第29話「◆虚構の村と、井戸が吐く嘘」
今日もよろしくお願いします!
今回はいつものストーリー(^_-)-☆
ストーリーに、どれだけ脂が乗っているか…ぜひ読んで確かめてください(*'ω'*)!
夜の気配は深く、霧はまるで息を潜めた水底のように、村を覆い隠していた。
湿った土の匂いに混じるのは、納屋の裏で滴った血の生暖かい鉄の臭いだ。
空気は重く、冷たく張り付く。
グリスの足元では、無数の《記録の糸》が生き物のように蠢いていた。
納屋裏の激戦を制した彼とリーア、護衛騎士たちは今、村の中心──あの古井戸を取り囲んでいた。
「……ここが、全部の“発射台”か。」
双剣のディセルが肩越しに吐き捨てた声は、夜気にすぐ飲まれた。
彼の額には冷や汗が滲み、柄を握る指先が僅かに震えている。
「こんな静かな村が……全部、罠だったってわけか……。」
誰ともなく呟いた声は、霧の奥へ消えた。
リーアは黙って古井戸を見つめていた。
月明かりに照らされた横顔は、いつもよりもずっと冷たい光を帯びている。
護衛の誰よりも冷静で、誰よりも剣の気配を纏っていた。
「グリス様……今一度、教えてください。」
その声は静かだが、微かに震えがあった。
無意識に握られた左手の小指が、かすかに震えていた。
グリスは視線を外さずに、胸の奥で《クロニクル・ベアラー》の演算装置を起動させる。
心臓の奥が脈動を打つたびに、思考の底が軋む。
「……全部、繋がった。」
井戸の縁に触れた指先に、石の冷たさと共にかすかな振動が伝わる。
呼吸が白く滲む夜気の奥で、村の記録が脳裏を焼いた。
「村人の違和感……護衛の入れ替わり……バルクとオババの挙動……全部、この井戸を中心に集まってる。」
「全部……?」
ディセルの声はかすれていた。
隣の若い護衛が、小さく息を呑む音が聞こえた。
「村人の目も、家の配置も……全部“嘘”だ。」
グリスの声に、護衛たちの顔色が一斉に青ざめる。
「嘘って……村そのものが……幻ってことですか……?」
「幻じゃない。術式だ。」
グリスの目が夜気に滲む月明かりを映す。
「人も家も……この土地自体が巨大な“術式の回路”だ。そしてこの井戸が……術式の“発射台”なんだ。」
誰かの喉が鳴る音がした。
夜気が軋むように重くなる。
リーアは小さく頷くと、剣の鍔に指を添えた。
その瞳だけは揺るがない。
「つまり……井戸を断てば、回路は崩れる。」
「簡単にはいかない。」
グリスの声は低く、夜気に沈んだ。
【クロニクル・ベアラー】
――《断片統合・全景》起動。
指先から零れ落ちた《記録の糸》が、井戸の縁を撫でた瞬間、星座のような輝きが弾けた。
その光は地面を這い、村の家並みを、道を、畑を、何もかもをなぞっていく。
護衛たちが思わず後ずさる。
気が付けば、足元には巨大な光の魔法陣が浮かび上がっていた。
「……ッ!」
ディセルが唇を噛んだ。
若い護衛が恐怖を隠せず、剣を取り落としそうになる。
家の並び、道の曲がり角、古井戸の正確な位置……
それはすべて、ひとつの巨大な“刻印”だった。
「井戸が中心だ。」
リーアの剣先が光の核を示す。
「……誰が……こんな……。」
護衛の一人が呻く。
グリスは視線を落とし、低く吐き捨てる。
「最初は、ただの村だったんだろう……。だが数十年前、誰かがこの村を“器”に作り替えた。
人の記憶を書き換え、家を組み替え、村全体を巨大な回路にしたんだ。」
「そんな……人で……できることじゃ……。」
若い護衛が膝をつき、肩を震わせた。
リーアだけは顔を逸らさず、グリスを見た。
「村人たちは……何者ですか?」
「……媒体だ。」
グリスの言葉は氷のように冷たかった。
「人柱だ。生贄だ。」
「生贄……!」
護衛の一人が呻く声に、夜気の奥で低い唸り声が混じった。
ゴゴゴゴ……
井戸の奥から、誰かの呻き声が滲み出る。
脳裏に無数の《村人の記録》が突き刺さるように流れ込む。
『助けて……』
『私たちは……私たちは……』
『村長が……村長が……』
『お水……あつい……いたい……』
演算過多でこめかみを嫌な痛みが叩いた。
【クロニクル・ベアラー】
――《全景解析・核心探知》起動。
視界が暗転し、無数の糸が脳裏を駆け巡る。
そこには、村人たちの偽りの記憶を繋ぐ封印式と、黒く蠢く楔。
(……あれが核か。)
井戸の底で脈動する黒い塊。
全ての嘘を束ねる《黒い核》。
「……見えた。」
肩にシロモフが跳び乗った。
「モフッ! やりすぎるなモフ!」
「わかってる……モフ度三十パー……限界だ……。」
脳内アナウンスが何度も「emergency!」を連呼する。
視界が白く染まりかけた時、低い声が井戸の奥から滲んだ。
「……余計な詮索はなさらぬように、と……申し上げたはずですが。」
護衛たちが一斉に振り返る。
井戸の縁に立つ黒い影──
《村長コマツナ・シゲ~ル》。
穏やかな笑みはそこになく、輪郭は歪み、無数の顔が重なって揺らめいている。
「……貴方は……何者だ……。」
グリスの声に、影は嗤った。
「私はこの村そのもの……人々の声を抱き、幾層の意志を孕む器……。」
その声は幾つもの声が重なり合い、護衛の背筋を凍らせた。
「核は完成しています……もはや、止められはしません。」
「止めてみせる。」
グリスの背で《クロニクル・ベアラー》が唸りをあげる。
【クロニクル・ベアラー】
――《断片固定・全停止》起動!
夜気の中、黒い糸が影を縫い止める。
だが影は歪み、嗤いを深くした。
「器を壊せますかな……?」
村の家々が遠くで軋む。
壁を叩く音。扉を蹴破る音。
村が呻き声をあげている。
「リーア!!」
「はい……!」
リーアが前に出た。
月光が刃を照らす。
「……終わりにしましょう。」
閃光のような一閃。
封印石が砕け、鈍い障壁の音が夜に響く。
「弾かれましたか……ですが、綻びは作りました。」
村長の影が叫ぶ。
無数の顔の叫びが夜気を裂く。
「ギィ……ィィィィ……!」
村全体が悲鳴をあげ、軋む。
(──ここで全部、終わらせる!)
拳を握りしめるグリスの前で、井戸の奥の黒い核がひび割れた。
家々が軋み、崩れ、虚構の村の仮面が剥がれていく。
クロニクルの光が夜空を裂き、剣姫の刃が最後の鎖を断つ。
呻き声が霧を裂き、夜気の奥へ溶けていった。
虚構の村は、深い嘘を吐き切り、終焉を迎えようとしていた──。
第30話「◆仮面が剥がれ、夜が明ける」へつづく
どうも、お世話様でございます!
焼豚の神でございます。
村全体の謎を解く回も面白いものですな~( ^)o(^ )♬
書いてみると(^_-)-☆
今日も筆のノリが絶好調だからもう数本エピソードを投稿するよ!
とりあえず、お昼12時10分に2本目投稿じゃよ!
もう少しお待ちを。(/・ω・)/
◆グリスの「モフ度」と能力関連設定◆
グリスの能力:「クロニクルベアラー(物語を綴る者)」
→ 他者の記憶・感情・空間の“物語構造”を感知し、世界を“読み解く”力。
→ 使えば使うほど“内側の温度(感情)”が昂ぶり、モフ度が上昇する。
モフ度
- 0~19%:平常
- 20~29%:末端ふわ化
- 30~49%:耳/尻尾ふわ化
- 50%以上:ぬいぐるみ化進行、人格への影響(語尾に“ぷぅ”など)
- 75%以上:上半身下半身がぬいぐるみ化急行、人格への影響(発声NGなど)
- 100%:完全ぬいぐるみ化(意識あり)=“魂を綴る最後の綴り”
良ければ、感想・ブクマ・お気に入り、おかわり自由でお待ちしてます!




