独白19 メロとお姉ちゃん
宇宙にいる何者かへこのメッセージを送る。
我が名は魔王ヨクラトール。神によって生み出され、惑星テアトロンの支配者である。
先程、デストーンから連絡があった。
リリリスが単独でデスメロディに会いに行ったと。
先日、デストーンとリリリスにはファクルタスの拠点、レイク城の守護を任せた。
そこで勇者ミーナ、大魔法使いステラと戦ってもらおうと思っておったのだが…
リリリスは「たたかうまえに、メロとはなしておきたい」と言って出て行ってしまったとのこと。
デスメロディに会うのはよいが、ステラと騒ぎを起こさぬだろうか。
カモコウモリのテストを兼ねて、あやつらが接触するところを確認しようと思っておったところだ。
そろそろ接触するはず。
ミーナ周辺のカモコウモリにアクセスしてみるとしよう。
—----
ふむ、ミーナとステラは昼食中か。
焚火で何やら肉を焼いて食べておるわ。
今は妨害がされていないのか、見ることができるようだ。
「めろーーーーーーーー」
声が響き渡る。
ミーナは周辺を見回す。
ステラは声を聞くや否や、魔法の剣を6本、周辺に展開した。
「ちょ、ちょっと、ステラ兄!どうしてそんなに警戒してるの?」
「あの声は…危険だ…!」
「危険かなあ?そんな感じじゃなかったけど…」
「魔王軍の執行者の声だ。名前は何て言ったかな…恐ろしく、しつこい相手だったんだ」
「そっか、ステラ兄、会ったことあるんだっけ!」
ミーナは手に持っている肉を一気に口に頬張った。
ステラは魔法剣を浮かせたまま、周囲を警戒しておる。
「あ、ゆうしゃみーつけ」
木陰から出てきたリリリスを、ステラの剣が真っ二つに切り裂いた。
正確には、リリリスの分身を、だ。
「ちょ、ちょっと、ステラ兄!殺さないんじゃなかったの?」
「あれは分身なんだよ。仕留めておかないと、大量の分身に追い詰められる」
「分身…どうしてここに?」
ミーナが腕組みをして考え込む。
あやつはデスメロディと記憶を共有しておる節がある。
リリリスであることは気付きそうなものだが…
次の瞬間、ステラは魔法剣を周囲に拡散させ、木を5本切り裂いた。
木の陰から、5人のリリリスが一斉にステラに襲いかかる。
ステラはそれぞれの魔法剣を独立して操り、ミスラ流剣術を繰り出した。
リリリスの分身はそれぞれが持っている『生死分鎌』でそれらを受け止め、はじき返した。
別の場所から、リリリスの本体がステラに飛びかかる。
ステラはすかさず、溶岩の盾を自分の前に展開した。
溶岩盾。
相手の攻撃を防ぐだけでなく、触れた相手を焼くことも可能な攻防一体の魔法盾。
リリリスは溶岩の盾を生死分鎌で簡単に切り裂き、ステラにも鎌を振り下ろした。
ステラはもう1本残っていた魔法剣でそれを受け止める。
「久しぶりだねぇ。大魔法使いステラ。わたしの得物」
「君のような実力者が、ファクルタスで何してるんだい?」
「ステラ。今はあんたに用はないの。メロと話に来たんだから、邪魔しないでくれる?」
「……リリリスお姉ちゃん?」
ミーナがリリリスを見つめている。
リリリスはミーナを一瞥した。
デスメロディと同一の存在。勇者ミーナを。
静かな森の中で、リリリスの分身とステラの魔法剣がぶつかり合う音が響き渡る。
「ミーナ…だっけ?わたしはメロにあいたいの。メロをだして?」
「メロ…デスメロディのこと?」
「そう。わたしのたいせつないもうと。あいたいの…」
「ミーナ!聞く必要はない!」
「ステラ!邪魔するのか!」
リリリスはステラの魔法剣を渾身の一撃で弾き飛ばした。
同時にリリリスの分身が1体魔法剣で切り裂かれた。その分身と対峙していた剣が素早くステラの元に飛翔し、リリリスの鎌を受け止める。
「待って!ステラ兄!」
ミーナはそう叫ぶと、自らの姿を魔族に変化させた。
デスメロディの姿に。
「リリリスおねえちゃん…」
デスメロディの姿を見たリリリスは、もう1体分身を新たに出し、それをステラと対峙させた。
同時に、デスメロディに駆け寄って抱き着く。
「ああ、メロ…メロだ。ほんとうにメロだ…」
「おねえちゃん…もしかして、心配かけちゃった?」
「そんなもんじゃないよ!しんだと…おもって…かなしくて…つらくて…」
「…ごめん。おねえちゃん」
「いいの。いきてたから、いいの」
その姿を見て、ステラは魔法剣の展開を止めた。
同時に、リリリスの分身は全て崩れ去った。
「どうやら、僕を狙ってここに来た訳ではないみたいだね」
「今は…ね」
「なるほどね…ミー…いや、デスメロディ。ゆっくり話すといい。僕は焚き火のところで待ってるから」
「ごめんね、ステラに…ステラ」
ステラは焚き火の側に戻り、食事を再開した。
その動作をリリリスとデスメロディが見つめる。
リリリスは鋭い目で、デスメロディは優しい目で。
「というか、リリリスおねえちゃん!なんでここにいるの?ここ、ファクルタスだよ」
「メロがいきてるってきいて、あいたくて、あいたくて…パパに、ほんとうか、きこうとしたの。そしたら、あってくれなくて…これはホントだなって…」
「わたしのことを?誰に?」
「デストーンだよ」
「デストーン…って、あのデストーン?」
「そう。ビビリのデストーン。よわよわデストーンだよ」
「デストーンとは、私会ってないけど…どうして、わたしのことを知ってたんだろう?」
そういえば、そうであるな。
デストーンがリリリスにデスメロディのことを吹き込んだのは予想しておったが、デストーンがデスメロディのことをなぜ知っておったのだ?
「そんなのしらないよ。メロがいきてるってきいたら、それにむちゅうになっちゃって」
「それで会いに来ちゃったの?」
「さすがにそれはできないから…なんとかパパをつかまえて、きょかをもらおうとおもったの。で、パパみつからないから、まおうのへやにしのびこんで…」
「魔王の部屋に!?」
「そしたら、バレて、おしおきされて…でも、まおうがいったの。レイクじょうで、あなたたちとたたかえって。そのとき、ステラをころしたら、メロはスキにしていいって…」
「それは、ダメだよ…」
「どうして?あんなニンゲン、いてもいなくても、いっしょでしょ?」
「あいつには、やってもらわなきゃいけないことがあるから」
「ステラに?だいじょうぶよ。そんなの、おねえちゃんがやってあげる!メロにひつようなことは、ぜーんぶやってあげる!」
「いや、それが、そうもいかなくて…あ、違うよ?ダメだよ?アイツのいるせいだ、とか思ったら!」
「…ちがうの?」
「ちがうの」
「ちがうなら、いいけど…おねえちゃんさみしい」
「ごめんね。魔王の命令もあるんだろうし、レイク城で待っててね」
「いっしょに、ついてっちゃだめ?」
「だーめ。そんなことしたら、それこそパパに怒られるよ?」
「それは、ちょっと、イヤ」
「でしょー?パパ怒るとメンドウだもん」
「ほんと。ばかもんがーってね」
二人は大声で笑った。
リリリスの笑顔からは、涙が溢れる。
デスメロディがそこにいることを実感したのであろうな。
「メロ、メロがいきてて、メロのままだってわかったから、きょうはもういいや」
「わたしのまま?」
「からだだけメロで、こころがべつだったら…ミーナとかいうのが、メロのからだをりようしてるなら…八つ裂きにしようと、思ってたから」
「もう…おねえちゃんらしいというか…あんまりムチャしないでね?」
「やくそくはできないよ。じゃあ、パパにおこられてもイヤだからもどるね…」
「うん。レイク城で会おうね」
「レイクじょうで」
「ステラは殺さないでね?」
「やくそくできない」
「そんなこと言って…」
「アイツはパパをきずつけた。からだも、こころも。だから、ゆるせない。アイツをみたら、れいせいじゃいられない」
「もう、おねえちゃんらしいというか…わかった。そこはステラに頑張ってもらう」
「そうして。それじゃあ」
リリリスは名残り惜しそうにデスメロディを見たまま、後退る。
木にぶつかり、石に足を引っ掛け転びながらも、デスメロディを見たままその場を去った。
デスメロディは、そんなリリリスを、見えなくなるまでずっと見つめておる。
「さて、ステラ兄と作戦会議だなあ…」
デスメロディは上空に手をかざして大きく伸びをすると、そのままミーナに姿を変えた。
「そろそろ、いいかな…」
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何だ?
通信が切れた?
ミーナの妨害か?
あの最後の言い草、まるでわざと妨害していなかったような感じであったか…気のせいか…
まあよい。リリリスが暴走しなかった。
その事実がわかっただけでも良しとしよう。
それにしても…リリリスはデスメロディの正体を気にしておったのか。
デスメロディしか知り得ぬ事実を知っていた故に我は気にしていなかったが…確かにその可能性もあったな。
そして、デストーンがミーナのことを、デスメロディのことを知っていた理由…か。
そこが理解できれば、他の内通者がいるかどうかも、わかるやもしれぬな。
ふむ、今日はこんなものかな。
誰とも知れぬ者よ、また機会があれば聞くがよい。
それではな、何者かよ。




