◆【エピローグ】◆ 「託された想いと闇の片隅に潜む影」
今日もよろしくお願いします!4回目の投稿じゃ!
今回はいつものストーリーとは違って、ちょっとセンシティブな内容も含まれて
いるからハンカチ必須やで!m(^_-)-☆
――夜気は静かに揺れていた。
月明かりは曇り空に隠れ、風すらも遠慮がちに木々を揺らすだけだ。
グリスたちが村を離れて間もなく、残っていた護衛のひとり、マリィがゆっくりとまぶたを開いた。
彼女の瞳に映ったのは、仄暗いランプの灯と、心配そうに覗き込むリーアの顔だった。
「……リーア様……?」
掠れた声に、リーアは思わずその手を取る。
「マリィ……! よかった……意識が……!」
マリィの額には、封印の痕跡のような術式の紋がうっすらと残っている。
それは彼女が何者かに操られていた証だった。
「……私……私は……何を……?」
震える声。
彼女は脳裏にかすかに残る、曇った記憶を辿ろうとするが、霧のように散って掴めない。
「無理に思い出さなくていいのです。マリィ……あなたは……ただ巻き込まれただけです。」
リーアの声は優しかったが、その胸の奥では煮えたぎる怒りが冷たく爪を立てていた。
ストラウス隊長が、マントを翻して一歩進み出る。
その横には若い副官ディセルが控えている。
「リーア様。ご無事で何よりです。マリィの容態も……なんとか安定しました。」
ディセルがマリィに水を飲ませながら、ストラウスが言葉を継ぐ。
「……この件、我々護衛騎士隊は……全力で殿下をお守りします。
ですが相手は……帝国の暗部。その影を断つのは容易ではありません。」
リーアは小さく首を振り、マリィの震える手を包み込む。
「……わかっています。だからこそ、まずは父に……。」
父は帝国の中央枢機卿会議の一員ではないが、貴族院ではそれなりの立場にある。
直接に敵対すれば一家が潰されるが、探りを入れることはできる。
「……父になら、話せます。裏でヴァルツェルの影を探らせて、証を……少しでも……。」
ディセルが口を開いた。
「姫様……俺たちも動きます。証拠が必要なら、必ず……!」
「ありがとう……ディセル。」
マリィの目に、涙が滲んだ。
「リーア様……私のせいで……」
「違うわ。」
その言葉を、リーアは鋭く断ち切った。
驚くマリィの手を握り直す。
「これは私の戦いです。貴女は……生きていてくれただけで十分です。」
マリィの胸が、張り詰めていた息を吐き、僅かに熱を取り戻した。
「……はい……リーア様……」
月のない空に、遠い星がひとつだけ滲んだ。
その夜、リーアは父に宛てた密書を護衛の手で帝都に送った。
真夜中のランプの下、震える指で書かれた文字は、インクが滲むほどの怒りと無力の色を帯びていた。
(……必ず……この手で……!)
震える瞳に映る未来はまだ遠い。
だが、そこには必ず、もう一度グリスと並んで立つ自分の姿があった。
場面は変わり、帝国の首都――黒鉄の城。
高い尖塔と分厚い石の壁が、夜の街灯を吸い込んでいる。
その地下、分厚い扉を何重にも超えた先に、その部屋はあった。
壁を埋め尽くす古びた地図と奇怪な解剖図。
机の上には黄ばんだ羊皮紙と、魔術触媒として削られた黒い鉱石。
椅子に不遜に座る男が、退屈そうに足を組む。
「触媒が消えた? チッ、面倒だな……。」
異様に細い体を黒いローブで包んだ老人――狂気の科学者フリードリヒ博士が、湿った笑みを浮かべた。
「ふぁふぁふぁ……ご安心を。代わりを探せばいいじゃろうて?」
机の端の試験管の中で、赤黒い液体が蠢く。
それは村から採取された「核」の一部だった。
「……フリードリヒ博士。この期に及んで“偶発的な損失”など許されると思っているのか?」
「陛下、あの村は基礎研究にすぎませぬ。次は都市です。街全体に“触媒”を散布し……」
博士は声を潜め、空気すら凍るような囁きを漏らした。
「選別は不要。生き残った者のみが、新たな“器”となり、選ばれし民を生むのです。」
男――ヴァルツェル・エルンは笑みを浮かべると、椅子を軋ませて立ち上がった。
「半年後だな……エルファスを血で洗い直す。」
机の蝋燭が揺れ、博士の笑い声が湿った石壁に染み込んだ。
「ふぁふぁふぁ……閣下……歴史を血で書き換えましょうぞ……!」
ヴァルツェルの瞳は細く、深い夜に溶けていく。
――だが、誰かが必ず抗おうとしている。
眠りと願いを踏みにじる全てに、必ず終わりを告げる者がいる。
ヴァルツェルはそれをまだ知らない。
まだ……。
夜の奥で、誰かの魔導書がそっと光を灯した。
その小さな光が、帝国という巨獣の咆哮に、いつか牙を突き立てるのを。
それを――闇はまだ、嘲笑っていた。
――闇が明けかけ、早朝の日差しが差し込み始めた頃。
護衛騎士隊の馬車が村外れに停まっていた。
「……ここからだと、早くても街まで三日はかかりますねぇ。」
手綱を握ったストラウス隊長が、ちょっと気だるげに肩を鳴らす。
「三日……長いな。」
グリスは馬車の横で腕を組み、ふっと悪戯っぽく笑った。
「だったら、俺に任せてくれ。」
「グリスさま?」
「モフ? お前、まさか……。」
護衛騎士たちとシロモフが同時に怪訝な顔をした。
「おいおい、まさかとは思うが……?」
ストラウスが眉を吊り上げる。
「何をするつもりモフ~~?」
「決まってんだろ。俺が“加速”させるんだよ!」
ニヤリと親指を立て、グリスは馬車の後ろに手を当てた。
「クロニクルスプリント──《転写》!」
バシュッ!
空気が爆ぜ、馬車の木板に淡い光が走った。
「グリス!? ちょ、ちょっと待ちなさ――」
リーアの制止が届く前に、馬が驚いていななく。
次の瞬間――
ドオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
車輪が火花を散らし、大地が裂けたかのような加速で馬車がぶっ飛んだ。
「ぎゃあああああああっ!?!?」
「モフモフモフモフ~~~~!!」
「ちょ、バカ者ォォォ! この速度で馬がついていけるわけが……ギャアアッ!」
ストラウスの叫びとディセルの悲鳴が風に溶けていく。
リーアは必死に隣のマリィを抱えながら、髪をぐしゃぐしゃにしつつ叫んだ。
「グリスさまっ!! 加速の方向性がおかしいですわぁぁぁ!!」
「姫様ァァァ! 窓がッ! 窓が開いたら俺、飛んでくぅぅ!!」
「ディセル、黙って掴まってろ! あっ頭ぶつけたッ! 痛ッ!」
「ヒャハハ! これが……これが……遠征占い旅の新装備だッ!!」
「モフッ?!まずいモフ!徹夜明けでグリスのテンションがおかしくなっているモフ?! こんなの装備じゃなくて武器モフ~~!!」
「超電磁砲って何だ!?シロモフ!!!?」
「今はそんな事どうでもいいモフ!!減速しろモフ!!!!」
シロモフがグリスの頭にしがみつきながら、耳をぱたぱたさせて絶叫した。
車内の揺れと風圧で、みんなの髪も鎧も荷物もぐっちゃぐちゃ。
「グリスさま、減速なさい! 減速……減速~~!!」
「減速?そんな繊細な操作、夜明け前のテンションで出来るかァァァァ!!」
「じゃあ誰が止めるモフ~~!?」
外を見れば、森沿いの街道を追い越すものは鳥だけ。
それすらも追い抜く勢いで、馬車は大地を裂く。
──
その頃、街道脇の畑で、早朝の作業をしていた、麦束を抱えた親子が馬車を見ていた。
「ママ見て!! なんか馬車がピューッて飛んでった!!」
「……あらまあ、本当ねぇ……たぶんみんなお腹が大変なのよぉ。戻ったらトイレの取り合いよぉ。」
「そっか! パパとママもいつもそうだもんね! パパが負けるやつ!」
「ちょっと! お母さんはそんなはしたないことしないの! パパだけよ!」
その親子の声が風に届いたのか――
「誰が漏らすかぁぁぁっ!!」
車内からグリスの魂のツッコミが轟いた。
「いいや漏れるモフ~~!」
「漏れない!!」
「漏れそうな顔してますよ、グリスさまァァァ!」
「してねぇぇぇ!!」
揺れる馬車でマリィがふらふらしながら、ぽつり。
「……これ……夢じゃないですよね……ウップッ!何か出そう……。」
「マリィ!?こんなところで淑女が○○出したら、孫の代まで呪われますわよ!!?」
「「耐えろマリィ!!俺らもヤバいけど。……ウップッ!」」
「夢なら醒めてほしいッ!!」
そんなドタバタが吹き飛ばした、短いようで長い、濃密な数週間の旅路。
そして、街灯がちらほらと見えてくる。
「……戻ったら……みんな……まずは……トイレですね……。」
リーアの呟きに全員が無言でうなずいた。
こうして――
グリスとシロモフの“遠征占い旅”は、紆余曲折ありながらも再び、日常へと戻っていくのであった。
新たな物語の波動が脈動しながら――。
了
♥【間話】♥「モフモフの危機!? 俺はリーア様の玩具のようだモフ?」へつづく
どうも、お世話様でございます!
焼豚の神でございます。
今日は筆のノリがいいから数本エピソードを投稿できたよ!
間話も同時刻に投稿したから合わせて読んでみてねん♬
もう少しお待ちを。(/・ω・)/
◆グリスの「モフ度」と能力関連設定◆
グリスの能力:「クロニクルベアラー(物語を綴る者)」
→ 他者の記憶・感情・空間の“物語構造”を感知し、世界を“読み解く”力。
→ 使えば使うほど“内側の温度(感情)”が昂ぶり、モフ度が上昇する。
モフ度
- 0~19%:平常
- 20~29%:末端ふわ化
- 30~49%:耳/尻尾ふわ化
- 50%以上:ぬいぐるみ化進行、人格への影響(語尾に“ぷぅ”など)
- 75%以上:上半身下半身がぬいぐるみ化急行、人格への影響(発声NGなど)
- 100%:完全ぬいぐるみ化(意識あり)=“魂を綴る最後の綴り”
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