第1話:◆「馬車は今日もスプリント中!~暴走馬車で始まる新たな旅路~」
今日から第2章スタートです!
これからもよろしくお願いします!
今回はいつものストーリー(^_-)-☆
ストーリーに、どれだけ脂が乗っているか…ぜひ読んで確かめてください(*'ω'*)!
ギルドの朝は、いつだって騒がしい。
まだ霧の残る石畳に、冒険者たちの足音と、がなるような笑い声が交じり合う。
そのざわめきの中に、今朝はちょっとした悲鳴が混ざっていた。
――バシュッ!
白い煙を撒き散らしながら、街道の奥から木製の馬車が猛スピードで迫ってくる。
普通の馬車ならありえない速度だってことくらい、ギルド前にいる連中なら全員知ってる。
「おい! あれグリスじゃないか!?」
門番の兄ちゃんがそう叫んだ瞬間、俺は馬車の御者台の上で必死に手綱を握っていた。
「どけどけどけぇぇぇっ!!」
馬車の前輪が石畳を削る音がすごい。
《クロニクルスプリント》。
物語を刻む“クロニクルベアラー”の力を、こうして馬車に転写して速度を増幅させてる。
……本来はこんな使い方するもんじゃないけどな。
「シロモフ!! そっち、ブレーキいけ!」
「無理モフ! シロ=モッフって本当は呼んでほしいけど、呼びにくいって理由で名前省略されてるこのオイラには、そんな役割は無理モフ!」
肩にしがみつく白い毛玉――シロ=モッフ。呼びにくいんで俺は勝手にシロモフって呼んでる。
最初は嫌がってたくせに、最近じゃ自分でもそう名乗るあたり、コイツも割と適当だ。
「くそっ……頼りにならねえ……!」
視界の端で、ギルドの門がみるみる大きくなる。
普通の馬ならとっくに脚をやられてる速度だけど、俺の馬は大丈夫だ。
足元に薄く光る魔法の輪が、脚を守ってるからな。
――問題は、ブレーキだけだ。
ドンッ!
俺は御者台の上で、かろうじて体を支えた。
馬車は、ギルドの荷受け用の杭に勢いよく突き刺さって、強引に止まった形だ。
「生きてるモフ?」
「生きてる……生きてるけど……心臓止まるわ……」
俺はふらふらと御者台から飛び降りて、地面にへたり込みそうになるのを堪えた。
馬車の中から、他の冒険者たちが顔面蒼白で這い出してくる。
「グリスの占いは当たるけどよぉ……乗り物は信用できねぇ……」
「もう二度と……あの馬車は……」
「おい、急げって言ったのはお前らだろ……!」
実際、今朝も「俺の占いを受けてから依頼に行く」のが恒例になってる。
俺がギルドに来てまだ数ヶ月なのに、なぜか占いだけは評判がいい。
人の癖や口癖、ちょっとした指の震えから色々読み取るだけなんだけど、なまじ当たるもんだから、最近は出発前の通過儀礼扱いだ。
――俺の名前は、グリス。
本当は違うんだ。
ユズリハ・グリス――楪 玖璃澄。
神様みたいな義兄弟から、証として授かった名だって、シロモフが教えてくれた。
でもこの世界じゃ、その名前は特別すぎる。
誰かに知られた瞬間、余計なものを背負うことになる。
だから俺は、ただの「グリス」で通してる。
ステータスも一部隠してるし、そう簡単に誰にも全部見せる気はない。
「……よしよし、お前は頑張ったな。」
馬の鼻筋を撫でると、相棒の馬は苦しそうに鼻を鳴らす。
《クロニクルスプリント》を使うと、馬の脚には負担はないけど、気疲れはするらしい。
魔法の輪だけじゃ、メンタルまでは守れないってことか。
「次はもう少しマシな止まり方考えろモフ。」
「うるせぇ……ならお前がやれ……。」
シロモフは尻尾をふわふわ揺らして、俺の頭にぽふんと乗り換える。
「にしてもモフ度センサーが騒いでるモフ。」
「なんだよ、またそれか。」
「グリス、嘘つき度73%モフ。」
「嘘じゃねぇ! 黙れ毛玉!」
「グリスさーん!」
その声に振り返ると、ギルドの受付カウンターから走ってくる女性がいた。
盗賊ギルド《黒い手》の受付嬢――ミーナだ。
腰まで届く赤い髪を小さくまとめて、黒い制服の襟を直しながら、息を切らせて俺の前に立った。
「また暴走して……! 報告書の山どうするつもりですか!」
「いや、俺はちゃんと帰ってきただろ。任務完了だし。」
「確かに完了ですけど……依頼人が『死ぬかと思った』って泣いてましたよ……。」
「それは……まあ……。」
シロモフが俺の肩で「ぷぷぷ」と笑う。
「ごめんなさいって言っとけモフ。」
「お前、他人事だと思って……。」
ミーナはため息をついて、俺の顔をじっと見る。
昔から人の嘘を見抜くのが得意らしい。
「ステータス、隠してますよね。私、何度検索しても“空白”になるんです。」
「……知らないなぁ。」
「……まぁいいです。占いの結果だけはちゃんと当たるし……ギルドにとっては大事な人材ですから。」
受付嬢が笑うと、俺は肩の力が抜ける。
義兄弟の証の名前をここで晒す気はない。
俺はまだ、ただのグリスでいい。
今はそれで十分だ。
「さて、次はどこ行きますか?」
ミーナが小声で言った。
「次も調査だ。乾き村だけじゃねぇ……魔素枯れの痕跡、まだ広がってる。」
「グリスさんが占ってくれるなら、誰も文句は言いませんよ。」
「……占いも万能じゃねぇって、何度も言ってるだろ。」
「でも当たるじゃないですか。」
……まぁ、そう言われると弱い。
俺はシロモフの頭を軽くつつく。
「おい、次はちゃんとブレーキ効かせろ。」
「知らないモフ! 俺は占い担当じゃないモフ!」
「お前は黙ってろ……。」
そんなやり取りを笑いながら、ミーナが俺に羊皮紙を差し出す。
「次の依頼。……暴走しないでくださいね。」
「気をつけるさ。」
俺は《クロニクルスプリント》の魔力を指先で解いて、肩のシロモフを撫でた。
俺の名前は、グリス。
神様の兄弟にもらった証の名前は、今はしまっておく。
誰にも、まだ渡すつもりはない。
――俺は、まだ《ただのグリス》でいい。
ギルドの朝は、今日も雑然としてる。
だけど、俺の物語は、これからもっと喧しくなる。
占いと、クロニクルと、この街を駆け回る馬車と一緒に――。
『第2話』へつづく!
タイトル:おはようございます、封印さん
サブ見出し:徹夜明けの報告会
どうも、お世話様でございます!
焼豚の神でございます。
◆グリスの「モフ度」と能力関連設定◆
グリスの能力:「クロニクルベアラー(物語を綴る者)」
→ 他者の記憶・感情・空間の“物語構造”を感知し、世界を“読み解く”力。
→ 使えば使うほど“内側の温度(感情)”が昂ぶり、モフ度が上昇する。
モフ度
- 0~19%:平常
- 20~29%:末端ふわ化
- 30~49%:耳/尻尾ふわ化
- 50%以上:ぬいぐるみ化進行、人格への影響(語尾に“ぷぅ”など)
- 75%以上:上半身下半身がぬいぐるみ化急行、人格への影響(発声NGなど)
- 100%:完全ぬいぐるみ化(意識あり)=“魂を綴る最後の綴り”
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