番組だろうか。


『__政府は、化石燃料への過度な依存が経済的・社会的リスクを高めていると指摘し、再生可能エネルギーや代替燃料の迅速な導入を呼びかけています』


 座っていた『私』が、立ち上がる。白衣を纏い、何かを手に持ったまま、少し高い位置に移動したテレビを見つめている。


『政府報道官は、“技術者・研究者と連携し、持続可能なエネルギー転換を加速させる”と述べました』


 なんてことない、ニュースのはずだ。しかし、聞いている私の背筋に怖気が走る。テレビを見つめる『私』は、まだ気付いていないが、確か、この後。


 ニュース映像がスタジオから切り替わり、白い無機質な建物__『私』の、職場が映し出される。


『一方、宇宙開発研究所は、燃料の新規供給源を探索する“外惑星資源再開計画”を本日正式に発表しました。宇宙空間における資源調査が、今後のエネルギー戦略の柱として期待されています』


「そういえば、生中継で説明するって所長が言って……」


 所長が、研究について紹介を行なう際に若手女性研究者として『私』の名前と成果が上がり、その結果。


 学会の講演に行った際、宇宙開発に反対する過激な人物によって刺されたのだ。


 海外には過激な環境保護活動家がいるとは知っていたが、まさか自分が、と思ったのを最後に、『時高汐織』の記憶は途切れたのだ。


 テレビからは、女性研究者が刺されたニュースが流れ。その手前に、白衣を赤く染めた『私』が倒れている。


 そこで、本来なら終わるはずだった。


 だが、何故だか『私』には再び人生を歩む機会が与えられ、この世界、ゾナ・フロンティアの世界に生まれ変わった。


 いつのまにか、足元の体は消え、“私”の目の前にテレビが移動している。少し長めにノイズ音が鳴り、画面が切り替わる。


『宇宙連合機関は本日、トキタカ・インダストリーから宇宙空間用作業ロボットを供与されることを正式に決定し、その旨を発表しました』


 トキタカ・インダストリー。今の“私”にとっての実家である。偶然か、神の采配か、転生しても私の名前は変わらなかったようだ。


 元々、輸送機を主に製造していた会社が、何故宇宙空間用ロボット、と思うかもしれない。


 が、その辺りは地球と事情が違う。


 エメリオスの表層は金属製の砂で覆われている。石英質の岩盤の下、光が透ける区域で人が暮らしてきたのだ。


 そんな惑星において、輸送機には機密性が求められる。その技術を転用すれば、宇宙にも対応できる、と当時の社長は考え、堅実に技術を積み重ねてきたのだ。


 アニメ内で宇宙連合機関側の機体を作っている会社は明かされなかったが、今は、私の実家だったことがわかる。


 そして、士官学生でありながら類稀な能力を認められ、トキタカ・インダストリーから専用機を贈られた人物が、アルバート・グリュードラーなのだ。


「…………話したことが、あった、なんて」


 半年前。専用機を贈る式典の際に、『オッサンより同い年の女子からの方がいいだろう』なんて言い出した父の代理で機体のキーを渡したことがあったのだ。


 以降、アルバートのことが気になるようになり、頻繁に訓練区域を見に行くようになったのは、思い出していなかったとはいえ『汐織』の記憶があったからか、それとも、別の要因もあるのか。


 ともかく、記憶が混濁していたとはいえ、推しとの想い出を忘れていたなんて。特に、同じ学年であるという超重要な事実も忘れていたことが問題だ。


 学年が同じなら、アルバートが徴兵されるまでの時間は残り一ヶ月から一年弱。


 直接的な接点も殆どない現状、アニメの未来を話したところで信じてもらえるはずもなく。技術面で支えようとも、学生であるため、まだ実家の仕事には関わっていない。


 ならば、戦争の直接的な原因を排除すれば、戦いを防ぐことができるのではないか。それがダメでも、時間稼ぎくらいはできるだろう。


 早速、『汐織』の記憶を呼び起こそうとする。


 しかし、目の前にあるテレビ画面はから一色を写し続けており、首を傾げながらも、何かできないかと、テレビに手を伸ばす。


 が、テレビに触れるより早く、急に体が重くなった。


 パタン、と自身の手が柔らかいものに落ちた音。わずかな衝撃。ついで、鼻に届いた消毒用アルコールの匂い。


 瞼越しに透ける光に気付き、ゆったりと目を開ける。


「医務室……?」


 カーテンで区切られたベッド周りの空間。横を見れば、椅子に腰掛けたまま寝ているベラの姿があった。


 きっと、彼女がここまで連れてきてくれたのだろう。椅子で寝ていては体を痛めるし、起こして礼を言おうと、肩に触れた、その時だった。


『__宇宙連合機関は、老朽化したセラディア外縁居住区群をエネルギー負荷の増加を理由に来期から段階的に廃止することを発表しました。居住者は新設区画に移住予定ですが、現地市民団体からは反対の声が出ています』


 おそらく、部屋の外で報道されていたであろう、緊急ニュースが。異様に、鮮明に、耳に届いた。

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