第31話「◆渇きの村、最後の滴と魔導書に刻まれた光」
今日もよろしくお願いします!3回目の投稿じゃ!
今回はいつものストーリーとは違って、ちょっとセンシティブな内容も含まれて
いるからハンカチ必須やで!m(^_-)-☆
ストーリーに、どれだけ脂が乗っているか…ぜひ読んで確かめてください(*'ω'*)!
村を覆っていた夜気が、長い夢の終わりを告げるように、ゆっくりとほどけていく。
井戸の底で蠢いていた黒い水は、最後の断末魔のように泡立ち、小さな渦を描いて──静かに澄んだ水へと還った。
井戸の縁に片膝をついたグリスは、深く息を吐く。冷たい石の感触が掌に刻まれるたび、自分がまだ“生きている”ことを確かめるようだった。
《クロニクル・ベアラー》の術式の光が、彼の背で静かに消える。
護衛たちは重い息を吐き、剣を収めた。だが誰も声を発せなかった。言葉では追いつけない何かを、全員が見てしまったのだ。
ふと、背にそっと置かれる手の温もり。
振り返らずともわかる。その指先の体温だけで、グリスは何度も救われてきた。
「……終わりましたね。……お疲れ様です、グリス様。」
リーアの声は、澄んだ湖の底で揺れる光のように優しい。それは同時に、胸の奥に刺さる棘でもあった。
「……ああ。」
短く応え、グリスは膝の上のシロモフの背を撫でた。小さな毛玉は、久々にほっとした声を漏らす。
「モフ……全部終わったモフか……?」
小さく笑みを浮かべるが、グリスの瞳は笑っていなかった。
「……全部、じゃない。」
その静かな声に、リーアは小さく眉を寄せる。
「……グリス様?」
答えの代わりに、グリスの手の中で《クロニクル・ベアラー》が震えた。古びた魔導書のページが、風もないのにめくれる。
カツン、と万年筆の先がページを叩く。
誰も触れていない。術式の起動もしていない。
それでも《クロニクル・ベアラー》は、自ら“記し始めた”。
リーアの瞳が、大きく見開かれる。
「……グリス様……それは……」
ページに光の筋が走る。万年筆が音もなく踊り、重い記録を刻む。
《――疫病発生経緯:帝国枢機卿会議・貴族議院 直属研究機関》
《――研究記録No.77 担当:第一貴族院議員 ヴァルツェル・エルン》
《――対象村落:現地点「干渇の村」》
《――投与媒体:井戸水 投入時期:現記録時期より遡った結果、二十五年前
観察担当:村長代理(外部監視官)》
小さな魔力の火花が、ページの端でぱちりと弾けた。
護衛のひとりが、息を呑み、剣の柄を握り直す。だが、その手は小刻みに震えていた。
「……井戸の水が……」
呟くように誰かが漏らした。
「……最初から、疫病の媒介だった……?」
グリスはゆっくりと頷いた。
「……核は自然発生じゃない。……誰かが……井戸を“装置”にした。」
リーアの瞳が揺れる。彼女の指が、無意識にグリスの袖を握りしめた。
「……帝国の貴族が……こんなことを……!」
ページは止まらない。
《――実験結果:暴走的感染、抗体発現失敗、村落滅亡》
《――観察結果:精神干渉及び死者の連鎖化現象を確認》
《――対策:区域隔離及び「器」化による検体保存》
グリスの指先が白くなるほど拳を握り締める。
疫病に蝕まれた村は、救われることなく、誰かの“実験”に変えられた。
遠くから、苦しげな声が漏れた。
ゆらりと村長が顔を上げた。皺だらけの頬に、かすかな柔らかい面影が一瞬だけ戻る。
「……継ぎ手殿……貴方様に……会えて……よかった……。」
崩れそうになる背を、隣のバルク・ムキムキが支える。その逞しい腕は、かつて畝を耕し、人々に食を与えたものだった。
「オラたちゃぁ……もう、十分だ……。」
オババ・ハイテンションが、涙をこぼしながら、小さく子守歌を紡ぐ。それは孫の寝息に合わせて歌った、たったひとつの思い出。
村長の声が震えた。
「……黙殺されるのが……どうしても……我慢できなかった……。また……どこかの村が……同じ目に遭うのは……。」
護衛のひとりが、悔しそうに唇を噛む。
「……だから……誰かが来てくれるのを……ここで、ずっと……待っておりました……。」
バルクが筋肉の奥に蝕まれた痕を見せる。
「オラたちゃぁ……とっくに滅んだ人間だべ……。」
オババが小さく笑い、泣いているように肩を揺らした。
「……楽しかった……楽しかったんだよ……。」
指先が夜気をすくう。
「……私たちは、“残り火”です。」
村長の言葉は、冷たい空気と混じりあい、遠くへ溶けていく。
「疫病に倒れ、井戸の水をすすり……その水に潜ませた“何か”が、我らをこの形に縛った。」
バルクが吐息を漏らす。
「オラたちゃあ……人柱さ……この村全部が……。」
すべてが繋がった。
滅んだはずの村が、誰かの術式で縛り直され、死者を縫い止め、生贄として使われていたのだ。
「……あなた様は……気づいたのでしょう?」
村長が、真っ直ぐにグリスを見つめる。
「この村を解くための“鍵”……それが我々“残り火”だと。」
バルクとオババが小さく頷いた。バルクの瞳に、一瞬だけ生者のような光が宿る。
「……頼むべ……占い師様……オラたちゃあ……もういいべさ……もう……眠らせてけろ……。」
オババは小さく子守唄を口ずさむ。リーアが口元を押さえた。震える声が漏れそうになる。
「……グリス様。」
その瞳には迷いはなかった。
「……彼らの願いを……どうか。」
グリスは魔導書を掲げた。青白く光を帯びた万年筆が宙に浮く。
《クロニクル・ベアラー》の術式が、亡霊の鎖を断ち切るために起動する。
「あぁ。……クロニクル・ベアラーの名において記す。」
その声が夜を裂いた。
「汝ら、渇きの村の残り火よ。汝らの鎖を断ち、眠りの中へ還れ。」
オババの唄がふっと止む。
村長が深い安堵を浮かべて笑った。
「……やっと……やっと……」
光の糸が、彼らを優しく包む。
――解かれた。
だが真実は、さらに冷たく重い。
「……術式が完成した……やるぞシロモフ!」
「モフッ!モフリンク起動!!」
シロモフが同調し、グリスは魔導書を高く掲げる。町全体を覆う魔法陣が青白く輝き、夜気を押しのけていく。
「……俺が送ってやる……遅れたけど……お前たちに、安らかな眠りを……!」
バルク・ムキムキが泣き笑いで吠えた。
「おう……泣くなよ……リーア様……護衛の兄ちゃん……みんな……!」
オババが天に届けるように手を振る。
「畑で野菜……余るほど作って待ってるからよ……でも、早く来るんじゃねぇぞ……!」
リーアの涙が土に滲む。
「……この国の貴族として……謝罪いたします……! 必ずや、あなたたちの無念……晴らさせて頂きます……!」
村人たちの残り火が顔を見合わせ、柔らかく笑った。
「上から……見てますぞ……!」
「いい国にしてくれ……!」
「占い師様! そっちも頼むぞー!」
小さな村の声が、夜空に光となって広がっていく。
護衛たちは剣を胸に当て、黙って祈りを贈った。
どこかで笑っている者がいる。
人の命を、村を、家族を、玩具にしたクソ野郎が。
だがもう、誰一人として消させはしない。
グリスが呟いた。
「……もう、休んでいい。……お疲れ様。あとは俺らに任せてくれ!」
「モフッ!そのクソ野郎どもはコテンパンにしてやるモフ!!」
村人たちは声を合わせた。
「「「ありがとう!!」」」
満面の笑顔を残し、光に包まれて天に昇っていく。
最後にバルクが、天から叫んだ。
『野菜……余るほど作って……待ってるからよ……!でも……早く来るんじゃねぇぞ……!』
オババが笑って手を振る。
『リーア様! 護衛騎士の皆様! そして……クロニクル様!……上から見守ってますから……!』
天界の畑に戻った声が、夜風に混じり、土の香りを残した。
――もう、二度と。
この村のような悲しみは繰り返させない。
グリスは、残り火の声を胸に刻む。
黒幕の名は、ヴァルツェル・エルン。
帝国を穢した蛇。
(……この村の足跡を……誰にも消させはしない。)
未来は、必ず変える。
護衛たちの剣が鳴り、リーアがそっと微笑む。
星の光が、夜気の向こうで瞬いていた。
夜が明ける。
次の戦いは、もう始まっている。
◆【エピローグ】◆「託された想いと闇の片隅に潜む影」
♥【間話】♥ 「モフモフの危機!? 俺はリーア様の玩具だモフ?」へつづく
どうも、お世話様でございます!
焼豚の神でございます。
村全体の謎を解く回も面白いものですな~( ^)o(^ )♬
書いてみると(^_-)-☆
今日は筆のノリがいいからもう数本エピソードを投稿するよ!
とりあえず、夜21時10分に投稿じゃよ!
エピローグと間話の2話連続投稿するぞい!
もう少しお待ちを。(/・ω・)/
◆グリスの「モフ度」と能力関連設定◆
グリスの能力:「クロニクルベアラー(物語を綴る者)」
→ 他者の記憶・感情・空間の“物語構造”を感知し、世界を“読み解く”力。
→ 使えば使うほど“内側の温度(感情)”が昂ぶり、モフ度が上昇する。
モフ度
- 0~19%:平常
- 20~29%:末端ふわ化
- 30~49%:耳/尻尾ふわ化
- 50%以上:ぬいぐるみ化進行、人格への影響(語尾に“ぷぅ”など)
- 75%以上:上半身下半身がぬいぐるみ化急行、人格への影響(発声NGなど)
- 100%:完全ぬいぐるみ化(意識あり)=“魂を綴る最後の綴り”
良ければ、感想・ブクマ・お気に入り、おかわり自由でお待ちしてます!




