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第8話:◆「クロニクルスプリント改、再臨!~馬車は音速を超える~」

おこんにちは~!本日3回目!


今回も、ボケ&ツッコミ要素強めな回かもそれないお話(^_-)-☆

そのためおやつタイム真っただ中の諸君に告げる。吹き出し注意報発令じゃ!


おやつはゆっくり食べて、落ち着いてから読み進めるのがよろしいかと!!

事前注意はしたからね??(/・ω・)/


ではでは、ストーリーに、どれだけ脂が乗っているか…ぜひ読んで確かめてください(*'ω'*)!

夜明け前――。


王都の空はまだ群青色の帳を引いていた。

遠く、城壁の向こうに横たわる大地の端が、わずかに銀の光を帯びている。

夜を割くように東の空から忍び寄るその光に、街路の灯火は一つ、また一つと役目を終えた。


王都東門。

まだ人通りの少ない城門前には、異様な熱気が漂っていた。


並んだのは三台の大馬車。その荷台はぎしりと沈み、麻縄で固定された木箱や樽が微かに揺れている。

干し肉、塩漬けの魚、携帯食糧、乾いた薬草、油、鉄鍋、保存水の樽――

そして渇き村から運び出すはずの『まだ見ぬお宝』を詰めるための空箱が、荷の一番奥で鎮座していた。


グリスは荷台の縁に腰を下ろしていた。

まだ冷たい木の感触が、布越しに尻に伝わる。

背中に回した手が、硬い木目をそっと撫でた。


「……。」


深い息を吐くと、冬の残滓を含んだ朝の空気が白く溶けていく。


もう一度、空を仰ぐ。

どこかで鳴き始めた鳥の声が、ほんの少しだけ緊張をほどいてくれた。





振り返れば、仲間たちが忙しなく準備を進めている。

ディセルは自慢の双剣を膝の上に置き、磨き布を指の腹で撫でるように走らせていた。鞘に収めた後も、一度抜いては角度を変え、また拭い直す。その動作に淀みはないが、何度も繰り返すそれが、この男の緊張を物語っている。





マリィは荷物の紐を締め直しては解き、また結び直していた。

束ねた赤毛が肩で揺れるたび、ぎこちなく笑っては小声で「大丈夫、大丈夫」と自分に言い聞かせているのが聞こえる。



セリカは荷台の影にしゃがみ込み、短剣の刃を光にかざした。

刃のきらめきに自分の瞳を映し、何かを確かめるように目を細める。

遠目には冷静そのものだが、そばで見れば肩の線がわずかに硬い。




ゴルドは荷台脇で木箱を抱えたまま、ボーッと立っている。

無口に見えるが、その内心では――


「(この箱……なんだっけ……何回も運んだ気がするが……ま、いいか……)」


小さく首をかしげる姿に、力自慢の忘れん坊の片鱗が滲んでいた。





「まだ……まだ何か運ぶものは……!」


そう唸りながら、荷台の端で何やら大きな木箱を持ち上げようとしている男がいる。


ライナー。

リーアお嬢様の護衛騎士の一人。グリスに心酔しすぎて忠犬化した男だ。


俺の背後で、木箱を抱え上げようとしてストラウスに止められ、肩で息をしながら「まだ何か運ぶものはありませんか!」と食い下がっている。





 俺が声をかけると、振り返ったライナーの顔がぱっと明るくなる。


 「グリスさん! ご指導ありがとうございます! 泣いてる……箱も泣くんですね……! 深いッス!!」


 「深くない。あと俺の指導でもない。」



そこへ、ふわりと白銀の甲冑を身にまとったリーアお嬢様が現れ、グリスの背に指を置いて

小さく笑った。


「ライナー、そんなに頑張らなくてもいいのに。グリスの視線を独り占めしたいの?」


ライナーは耳まで真っ赤になって慌てる。


「そ、そんな滅相もないですッス!!」


俺は額を押さえた。


「……お嬢様、無駄に純情青年をからかうな。」


リーアはくすりと笑い、俺に視線を向ける。


「だってグリス、からかいがいがあるんですもの。今日の顔もすごく良い顔してるわ?」




 「……疲れる。」



 しかし、こういう奴がいると雰囲気が軽くなるのも事実だ。


 俺の肩に乗ったシロモフが鼻をひくつかせ、ぽそりと囁いた。


 「モフ……グリス、顔が少し緩んでるモフ。」


 「……そうか?」


 「モフ! 緊張、ほどけてる証拠モフ。」


 ふっと笑いが漏れた。

 こいつの言葉は意外と刺さる。





 「まぁ……三日はかかる。馬も人も、持つかどうかだな。」


 俺は呟き、馬車の並ぶ先――まだ閉ざされた城門を見つめた。


 そのとき、鋼鉄の門を叩く重い音が一つ、夜明けの静寂を断ち切った。


 ロイが、馬の手綱を引き締めながら口を開く。


 「――よし! 全員、準備はいいな!」




 渇いた声が夜気に響く。

 ロイの目は冗談のように笑っていたが、その奥の光は確かに俺たち全員を見据えていた。


 「馬の足は慣らしてある! 途中で止まる場所は……まぁ、何とかなるだろ!」


 「おい……何とかって何だ。」


 俺は小声で呟き、すぐに苦笑した。


 何とかなる――それがこの盗賊ギルドの合言葉だ。

 何とかなったことなど一度もないのだが。


 門前には、出発を見送るために集まった冒険者ギルド:《盗賊ギルド黒い手》の面々がちらほら立っていた。


 選抜から漏れた若手や、補給班、そして残留組。


 「行けよ、グリス! こっちはおとなしく留守番だ!」


 「三日で帰ってくんだろ? ちゃんと戻れよな!」


 「選ばれなくてよかった……。クロニクルなんとかの噂、あれ本当だったのかよ……。」


 「あっはっは! 馬車ごと吹っ飛ぶってか? また伝説が増えるな、ゲラゲラ!」


 笑う奴、怯える奴、胸に帽子を抱えて心配そうに佇む女盗賊――。

 城門前に集まった彼らの思いは、ばらばらで、けれど一様に暖かかった。







 俺は立ち上がり、深呼吸を一つ。


 「任せろ。三日で帰る……のは無理だが、生きて戻るさ。」


 手を振ると、どこかから「おう!」と声が返ってきた。


 荷台の上を振り返り、仲間に声を投げる。


 「おい! 荷物の最終確認は済んだな!?」


 「はい!」


 「モフ……おにぎり、ちゃんと俺の分あるモフ……?」


 「……誰もお前の分は減らしてないから黙れ。」



 この空気。この仲間。

 ――やるしかない。





 ロイがニヤリと口の端を上げ、俺の肩を小突いた。


 「さて……そろそろ、例のヤツ、頼んでもいいか?」


 「……ああ。」


 俺は頷くと、荷台から飛び降り、地面に両足を踏みしめた。


 ディセルとマリィの視線が俺に刺さる。

 あの二人は知っている。前回の『悪夢』を。


 マリィは小さく息を呑み、ディセルは腰の剣を無意識に握りしめていた。


 「――ここは、ド派手な演出が必要とロイ(ギルマス)が言ってるから俺の出番だ。」


 胸の奥に、重い魔力が滾る。

 指を鳴らした。


 「全員、馬車に乗れ! 早くしろ!」


 空気が一瞬張り詰めた。




 「「「まさか……クロニクルスプリントの転写……!?」」」


 ディセルの声が小さく震え、マリィ、リーア、ストラウスの顔色が雪のように青くなる。


 「グリスさん、やめてください! 早まらないで!」


だが、俺の耳に、リーアのからかう声が滑り込んだ。


「ふふっ……グリス、本当にやるつもりなのね? 私が怖がるとでも思った?」


俺は振り返らずに答えた。


「怖がってくれ……少しは。」


リーアは唇を尖らせ、シロモフの背中をちょんとつつく。


「シロモフさん? ちゃんとグリスを支えてあげてね? 私が困るもの。」


シロモフがぶるぶる震えた。


「モフモフモフモフ! お嬢様モフ! こんなのお供できないモフ!」




 俺の手元を中心に次第に魔術刻印が巨大になっていき、馬車へと術式が刻まれた。


 初参加の連中は、何が起こるのかすら理解していない。




 ライナーだけが満面の笑みで叫んだ。


 「さすがっすグリスさん! 一生ついていきます!!」


 「やめろ。やめろ、ライナー。褒めるな。」


 大男ゴルドが馬車の手綱を引きながら、目をすがめる。


 「ウム……何だろう。馬車の速度……変わるのか? 普通に走れば――」


 「――【クロニクルスプリント改】、《ブースト》!」


 轟音が、夜明けの空を割った。


 足元の陣が閃光を放ち、車輪を軸に魔力がうねる。


 馬のひづめが石畳を蹴る。







 そして――


 爆風。馬車が音速を超えた。


 馬車は地を滑り、石畳を砕き、門を抜け、音速を超えた。


「うわああああああああああああ!!!!」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァ!!!」

「モフモフモフモフモフモフモフ!!!!」

「ぎゃああああああああああ!!!」

「流石っすグリスさん!! 最高すぎますぅぅぅぅぅ!!!」

「誰かこの馬車止めろおおおおおおお!!!」

「おにぎり飛んだモフううううううう!!」

「あはは!風が気持ちいわねぇ~~~!!!」

「・・・・・・・・・・・チーン(真正面から衝撃波のような風を顔面に食らって気絶するゴルド)。」



 城門に残った冒険者たちは、砂煙を巻き上げて消える一行を呆然と見送った。


 「……選ばれなくてよかった……マジで……。」

 「無事に帰れるのか、あいつら……。」

 「ハッハッハ! 最高だな黒い手は(あいつら)! ゲラゲラゲラ!!」


 渇き村までの三日分の距離が、たった数時間で消し飛ぶ。



 轟音と絶叫を乗せた馬車は、朝陽を背に、大地を裂いて進んだ。

音速を超えた馬車の車列は、王都の石畳を蹴り飛ばしたあともなお、地を裂くように走り続けていた。

 振動は底板を通じて尻に伝わり、叫び声と一緒に荷台の荷物が軋む音が混ざり合う。




振動が激しさを増す中、リーアは荷台の縁に片手を置き、飛ばされそうな髪を押さえて笑った。


「グリス! この速さ、もっと出せるんじゃない?」


「……お嬢様、冗談はやめてください……!!」


「だって……私、グリスの慌てる顔が見たいんだもの。」


「……覚えてろよ……帰ったら倍返しだ……。」


「ふふ、できるかしら? 期待してるわ♡」




 シロモフが俺の肩の上で、毛を逆立てながら必死に叫んでいた。


 「モフモフモフ!! グリス! 止めるモフ!! 止めてぇモフ!!」


 「止まれたら苦労しねえ……!」


 膝で荷台を押さえつけながら、俺は歯を食いしばった。

 背後では、ライナーが風圧で変形した顔で、意味の分からない叫びを上げ続けている。


 「ひゅぅぅぅぅぅううっす!! グリスさんひゅぅうぅ!! 一生ついていきまぁぁぁす!!」


 叫ぶな。黙れ。飛ばされろ。


 ディセルは横で荷台の柱を掴みながら、顔を蒼白にしていた。


 「……まじで……おかしいだろ……この速度……!」


 前方ではロイが馬の首筋にしがみついている。

 もはや馬も走っているのか飛んでいるのか分からない。

 馬自身も目を剥いて必死に脚を動かしているのがわかる。


 どれだけ時間が経ったのか。

 いや、時間の感覚など吹き飛んでいる。


 遠く、俺の視界に見覚えのある草原が広がった。


 「あれは……!」


 風に千切れそうな声で、マリィが叫ぶ。


 「以前横切った……農業一家の……畑……!」


 数ヶ月前、俺たちが村に向かったあの時も――。

 

 速度に任せた馬車は畑の前を横切った。


 ただし。


 速度は――異常だけど。


 畑の中で、ひとりの小さな少女が大根を抱え、母親に何かをせがんでいた。

 少女の声が、朝の空気を震わせて澄んでいる。


 「ママー! ママー! みてみてー! 馬車がすんごい速さで走ってるよー!」


 母親が振り返り、目をぱちくりさせた。

 その瞳に映るのは、砂煙を引いて地平線を切り裂く数台の馬車――。


 「あらあら……。大事な用事でもあるのかしらねえ。」


 娘は大根を振りながら笑顔を弾けさせた。


 「そっかー! パパも大事な用事あるって、王都の娘娘娘にゃんにゃんにゃん亭に野菜おろしに行くって言ってたー! それと一緒だね!」


 母親は、大根を持つ娘の手を取ってニッコリ笑った。


 「……あら? 娘娘娘亭? パパが?」


 娘が無邪気に頷く。


 「うん! いっぱい野菜が売れるって、ウヒョー楽しみだんって昨日言ってたもん!」


 母親の瞳が笑いの形を残しながら、瞳孔だけが細く光った。


 「……あらあらあらあら……それは……初耳ねぇ……帰ってきたら、パパにい~~~っぱい聞かなくちゃね……☆」


 ――俺はそのやりとりを馬車の上で聞いてしまい、背筋が寒くなった。


 「(頼むから……余計な家庭不和の火種、撒くなっての)……。」


 グリスの心の中のツッコミが、疾風の中に虚しく溶けていった。


 クロニクルスプリント改は、まだ止まらない。


 魔力が削れ、地面に刻んだ加速の軌道がじわじわと薄れていくのが足裏から伝わる。


 が、それはまだ数百メートル先の話だ。


 「グリスさん!! 止められないんですか!!」


 マリィが叫ぶ。

 叫びながら、髪が風に翻っている。


 「無理だ! 止まれない!!」


 「なんで作ったんですかコレぇぇぇぇぇ!!」


 「俺が聞きてぇよ!」


 気付けば、ライナーが隣で平伏していた。


 「グリスさん! 最高です!! 一生パシります!! 僕の命、グリスさんの馬車の車輪に捧げます!!」


 「いらん!! 命を捧げる前に荷物でも捧げろ!!」


 「捧げます!! 荷物は既に飛んでいきました!!」


 「ふざけんな!!!」


 前方のロイが、馬の首を必死に撫でながら振り返った。


 「おーい! そろそろブースト切れるか!? 切れるよな!?」


 「もうすぐだ! ……ただな!!」


 「何だよ!!」


 「減速はできない!やり方が分からん!」


 「嘘だろおおおおおおおおおおお!!!」


 その絶叫を引き連れて、馬車は渇き村へと迫る。


 乾ききった赤土の路面を砂塵が覆い尽くす。


 前回も思ったが――


 こいつは、何度乗っても慣れるもんじゃない。


 


 「おい……あれ……馬車か……?」


 「いや……飛んでないか……?」


 「飛んでるな……。」



 道中、様々な好奇の目に晒されながら、グリスたち一行は廃墟と化した乾き村へ急ぐ。


 渇き村は、再び《盗賊ギルド黒い手(グリスたち)》にかき回される。


 音速を超えて――

 荷台にしがみつく絶叫と、笑い声と、何故かどこかで飛んでいったおにぎりの香りを

 巻き散らしながら。


 「全力で減速する!! 踏ん張れえええええええ!!!」


 俺の叫びが、村を越えて荒野に響き渡った。



【第9話】へつづく!

タイトル:「止まれぬ疾走、着地は強制」

サブ見出し:地面が泣いている



どうも、お世話様でございます!


焼豚の神でございます。


最後までお読みいただきありがとうございます。('◇')ゞ


今日は、筆のノリがいいので、あと1本いけるか?

がんばれ~~~ワタシ~~~~(*ノωノ)


とりあえず、4本目は21時10分に投稿予定!


◆グリスの「モフ度」と能力関連設定◆


グリスの能力:「クロニクルベアラー(物語を綴る者)」


 → 他者の記憶・感情・空間の“物語構造”を感知し、世界を“読み解く”力。


 → 使えば使うほど“内側の温度(感情)”が昂ぶり、モフ度が上昇する。




モフ度


 - 0~19%:平常


 - 20~29%:末端ふわ化


 - 30~49%:耳/尻尾ふわ化


 - 50%以上:ぬいぐるみ化進行、人格への影響(語尾に“ぷぅ”など)


 - 75%以上:上半身下半身がぬいぐるみ化急行、人格への影響(発声が可愛くなるなど)


 - 100%:完全ぬいぐるみ化(意識あり)=“魂を綴る最後の綴り”



良ければ、感想・ブクマ・お気に入り、おかわり自由でお待ちしてます!



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