独白17 強すぎるルーキーパーティー
宇宙にいる何者かへこのメッセージを送る。
我が名は魔王ヨクラトール。神によって生み出され、惑星テアトロンの支配者である。
カメラコウモリのカモフラージュは順調に進んでおるらしい。
デミデスタが様々な物に見せかけたカメラコウモリを量産し、それをリリリスが設置し、テスト稼働をしている段階である。
まずはコラプティオに配置し、カリスを捉えることができるかテストをしておる。
今はまだ網にかかってはおらぬが…
こういうのは持久戦。
ゆっくり待つのがよかろう。
ミーナの動向も今はわからぬ。
何かしらの力でカメラコウモリを妨害しておるようだ。
しかし、どういう訳か、稀にカメラコウモリで姿を捉えることができるのだ。
妨害が完璧ではないのか、わざと姿を見せておるのか…
いや、そもそも、わざと姿を見せる意味がわからぬ。
妨害が不完全にも思えぬのだが…
この辺りは相変わらず状況不明。
ファクルタスを進んでいるのは間違いないであろう。
しかし、ファクルタスか…
水の王国ファクルタスは、勇者が二番目に訪れる地。
四天王の第三位、ウォルティスが君臨する地域。
本来であれば勇者一行をある程度苦しめる場ではあるのだが…相手はミーナとステラ。
ミーナ…いや、デスメロディはかなりの実力者であるし、ステラに至ってはガストールを圧倒する魔法使い。
ウォルティスでは相手にならぬであろうな…
そういう意味では、今動向を注視する必要もあまりないのかもしれぬな。
中央国家コラプティオに踏み込んでからが勝負か…?
「魔王様、よろしいでしょうか?」
ガストールか。
そういえば、ステラに会った際の報告を聞きそびれておったな。
「構わぬ。入れ」
「失礼します」
いつもの一礼、いつもの足さばきでガストールが我の前に立つ。
「ガストールよ、どうしたのだ?」
「ステラとの件、報告をしていなかったかと」
「別件が立て込んでおったからな。では、報告を聞こうか」
「はい。ステラの住処と思われる場所に行ったところ、ステラから攻撃されました」
「いきなりか?」
「ステラからすれば、魔王軍幹部である私が来たのですから、自分が狙われたと思ったのでしょう。ただ、私から攻撃はせず、使者であることを呼びかけたところ、攻撃が止まりました」
「攻撃…ミスラ流魔法剣か?」
「はい。まったく…いつ使われても厄介です」
ミスラ流魔法剣。
ステラがミラリスへの憧れから生み出した魔法の極致。
身体が弱く、剣を振る才能がなかったステラは、ミラリスから剣術を習うも、それを振るうことはできなかった。
だが、ステラは恐ろしいことを思いついたのだ。
魔法で刃を作り出し、それを自在に操ってミスラ流剣術を繰り出せばよいのでは?と。
そうして編み出された魔法が、ミスラ流魔法剣。
そしてこの魔法が厄介なのは…
「で、何本まで耐えたのだ?」
「今回は3本で止まりました。盾を持って行き正解でした。なければ厳しかったでしょう」
魔法の刃が1本ではないのだ。
同時に複数の魔法の刃で、複数の剣術を繰り出す。
変幻自在の剣術乱舞。
ガストールが倒された時は、5本の刃をそれぞれ個別に動かしガストールを翻弄し、追い詰めた。
それを操るセンス、魔力、精神力。どれもずば抜けた才能の持ち主だ。
「それは何よりであったな。それで、書簡を届けてどうなったのだ?」
「ステラは少し考えて言いました。『ガストール、君はどうしたいんだい?』と」
「…質問の意図が見えぬな」
「私もそう思い、どういう意図なのか尋ねたのです。しかし、ステラは同じ問いを私に投げかけるだけ」
「ふむ」
「そこで私は『デスメロディを救いたい。だが、ミラリスとの約束も果たしたい』と告げました」
「ミラリスとの約束…ミーナの安全を保障することであるな」
「無論、勇者である以上、戦わねばならぬ日が来るかもしれない。だが、その時までは、ミーナも救いたいのだと伝えました」
相変わらず素直な報告であるな。
本来であれば、魔王軍の幹部が勇者を救いたいなどと発言するのは問題ではあるのだが…
ガストールがそうしたいのであれば、それはそれでよい。
ミーナと戦って共倒れされては、我の悲願であるドラマチックな死が遠ざかってしまうからな。
「それで?」
「ステラは、『それであれば書簡を信じてみる、まずはミーナに会ってみるよ』とミーナとの合流を約束してくれました」
「そして、ミーナとステラは合流してパーティーとなった、と」
「そのようですね。ステラはデスメロディについて、『ミーナとどのように切り替わっているか確認してみないとね』と言ってましたので、今はその辺りを探っているかもしれません」
「ふむ…にしても、だ。ステラも意外とあっさり信用したものだな」
「私もそう思います。何か心当たりがあるのか、知ってて秘密にしている何かがある、そんな雰囲気を感じました」
知ってて秘密にしている…か。
そういえば、旅をしている間はともかく、その後どうしていたのか不明ではあるな。
デスメロディやミーナについて、何やら調べていた可能性はある。
そもそも、ファクルタスで何をしておったのだ?
単に隠居生活をしていた?あのステラが?ビレアではなくファクルタスで?
あまりにも不自然だ。
監視をしておくべきだったかもしれぬな。
「ともあれ、ステラは狙い通りミーナと同行することになった。よくぞ任を果たした、ガストールよ」
「いえ、それが喜ばしいことばかりではなく…」
「何だ?何かあったのか?」
「ウォルティスが消息を絶ちました」
「……どういうことだ?」
「念の為、ステラの件をウォルティスに伝えたのです。そしたら『無理だ…デスメロディ様と大魔法使いステラの相手なんて…』と震えておりまして…翌日には、消息不明に…」
それはそうだ。
デスメロディはガストール直系の執行者。魔王軍の中でも、その実力と、攻撃的な性格は知られておる。
ましてやステラは、ミラリスムーブメントでガストールを追い詰めたことも広まっておる。
ステラを同行させたことは安易だったか?
「デミデスタにこの件とステラの言葉の真意を相談するためラボール城へ向かったところ、デミデスタに裏切り者と疑われたという訳です」
「そうだ。それがあったな」
「はい。ステラは『デスメロディがミラリスに倒されたことは人間に周知されている。今なら、デスメロディの存在を隠したままにできる』と言っていました」
「それで、カリスがデスメロディの復活を知っているのに疑問を持ったと」
「はい。その件は以前ご報告した通りです」
「ふむ。話を戻すが、ウォルティスが失踪したとなると、今ファクルタスは四天王が不在ということになる」
「デミデスタはカメラコウモリの件で忙しいので、そこは私が対策を考えることになったのですが…正直、どうしたものかと…」
いや、これは厄介だ。
ミーナはともかく、ステラとデスメロディの相手ができる者などそうはおらん。
それでは、あっさりした結末を迎えてしまう。
まったくドラマチックではないではないか。
なにかこう、あの二人を妨害できて、強力な者が…
いる。
いるにはいる。
いるにはいるのだ。
だが…
「ガストールよ。我に博打策があるが、お主は何か良案を持っておらぬのか?」
「魔王様の博打案?嫌な予感しかしませんな。しかし、正直、あの二人を妨害するとなると、私が行く以外に思いつきません」
「ガストールが動くには少し早い。それに、お主は魔法使いであるステラと相性が悪く、デスメロディも相手にするとなると分が悪い」
「それはそうです。そこまで理解されていて、博打とはいえ別案がおありで?」
「……リリリスをぶつける」
「……魔王様、それは博打ではなく大博打です」
「そうだ。だが、それはつまり『ハズレではない案』でもあるということ。数少ない…な」
「確かに、リリリスならステラを妨害できます。そうすれば、ミーナないしはデスメロディに集中できる」
「そういうことだ。ただ、そこにも課題はある。リリリスとタッグを組める者がいるか…」
「パパーーーーーーーー」
まずい!
リリリスだ。
ガストールがいることを嗅ぎつけたか!
「魔王様、詳細は後日!失礼します!」
「うむ。裏から出るがよい。表は全て押さえられておるであろう」
「は!失礼します!」
ガストールは幹部しか知らぬ裏口から出て行った。
「まおうーーーーーーーーはいるよーーーーーーーー」
リリリスが駆け込んできた。
そして、勝手に部屋の中を探索し始めた。
ガストールはギリギリ部屋から抜け出し済み。
危なかった。
今、リリリスに状況を共有しても暴走するのは見えておる。
とはいえ、ガストールはリリリスに秘密を隠し通せるとは思えぬ。
即座に逃げたのは流石の判断力であるな。
「いないなー。まおう、パパは?」
「ガストールは少し前に報告を済ませて出て行った」
「ん〜?いりぐちはぜ~んぶ、ぶんしんはいちしたんだけどなあ」
自立分身。
リリリスは自走する分身をいくつか生み出せるのだ。
それらは意識が繋がっており、手足のように動かすことが可能。
しかも、五感も共有可能であり、複数の場所を同時に見聞きすることが出来る。
この能力を駆使して、ステラのミスラ流魔法剣の本数に対抗できるのだが…
「パパいないじゃん。まおう、パパみつけたらおしえてよね」
「…余裕があればな」
リリリスは去っていった。
あの幼さというか、素直さが、良いところでもあり、悪いところでもあるな。
あやつとパートナーになれる者か…
さて、どうしたものか。
ふむ、今日はこんなものかな。
誰とも知れぬ者よ、また機会があれば聞くがよい。
それではな、何者かよ。




