技術的特異点国家の成立と崩壊に関する分析報告
序論
いかなる政治共同体の歴史的展開においても、その成立過程には、将来的な構造的脆弱性の要因が内包されることは、歴史的分析においてしばしば指摘されるところである。本報告書は、かつて上毛地方に存在した政治体、通称「グンマー帝国」の成立から崩壊に至る全過程を対象とし、その栄枯盛衰の諸要因を客観的かつ多角的に分析することを目的とする。当該政治体の事例は、単一の地域における権力構造の変遷に留まらず、技術を統治の絶対的基盤とし、合理性を最高規範とした社会システムが、内包する矛盾によっていかに自己崩壊へと至り得るかを示す、普遍的な研究対象として極めて高い価値を有すると考えられる。
当該政治体が形成される以前の国際社会は、「全球的相互依存」と呼ばれる、高度に複雑化した供給網によって特徴づけられていた。化石燃料という有限のエネルギー資源を基盤とするこの文明形態は、平時における経済効率を最大化する一方で、システムの一部に発生した障害が全体に波及するという、構造的な脆弱性を本質的に内包していた。西暦2034年に中東地域で発生した軍事紛争は、このエネルギー供給網に対して回復不能な物理的損傷を与え、従来の国際秩序を維持していた前提条件を根底から覆すに至った。
エネルギー供給網の途絶は、かつて日本国と呼ばれた島嶼国家を含む、多くの国々において連鎖的な社会機能不全、通称「大日本マラリア」を誘発した。これは生物学的病原体によるものではなく、社会という有機的システムを構成する信頼と協力の結合が、資源の欠乏と社会不安によって不可逆的に解体されていく、システム的な崩壊現象であった。都市機能は停止し、法治は実効性を喪失、社会は生存を巡る原始的な闘争状態へと回帰した。
しかしながら、この広範な社会崩壊の潮流において、関東平野北西部に位置する上毛地方は、例外的な状況を呈した。同地は、先駆的な技術開発により、化石燃料への依存から完全に脱却し、地熱という恒久的な域内エネルギー源の掌握に成功していた。さらに、遺伝子工学を応用して開発された「超蒟蒻」によって、食料の完全自給体制をも確立していた。エネルギーと食料という、文明存立の二大基盤を自給するこの地域は、外部世界の混沌から隔絶された、安定した秩序圏を形成するに至った。
本報告書の目的は、この特異な環境から成立したグンマー帝国が、いかにしてその統治体制を確立し、「パクス・グンマ」と称される安定期を現出させ、やがて「糖蜜病」と呼ばれる未解明の生態学的異常現象と、それに伴う社会内部のイデオロギー的対立によって崩壊へと至ったか、その全過程を、客観的資料に基づき再構成し、その歴史的意義を考察することにある。