独白18 自走的わがまま
「よい報告と悪い報告があります」
宇宙にいる何者かへこのメッセージを送る。
我が名は魔王ヨクラトール。神によって生み出され、惑星テアトロンの支配者である。
さて、今目の前にはデミデスタがおるのだが…
「よい報告から聞こう。悪い報告は対策検討で話が長引くからな」
「では、よい報告から。ファクルタスとコラプティオへのカモフラージュカメラコウモリの配置が完了しました」
「効果はどうだ?」
「良好です。ミーナ、カリス、どちらも捕捉に成功しております。ただ…ミーナはやはり未発見でも妨害するようで、捕捉可能な時と不可能な時があります」
「ふむ。カリスは捕捉可能になり、ミーナの妨害はカメラコウモリに気づかずとも可能と判明した。進歩しかないな」
「はい。ミーナの捕捉方法は今後検討します」
「あと、カモフラージュカメラコウモリというのは名前が長く、会話から存在を気づかれる可能性があるな」
「そうですね…暫定でカモコウモリとでも呼ぶことにしましょう」
「カモコウモリか…ではそうしよう。で、悪い報告とは?」
「…リリリスと連絡がつかず、他地域へのカモコウモリの配置が進んでおりません」
「…すまぬ。余計な者を押し付けてしまったな」
「いえ、リリリスをどうにかするとなると、ガストール様、デスメロディ、次点で私になるでしょう。魔王様の判断は妥当です。ましてや、デスメロディのことを知ってしまったのであれば」
「おそらく吹き込んだのはデストーンであろうな。あやつは魔王軍のことをよく理解しておるな」
「感心している場合ではありません。デストーンは本当にまだ泳がすので?」
「そうだ。デストーンの尻尾は確かに掴んだ。だが、あやつが単独犯だと思うか?」
「…そう言われると、わかりませんね」
「そう、わからぬのだ。わからぬというのは一番厄介なもの。対策を後手に回しているのではなく、対策の妥当性を判断できる状態にないのだ」
「もう少し、その辺りが判明するまでアクションしないという訳ですね」
「まあ、そう…」
「魔王様?」
何の気配だ?
今、何か気配がこの部屋に入ってきたな。
空気が流れたのを感じた。
我の部屋に侵入するとは良い度胸だ。
デミデスタには目配せで、他愛もない話を続けるように指示する。
「そういえば魔王様、最近コラプティオで面白いことがありまして…」
その間、我の部屋に試験的に置いてあったカモコウモリを動かして部屋内を調べる。
柱の影に誰かおるな。
あれは…リリリス…の分身か。
やれやれ。
本当にじゃじゃ馬であるな。
「デミデスタ、もうよい。リリリスよ、隠れておらず出てこい。分身ではなく、本体で、だ」
静まり返る部屋の中。
デミデスタは動かぬ。
本当は部屋内を探索したいのであろうが、我の発言意図を探るために待機しておる。
我が命じれば即行動できるよう、万全の構えで。
本当に、こやつの気配り力は魔王軍随一であるな。
「出て来ぬなら、分身を拷問にかけて苦痛を味わってもらうぞ」
まだ静かだ。
ふむ、リリリスは我がカマをかけておると見たか。
カモコウモリ、性能は間違いないようだな。
「では、少し痛めつけるか」
我は短距離ワープホールで我とリリリスの背後を繋ぎ、飛翔氷柱の魔法でリリリスの分身を串刺しにした。
「いたーい、いたいいたいいたいいたい」
即座に、リリリスと分身の疎通が切れぬように、魔法で神経疎通をロックした。
「分身との神経疎通をロックした。もう一度言うぞ、拷問されたくなければ本体が出てこい」
「いきます、いきますから、そつうかいじょ…」
「許さぬ。このまま我の元に来い」
「いたくてうごけないよ…いたい…」
「罰を解除する気はない。場所を伝えるなら、デミデスタを迎えに行かせよう」
「パパのへや…」
「やれやれ…デミデスタ、リリリスをここに連れて来るのだ」
「承知しました」
デミデスタはため息をつくと、ゆっくりと歩き出した。
分身に見えるように。
「デミちゃん、はやくして、はやく、しんじゃうから…」
「急いで駆けつけるようには、命令されていないからな」
「あーん、デミちゃん、あいかわらずつめたい…」
デミデスタは部屋を出た。
さて、リリリスはどういうつもりで我の部屋に侵入したのか。
ガストールの部屋におると言っていたが、ガストールは外出中のはず。
我の部屋に隠れておれば、ガストールが来た時に捕捉できるとでも思ったのかもしれんな。
リリリスは…あやつはシンプルだ。
それ故に行動的であり、それ故に身勝手でもある。
「魔王様、連れて参りました」
「まおう、いたい…ごめんなさい…いたい…」
「まったく、リリリスよ。お主の実力と行動力は素晴らしい。身勝手さも、時には必要なこともあろう。だが、超えてはならぬ一線というものがある」
「はい…」
「場合によっては、お主の行動でガストールを始末せねばならぬことになるやもしれぬのだぞ。そういうことを、考えよ」
「わたしのせいでパパが…それだけは…それだけは…」
まあ、これだけ言っておけば大丈夫であろう。
リリリスの分身と繋けておいた神経疎通のロックを解除した。
即座に我が部屋にいた分身は崩れ去り、リリリスの苦悶の表情が和らいだ。
「リリリスよ、あまりガストールやデミデスタに迷惑をかけぬことだな」
「はい……やくそくはできないけど、きをつけます」
素直、正直。
シンプル故の心地よさと不愉快さの混ざった回答。
まあ、こやつは色々と問題があるのだが、このシンプルさが役立つことも多い。
それに…面白いことも思いついたところである。
「リリリスよ、お前の行動の理由、何となく理解しておるつもりだ。…デスメロディに会いたいのであろう?」
「はい、あいたいです。だって、メロに…もうあえないと、おもってたから。あいたい…」
リリリスはその場で泣き出した。
無理もないか。
デスメロディがミーナに戻った時のリリリスの悲しみは深いものだっただろう。
もしかしたら、ステラへの執着も、その悲しみを忘れるために必要だったのやもしれぬ。
いや、リリリスに限ってそれはないか。
それはそれ、これはこれ、かもしれぬな。
「そこで、一つ任務を与えようと思う」
デミデスタが不安そうに我を見る。
それはそうであろうな。
ガストールをして、大博打と言われた手段。
それに、我が思いついたカードを加えて、発動する。
「リリリスよ。今、ファクルタスは四天王が不在となっておる。ウォルティスがミーナとステラを恐れて逃げ出したのだ」
「…それで?」
「お主は、デストーンを連れて、レイク城の守護にあたれ。そして、いずれ来る勇者ミーナと戦うのだ」
デミデスタがこちらを見る。
どういうつもりなのか聞きたそうであるな。
後で説明する。
「デストーンをつれてくの?なんで?」
「デストーンはデスメロディに詳しい。ミーナと戦うには最適の者だ」
それに、デストーンをデスメロディにぶつけるとなれば、何かしら動きがあるかもしれぬ。
そうすれば、背後に別の協力者がいるか、見えようというものだ。
「でも、わたしメロとたたかえないよ」
「建前上はミーナとステラを倒すこととするが、お主にチャンスをやろうと思ってな。もし、デストーンがミーナを倒す前に、お主がステラを殺せたらミーナを…デスメロディをお主の好きにしてよい」
「わたしはメロとたたかわなくていいってこと?」
「そうだ。その代わり、デストーンには本気でミーナと戦ってもらう。その邪魔をすることは許さぬ。リリリスよ、お主ができるのは、最速でステラを倒すことだ」
「メロと、はなしてもいい?」
「その辺りは好きにするがよい」
「わかった。がんばる…ステラは絶対殺す。あいつだけは殺す」
リリリスの目つきが鋭くなる。
ステラに対抗できるのはリリリスくらいのもの。
とはいえ、リリリスはミーナと戦えぬのがネックであった。
これなら、リリリスは手加減なくステラと戦うであろう。
そして、デストーンもデスメロディと一対一であれば、断る理由もあるまい。
「デミデスタよ」
「はい」
「デストーンへの伝達と、リリリスの配属を任せる」
「承知しました。デストーンを呼び出して伝達しておきます」
「うむ、頼んだぞ」
デミデスタは説明がないことも理由があると思ったのか、特に追加の質問反論なく承諾した。
本当にこやつはバランスがよい。
「まおう」
「何だ、リリリスよ」
「……ありがとうございます」
「礼には早い。デストーンがミーナを殺す可能性があるのだからな」
「そうだね…でも、ありがとう」
リリリスは大きく一礼すると、デミデスタと部屋を出て行った。
ふう。
大博打、発動してしまったな。
リリリスだけでなく、デストーンの件も含めて、な。
さて、どうなるか…
ふむ、今日はこんなものかな。
誰とも知れぬ者よ、また機会があれば聞くがよい。
それではな、何者かよ。




