独白5 イレギュラー
宇宙にいる何者かへこのメッセージを送る。
我が名は魔王ヨクラトール。神によって生み出され、惑星テアトロンの支配者である。
「デミデスタよ、もう一度申してみよ」
「……ガビリオが人間にやられたと思われます」
今、デミデスタが我の前におるのだが……
ガビリオとは四天王の次点、つまりデミデスタの次に実力がある者である。
それが人間に敗れたというのだ。
「今の勇者はミーナのみ。それもビレアを超えたばかりではないか」
「その通りです。つまり、勇者ではない者にやられたことになります」
ガビリオの居城は人間の王国の1つ、『中央国家コラプティオ』の中にある。
メモリデス城と辺境国ビレアの中間地点に位置する国家で、我が人間を倒す前に、最も発展し、賑わっておった場所だ。
「ふむ…しかし、あの地域の我が軍は、かなりの手練れのはず」
「はい。勇者を打倒した者も複数おります」
「その地域で、いきなりガビリオを倒すような人間が現れた、と」
「おそらく」
おそらく?
確証がないのはどういうことなのか。
「そういえば、副官のミッスイはどうした?」
「…死体で発見されました」
「ミッスイが?あやつまで人間に殺されたと?」
「おそらく」
「デミデスタよ。おそらく、とはどういう意味だ」
「…ラボール城の魔王軍が全滅していたためです」
全滅…?
ミッスイも含めて全滅…?
勇者ミラリスですら、ラボール城の精鋭を全て倒すことはしなかった。
それが全滅とは余程のことだ。
しかも、魔王軍を全滅させたとなると、内部闘争の可能性も低い。
全員を殺すメリットが何もないからだ。
となると、人間である可能性が高いのだが…
「ラボール城を滅ぼした者が何者で、目的が何かを知りたいところではあるが…その様子だと、不明なのであろう?」
「はい。ラボール城は、もぬけの殻。誰もおりませんでした。ただ…」
「…申してみよ」
「目的の手がかりはあります」
そう言って、1枚の紙を差し出した。
紙には人間の文字が書かれていた。
「デスメロディをコラプティオ神殿に連れてこい…とな?」
「デスメロディを指定しているということは、執行された者の関係者ではないかと」
「ふむ。デスメロディはコラプティオ地方の執行者であったな。確かに、その線はある」
デスメロディはすでに我の配下ではなく、ミーナとなったあやつを連れて行くことはできぬであろう。
だが、この紙を書いた者の真意は気になるところ。
もしかしたらミーナにとってよい刺激になるやもしれぬし、よりよいドラマが起きるやもしれぬ。
「よかろう。我が行こう」
「ま、魔王様が!?」
「デスメロディはおらぬのだ。かといって、ガストールを向かわせる訳にもいかぬ。であれば、我が行くのが筋であろう?」
「しかし、魔王様にもしものことがあっては…」
「もしものことが、あると?」
デミデスタが硬直し、緊張したのがわかる。
心配性なのは悪いことではないが、しすぎるのも考え物であるな。
「申し訳ありません!」
「冗談だ。気にしなくてよい」
それだけ言い、杖を持ち玉座から立ち上がった。
「よいか、相手の実力と目的が掴めぬ。お主はついて来ぬように」
「…かしこまりました」
予想外のことは起こるものであるな。
さて、相手の目的は何か。
相手は何者なのか。
見極めに行くとしよう。
ふむ、今日はこんなものかな。
誰とも知れぬ者よ、また機会があれば聞くがよい。
それではな、何者かよ。