第13話:◆「封印の咆哮と血の供犠 ~闇の胎動、白銀の矢(前編)~」
おはようございます!皆さん、今日も暑くなりそうですね!
夏バテに負けず、今日も乗り越えていきましょう!
さて、そんな夏の暑さを吹き飛ばすほどの笑いとシリアスが入り混じった絶妙なストーリーはいかが?
本格的な行動内探索が始まり、陰謀と策謀が交錯していきます!
ではでは、ストーリーに、どれだけ脂が乗っているか…ぜひ読んで確かめてください(*'ω'*)!
赤土の荒れ果てた村跡に、朝の光はとうに薄れ始めていた。
冷たい瘴気の息吹が、地下坑道の口から吹き上がり、
三つ巴の影――《黒い手》《白霧の鷹》《無銘の牙》の周囲を撫でていく。
新たに響く馬蹄の音が、崩落口の奥へと向かって近づいてきた。
砂煙の向こうから姿を現したのは、白銀の法衣に身を包んだ聖女だった。
透き通る銀髪に、朝露を宿したような淡い瞳。
十九歳の若さに、成熟した女の艶やかさが絡み合う。
豊かな胸元とくびれた腰、引き締まった肢体の曲線は、法衣越しにも隠しきれず
漂う瘴気を光のごとく弾き返していた。
《聖女》――セフィーナ・ヴァルクレイン。
その背後には、漆黒のメイド服に身を包んだ弓使いの従者――リゼット・アルマロード。
そして、鉄の数珠を肩に掛けた坊主頭の巨躯の男――破戒僧カイ・ジュウザン。
坑道の奥へ向かう細い通路に、異端の影たちが列を作る。
グリスは手ぶらのまま懐を探りながら、前を歩くセフィーナに視線を送った。
「聖女様、そっちは足場が悪い。滑るな。」
声を掛けると、セフィーナが振り返る。
白銀の瞳がまっすぐにグリスの顔を捉えた。
「……ええ、ありがとう、グリ……」
言葉が喉の奥で途切れた。
彼女の瞳が、グリスの焦げた肌と、裂け目の入った片耳、鋭く光る牙に改めて焦点を合わせた瞬間――
血の気が音を立てて引いた。
「――え!? オ、オーク!? ちょっと待って、皆!!」
セフィーナの声が坑道に反響した。
豊かな胸元を押さえ、指先が震えている。
「モンスターが……紛れているわ! ちょっと、どういうこと!? しかも焦げてる!?
えっ、ユニークモンスター!? 特異個体……?!」
リゼットが即座に弓を構え、目を細めた。
「……聖女様、落ち着いて。矢を放ちますか?」
「い、いいえっ! 待ってリゼット!! まだ決めつけるのは早いわ……でもオーク……!」
グリスは額を押さえ、渋い顔で小さく溜息を吐いた。
「俺は人間だ……半分だけどな。」
肩の上のシロモフが、勢いよく飛び上がって前足を広げた。
「モフッ! グリスはれっきとした二足歩行の人間モフッ!」
セフィーナの瞳がシロモフへ移り、さらに声が裏返る。
「な、何!? 白い毛玉が……喋った!? 何これ、これもモンスター!?
ユニーク!? モフ……!?!」
「モフッ! シロ=モッフは毛玉じゃないモッフ!!
本当はすごいやつなんだモフ~~~!!!」
グリスが右胸ポケットからペンを取り出し、懐から分厚い魔術書を取り出すと、シロモフの頭をペン尻で軽く叩いた。
「黙れ、ややこしくなる。」
破戒僧カイ・ジュウザンが数珠を指で弄び、聖女を嗜めるように笑った。
「いやいや、聖女様よ。それはないですぜ?
さっきまで、さんざん『グリス殿』『グリス殿』って会話してたじゃないですか。
それこそ、聖女様の視力を疑うレベルですよ(笑)」
セフィーナは顔を真っ赤にし、法衣の袖で頬を隠した。
「……ち、違うの! 改めて間近で見ると……想像以上に……その……!」
リゼットが弓を下ろし、苦笑いを漏らす。
「……聖女様、もう少しだけ落ち着いてください。」
ハイロが眼帯を押さえ、堪えきれずに吹き出した。
「ははっ……! グリス、お前の顔面、どんだけ強烈だって話だ。」
フィリオも矢筒を叩き、肩を揺らす。
「まぁまぁ。俺たちが保証する。見た目だけは間違いなく、オーク……いや人間……たぶん。」
グリスは肩を竦め、魔術書をぱらりと開いて、ペン先で頁を指先で叩いた。
「どうでもいい。進むぞ。」
セフィーナが息を整え、胸元を押さえたまま深呼吸する。
「……もう、今日は驚きすぎて心臓がもたないわ……。」
リーアが腰に手を当て、艶やかな声で笑った。
「さすがね……どんな場でも《黒い手》の主役は空気を攫うのね。」
ナナシが肩を揺らし、鼻で笑った。
「だから言ったろ……こいつが《黒い手》だ。」
シロモフがドヤ顔を作り、坑道に向かってしっぽを振った。
「モフッ! さぁモフ、進むモフッ!」
瘴気の奥から、また呻き声が土壁を伝って滲む。
グリスは魔術書を片手に持ち、ペンを構えて前を睨んだ。
「さあ――まだだ。ここからが本番だ。」
再び、異端の者たちが坑道を進む。
封印の先の咆哮が、血の供犠が、闇の奥で静かに胎動していた。
松明の光が揺れるたび、壁を這う影は血管のように脈打ち、どこからか誰かの呻き声が滲む。
「……ここだな。封印の口だ。」
グリスが肩に乗せていた大鎌――ではなく、今やその手には古びた魔術書と一本の漆黒のペンが握られていた。
坑道の奥、崩れかけた石壁の裂け目からは、赤黒い光が心臓の鼓動のように明滅している。
古代の封印紋が浮かび、その血痕にはひび割れが走っていた。
セフィーナが一歩進み出る。
白銀の法衣の裾が瘴気を押し返し、胸元の銀装飾が冷たく光を弾く。
「……間違いありません。この封印、既に半分は……!」
「はいアウトーー!!」
シロモフがグリスの肩の上から割り込んだ。
「封印の口は半開きモフ! 中身ドバドバ出るモフー!」
「シリアス返せ毛玉。」
グリスが無言でシロモフを掴んで頭を小突く。
「モフッ! ぎゃんッ! モフの毛根がーーっ!」
ナナシが短く笑い、プルリがくすくすと拍手を送る。
リーアは小さく肩を揺らしながらも、その奥の裂け目を凝視していた。
「……あのいつもの調子が一番頼もしいわ。」
その瞬間――
地の底から獣のような咆哮が轟いた。
赤黒い瘴気の渦が裂け目から噴き出し、壁を削り、坑道に響く。
血塗れの腕のような触手がずるりと這い出すと、瘴気が震えた。
「来るぞ――散開!」
グリスの声が坑道を裂くと、空気の温度が一気に変わった。
《白霧の鷹》のエルネアが剣を振り抜く。
「ハイロ! 前衛維持! フィリオ、援護射撃!」
「おうとも!」
眼帯のハイロが咆哮し、槍を構えて触手に突撃した。
フィリオが矢を番え、毒を塗りつつ口笛を吹く。
「お仕事お仕事っと……今日の毒矢、効いてくれよ~。」
破戒僧カイが数珠を握りしめると、頭を垂れ、獣のように嗤った。
「……破戒僧の拳――喰らえ。」
巨拳が触手の根元を打ち砕き、呻き声が坑道に響き渡る。
リゼットがセフィーナを庇うように立ち塞がる。
「聖女様、ここは――」
「いいえ……退きません!」
セフィーナの声が、瘴気を裂いて響く。
白銀の法衣の裾を翻し、足元に無数の光輪が浮かび上がる。
「主の光よ――」
眩い閃光が坑道を照らし、触手を焼き切った。
だが、奥から新たな触手がのたうつように蠢く。
「モフッ!? ヤバイモフ! シロモフは非戦闘員モフッ!」
肩の上でジタバタするシロモフに、グリスが淡々とツッコむ。
「お前の口が最大の兵器だろうが、黙ってろ。」
「モフッ!? 褒めてないモフー!」
ナナシが短剣を構え、触手を斬り払いながらぼやいた。
「ボケてる暇があったら前見ろ、クロニクル野郎。」
プルリがちょこんと顔を出し、触手の向こうから声を上げる。
「がんばれー! 毛玉かわいいー!」
ルルカがプルリを突っつく。
「ほら、可愛い可愛い言ってないで……触手来てるってば!」
グリスは無言で魔術書を開いた。
その瞬間、坑道の空気が変わる。
青白い光が本から溢れ、ペン先が七色に瞬いた。
黒炎のようなオーラがグリスの背を覆う。
「……始めるか。」
魔術書にペンを走らせると、地面に金色の脂が滲むように現れ、温度差で揺らめきながら分岐を描く。
「“滑る未来”――選ばせてもらうよ。《脂流占、発動──フォーチュン・スライド》!」
光の脂が坑道を走り抜け、触手の動きを先読みしながら、最適解を示した。
「左二歩、シロモフ。」
「モフッ!? 避けるモフッ!」
言われるがままに飛び退くと、触手がかすめる寸前で空を切った。
「よし、次――お前の未来、少しもらう。《盗命の手──発動! デスティニー・スニッチャー!》」
右手に黒インクのような手が浮かび、触手の核に触れる。
黒い記録の糸が引き剥がされ、グリスの魔術書に書き加えられた。
呻き声が止まる。触手の動きが一瞬だけ鈍る。
カイが笑った。
「……仕組みが分からんな、どういう芸か?」
セフィーナが目を見開き、リゼットが唇を噛んだ。
「……これが、クロニクルベアラー……!」
《無銘の牙》のミミが短剣を握り、ナナシに囁く。
「前より発動速くなってる。」
ナナシが鼻を鳴らす。
「当然だ。あいつ、シロモフとアホみたいに笑ってる時ほど本気を隠してんだからな。」
プルリがくすくす笑う。
「でも油断したら死ぬのは君だよー。」
ルルカが触手を蹴り上げながら叫ぶ。
「それ笑えないヤツだから!」
《無銘の牙》の面々の言動は、まるで、グリスの攻撃パターンを一度どこかで見てきたかのような口ぶりである。
そして、場面は変わり、坑道の奥、瘴気の渦の中心で核が呻く。
瘴気の触手が一斉に収束し、グリスに向けて突進してきた。
「シロモフ! 離れろ!」
「モフッ! モフの尻尾がァァ!!」
グリスはペンを一閃させると、背後に浮かぶ黒煙のような影を見つめた。
「後悔はさせない。《燻影占、展開──リグレット・ディフューザー!》」
触手の背後に黒煙が現れ、その煙が裂け目の奥へと吸い込まれる。
触手の進路が僅かに逸れ、ハイロの槍がその間隙を突いた。
「一本! 二本! 三本ッ!!」
触手が千切れ、呻き声が断末魔に変わった。
リーアは、小さく息を吐いた。
「……無理しすぎないで、グリス……。」
だが当の本人は冷や汗を流しつつ、めまいを堪えながらも魔術書にペンを走らせる。
「まだ……書ける。」
そのとき、
核が最後の咆哮を上げ、坑道が崩れかける。
ナナシが短剣を掲げて叫ぶ。
「《無銘の牙》、総がかりだ! 行くぞッ!」
セフィーナが両手を胸の前で組み、白銀の光を放つ。
「主の光よ、全てを払え――!」
坑道に白銀の矢が走り、触手の核を貫いた。
グリスは崩れかけた意識の中で笑った。
「……物語は……まだ終わらない……。」
坑道が白光と血潮の咆哮に呑まれた――。
【第13話・続】へつづく!
タイトル:「封印の咆哮と血の供犠」
サブ見出し:闇の胎動、白銀の矢(後編)
どうも、お世話様でございます!
焼豚の神でございます。
最後までお読みいただきありがとうございます。('◇')ゞ
いやはや、ようやく他の冒険者クランメンバーとの邂逅を果たしましたね!
そして勘が鋭い人はもう気が付いているかもしれませんが、今回グリスたちと邂逅を果たし、一緒に行動を共にしている冒険者クランの1つ【無銘の牙】は、筆者の別作品に登場する主人公たちです!
彼らがなぜ、この依頼に参加しているのか?
追々、謎が判明していきますのでお楽しみに!
それでは、引き続き物語をお楽しみください!('ω')ノ
◆グリスの「モフ度」と能力関連設定◆
グリスの能力:「クロニクルベアラー(物語を綴る者)」
→ 他者の記憶・感情・空間の“物語構造”を感知し、世界を“読み解く”力。
→ 使えば使うほど“内側の温度(感情)”が昂ぶり、モフ度が上昇する。
モフ度
- 0~19%:平常
- 20~29%:末端ふわ化
- 30~49%:耳/尻尾ふわ化
- 50%以上:ぬいぐるみ化進行、人格への影響(語尾に“ぷぅ”など)
- 75%以上:上半身下半身がぬいぐるみ化急行、人格への影響(発声が可愛くなるなど)
- 100%:完全ぬいぐるみ化(意識あり)=“魂を綴る最後の綴り”
良ければ、感想・ブクマ・お気に入り、おかわり自由でお待ちしてます!
また、良かったら筆者に別作品である『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』通称:【ナナクラ】を是非、この機会に知って頂けますと幸いです!
それでは、また次話でお会いしましょう~~~(^^♪




