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独白2 配属革命


宇宙にいる何者かへこのメッセージを送る。



我が名は魔王ヨクラトール。神によって生み出され、惑星テアトロンの支配者である。



惑星テアトロンには、5つの地域で構成された我らの王国メモリデスと、人間たちの7つの国が存在する。


我は先程、人間の王国の1つ、辺境国ビレアの国王と魔道通話をしていたところだ。


内容はこうだ。


「ヨクラトール様、この度、新しい勇者が旅立ちました」


「ほう、今回の勇者はどのような者だ?」


「今回は女性の勇者です。兄の仇を討つのだと、強い意志を持って旅に出ました」


「女とは珍しいな。で、兄とは?」


「……勇者ミラリスでございます」


「ほう……あやつはビレアに戻っておったのか」


「はい。魔族化が解けた後、ミラリスの強い願いもあり、ビレアに連れ戻しました」


「ミラリスか……やつは強かったな……」


「ヨクラトール様と唯一見えた勇者にして、人類の希望。彼が死んでから、我々が再び希望を持つまでに随分かかりました」


「実力もさることながら、人柄も素晴らしかったのう。あのガストールへの説得、見事であったわ」


「ガストール殿はその後……?」


「やつもやつで思うところはあるようだが、今は四天王を辞めてメモリデス城で四天王のアドバイザーをしておる」


「そうですか……」


「あやつも寂しいのであろう。まあ、また強き勇者が現れれば、奮い立つであろう」


「承知いたしました」


「報告は以上か?」


「はい。一応、補足しておきますと、今回は出発の支度金を50Gとしました」


「今回はまた、思い切って安くしたのだな」


「はい。何度も試しましたが、やはり支度金を多く与えた勇者は離脱率が高いですから。ミーナは復讐心で勇者になった女。支度金などで影響は軽微でしょう」


「ふむ。よろしい。ではまた、何かあれば連絡せよ」


「はい、失礼いたします」


新しい勇者が誕生した。


勇者とは、我を倒すべく人間の国から派遣される代表の総称である。


いつからか、人間たちがそう呼び始めたので、そのままその名を使っている。


さて、前回も話したこの世界のルールを覚えているだろうか?


『魔王軍が堕落せぬよう、魔王軍と人間国の間には一定の緊張を保つこと』


これは方便であり、その実は我をドラマチックに殺すべく、人間の刺客を我が元に到達させるためのルールなのだ。


人間側は人間の代表を常に我が魔王軍に送り込み、魔王軍はそれを迎撃する。


それにより、魔王軍は堕落せず、人間側もそれを実行できるだけの一定の平和は担保される。


人間の集落を魔王軍が襲うことは禁忌とし、魔王軍は専守防衛を徹底。


その代わり、集落以外にいる人間はどのように扱ってもよいことにしておる。


ビレア王国はメモリデス城から最も遠い人間の王国である。


故に、この周辺には恐ろしく弱いモンスターしか存在していない。人間が棒切れで叩くだけで息絶えるような、脆弱すぎるモンスターである。これらのモンスターを相手に人間は経験を積み、勇者という代表候補が生まれる仕組みになっておる。



これには理由がある。去る魔王歴5年。我は右腕であり、側近のガストールを玉座の間に呼び出した。


あの日は、城でパーティーが開かれ、我が配下共が興にうつつを抜かしておった日だった。


「ガストール参りました。何用でしょうか」


「ガストールよ、人間の代表共はどのような状況であるか?」


「わはは、人間共は弱い弱い。各王国には最強クラスのドラゴンを5体ほど配置し、集落から出てくる人間を一網打尽にしております」


「ほう、それでは、人間など、まるで魔王軍と戦うレベルにならぬであろうな」


「まったくです。私たち魔王軍の圧倒的な力に、人間共は絶望しておりますわ」


「で、お主たちは連日パーティーに興じておると?」


「いやはや、毎日が戦勝日で困ってしまいますな。わはは!」


「……ガストールよ……この世界唯一のルール、忘れてはおるまい?」


ここで言葉を止めたとき、ガストールの表情が強張った。まったく、あやつはよく頭が回る。


「『魔王軍が堕落せぬよう、魔王軍と人間国の間には一定の緊張を保つこと』、であります」


「ガストールよ、問う。堕落とは何だ?」


「……研鑽を怠り、成長なく、地に落ちていくことと考えます」


「ガストールよ、重ねて問う。一定の緊張とは何だ?」


「……互いが拮抗しており、勝敗や成否がわずかなバランスで崩れる状態のことと考えます」


ここまで言ったところで、ガストールは土下座を行った。自らの首を差し出すことで最大級の謝罪の意を示す行為だ。


「申し開きございません。全てはこのガストールの責任。どのような処分も」


「まだ最後まで話しておらぬぞ。先回りするでない」


「しかし、このような状況を、5年も……私は死罪に値します!」


「待てというに。まったく真面目すぎるのだ、お主は」


我は玉座を立ち、ガストールに背を向けた。


「して、何がいけなかったと思う?」


「……人間が育つ前に狩りすぎたのではないかと考えます」


「妥当であるな」


「しかし、魔王様を危険に晒したくはありません」


「そこだ。そこが問題だ。よいか?我が安全すぎるということは、緊張感を生まないこととなる。我を脅かす存在を生みつつ、倒すことが緊張維持に繋がるのだ」


「つまり、育てて収穫するようにせよ、と?」


「そういうことだ」


「では……このような作戦はいかがでしょうか。メモリデス城の周辺地域は強いモンスターだけで固めます。そして、城から遠くなればなるほどに、弱いモンスターだけを配属する。これにより、メモリデス城の安全は保ちつつ、弱いモンスターの地域で人間が育つようになります。もしかしたら、人間もだんだんと強くなってメモリデス城まで進行するようになるかもしれません」


「ふむ、しかしそれだと、メモリデス城付近で緊張感がなくなるのではないか?」


「いえ、そこは大丈夫です。この配属はすなわち、堕落し、実力が落ちれはメモリデス城付近にはいられなくなることを意味します。そこを周知徹底すれば、生活維持のために自己研鑽をするようになるでしょう」


「よかろう」


我は玉座に座り直した。


「その配属で行くことにしよう。各方面へ伝令を出せ」


「はっ」


ガストールは立ち上がって部屋を出ようとしたが、それを我は手で制した。


「ガストールよ、ビレア城攻防戦を覚えておるか」


「もちろんです。私はあの戦いを生涯忘れないでしょう。人間共の最後の抵抗勢力を倒すべく、私と魔王様が指揮し、最も過酷だったあの戦いを」


「やつらは強かったな」


「はい。ですが、あのときの勝利が、私にとって最大の誉れです」


「ガストールよ。我はな、同じような興奮を今の魔王軍の者共にも味わってほしいと思っておるのだ。強い興奮や誇りというのは、より困難な状況を超えてこそ生まれる。それを、若い連中にも経験してほしいのだ。危険は無論あろう。だが、危険あってこそ、喜びがあるのだ」


「魔王様……このガストール、必ずや緊張を生み出してご覧にいれます」


「うむ、任せる」


力強く話すガストールをじっと見ていた。


すまぬ、ガストール。


我は勇者によって倒されることを望んでおるのだ。


それはすなわち、お主もそれによって死ぬ運命であるということ。


今の命令は、死に近づくための命令なのだ。


何を想ったのか、ガストールは立ち上がると我をじっと見て告げた。


「いつも私たちのことを大事に想っていただきありがとうございます!」


違う。違うのだ、ガストールよ。

我は……違うのだ。

…………



ともかく、このようにして、後に配属革命と呼ばれたモンスター配置は完成した。


城から最も遠く、モンスターが弱いビレアは勇者の産地となり、ここから数多くの勇者が魔王打倒を掲げて旅立つこととなったのだ。


それにしても、ガストールか。


ミラリスが死んでから10年。久しぶりに、少し話した方がよいかもしれんな。


ふむ、今日はこんなものかな。


誰とも知れぬ者よ、また機会があれば聞くがよい。

それではな、何者かよ。

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