第1話③ 「書けないペンと語れない少年へ」
今日もよろしくお願いします!
ストーリーに、どれだけ脂が乗っているか…
ぜひ読んで確かめてください(*'ω'*)!
正直、触りたくなかった。
だって、なんかやたら重そうだったし、妙に冷たい空気まとってるし。
けど、手は勝手に動いてた。
──黒くて、どこか懐かしいような寂しいような……そんなペン。
手に取った瞬間、ずっしりとした重さが手に食い込む。
冷たい、っていうより“静かすぎる”感覚だった。
「……これ、ペンで……何か書けんの?」
誰にともなくつぶやきながら、本の白紙にそっとペン先を当ててみる。
……出ない。
ぐっと力を入れても、やっぱり出ない。
「だろ?」
レンジの声が、不意に背後から落ちてくる。
「それさ、うちのかあちゃんの形見なんだわ。
中は真っ白。でも、なぜか手放せなくてな。
生前、かあちゃんが言ってたんだ。“それは、《言葉を持たないやつ》にしか反応しない”ってさ」
「……言葉を、持たない……?」
言葉の意味が、スッとは飲み込めなかった。
けど、心の奥のどこかが、ずきんと反応した。
レンジの目が、ふと真剣になる。
「つまりさ。自分のこと、自分の言葉で語れないやつ。
そいつにしか、ペンも本も反応しない……ってな。
グリス、おまえ──“自分のこと”、ちゃんと話せるか?」
ズルいな、それ。
そんなふうに言われたら、何も言えなくなるって知ってて聞いてるだろ。
……いや、ズルいのはボクか。
ボクは──喋れない。
いや、声は出る。言葉もわかる。
でも“自分のこと”ってなると……ダメなんだ。
村でも、町でも、どこに行っても。
誰かが笑ってる声が、背中越しに聞こえるような気がして、
そのたびに足が止まって、喉が縮こまって……何も言えなくなる。
「焼豚みてぇ」とか「腹減ってきた」とか。
直接言われたことなんて、たぶん一度もない。
でも、目が。背中が。空気が。
全部がそう言ってる気がして。
それが勝手に傷になる。
ああ……“自分のこと”なんて、話せるわけがないじゃん。
だって、今まで誰も──誰ひとりとして、
「お前は何が好きなんだ?」って聞いてこなかったんだよ。
そんなボクに、語れってか。
ペンを持つ手が、少し震える。
ふと、レンジが口を開いた。
「……書いてみなよ。ダメ元でさ。
書けるかどうかじゃなくて、“書いてみたいことがあるか”だよ」
チャーハンを頬張りながら、ツカサが茶々を入れてくる。
「おう、やってみろよ、焼豚くん!」
……やっぱそれ言うんだ。
胸がチクッと痛む。でも、今までと違った。
ツカサの顔には、からかいじゃなくて──なんていうか、
「期待」みたいな、ヘンな優しさがあった。
「……ボクが書いても……いいの?」
「誰が書くとか関係ねぇんだよ。
そいつが“誰かの言葉”じゃなく、“自分の言葉”だったらな」
ツカサがぐっと親指を立てて、口の端をニッと持ち上げた。
まるで、背中を押してくれてるみたいに。
ボクは、深く息を吸った。
もう逃げるの、やめにしよう。
この手の中にある黒いペンで、
今まで誰にも見せなかった“ボクのこと”──少しだけ、書いてみようかなって。
ページの中央に、ペン先を当てた瞬間──
──カチッ。
どこかで、小さなスイッチが入る音がした。
第1話④「書き出す、最初の言葉は...」 へつづく
どうも、お世話様でございます!
焼豚の神でございます。
今回も読了しに来てくださった皆様ありがとうございます('◇')ゞ!
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