第27話「◆欠けた名と古井戸の咆哮」
今日もよろしくお願いします!本日3回目の投稿じゃ!
ストーリーに、どれだけ脂が乗っているか…ぜひ読んで確かめてください(*'ω'*)!
夜霧の中、クロニクルの光がグリスの瞳に揺らめいていた。
廃屋を囲む村人たちの輪は、無言のままじわりと円を縮めてくる。仮面のように無機質な顔が、霧の向こうで不気味に揺れ、その間を冷たい夜気がすり抜けていく。
グリスは、人差し指を額に立てたまま、ふっと目を閉じた。
思い浮かべるのは、数日前――初めてこの村を訪れたときのことだ。
あの時、朽ちかけた村の門の前に現れたのは、異様に筋骨隆々の男と、やたらと元気のいい老婆だった。
《バルク・ムキムキ》
《オババ・ハイテンション》
(変な名前だと思った。けど……それっきり顔を見てない。)
肩に乗るシロモフが、不安げに尻尾を振る。
「モフ……グリス……?」
グリスは応えず、ゆっくりと“記録の糸”を夜気の中へ滑り込ませた。術式と霧を縫うように、意識の深くへ、村の“骨格”をなぞる。
(人数が、合わない。)
ギルドの依頼書に記されていた人口。村の家々の造り。廃屋に残された生活の痕跡。村人の人数。全てを頭の中で重ね合わせる。
そして──わずかにずれている。
「……シロモフ。」
グリスが低く呼ぶと、白狐はぴくりと耳を立てた。
「モフ?」
「最初にこの村に来たとき、誰が迎えに来た?」
「バルク・ムキムキと……オババ・ハイテンション、モフ。」
「だろ?」
口の端が、僅かに吊り上がる。
「……そいつら、どこ行った?」
シロモフの尻尾がぶわっと広がった。
護衛騎士の一人、双剣のディセルが剣を構え直す。
「グリス様、どういうことです?」
リーアも背後で剣を下げたまま、じっと聞き入っている。
グリスは小さく鼻を鳴らす。
「この村……全員、同じだ。」
「同じ……?」
リーアの眉がわずかに動いた。
「名が繋がってる。“村の枠”で一つの式になってる。でも──最初に会った二人だけ、パターンが外れてた。」
夜気を割って、廃屋の奥で古い木戸がぎぃ、と軋む音がした。
ひゅう、と風が吹き込み、廃屋の壁がわずかに鳴った。
「バルク・ムキムキ……オババ・ハイテンション……」
「奴らは……この村の外からの因子だ。」
ディセルが片眉を吊り上げ、口の端を険しくした。
「つまり、奴らが……この歪んだ術式の“起点”か。」
護衛騎士ストラウスが、肩に背負った大剣の柄を強く握った。
「グリス様。居場所は掴めるのか?」
「掴む。必ずだ。」
グリスは、胸の魔導書にそっと手を添えた。
微かに青く光る頁が、夜霧の奥を探るように震える。
(あの古井戸……あそこが核だ。)
リーアが、霧の奥に向けてそっと剣を構え直す。
「……村全体を……召喚の術式に組み込んだ……?」
グリスは黙って頷いた。
脳裏に浮かぶのは、家々の配置。地面に埋められた奇妙な石板。村の中央に据えられた古井戸。その全てが、地脈と霧を繋ぎ、巨大な召喚陣を成している。
「発射台だ……この村は。“空”へ向けて何かを呼ぶ“台座”だ。」
村長コマツナ・シゲ~ルの、あの歪んだ笑みが霧の中に滲んだ。
「だから……だから申し上げたのです……余計な詮索は……。」
ぼそり、ぼそりと、輪を作る村人たちの口が一斉に動く。
「余計な詮索は……。」
「余計な詮索は……。」
「余計な詮索は……。」
まるで誰かの腹の底から、同じ声が湧き上がるように。
ディセルが舌打ちをした。
「……気色悪ぃ真似を。」
ストラウスは大剣を肩に担ぎ、村人たちの輪を睨み据えた。
「グリス様。号令を。」
グリスは、指先に《クロニクル・アクセス》の術式を乗せた。
霧がざわめき、記録の糸が地面を這って井戸の奥へと潜り込む。
「探す……!」
リーアがグリスのすぐ横で、すっと息を吸った。
「……私も行きます。」
「リーア──」
「護るだけじゃなく、断ち切るために。」
静かな決意が、彼女の瞳に灯る。
そのとき。
じわりと迫っていた村人の輪の奥から、粘土がひしゃげるような異音が響いた。
ひゅう、と湿った夜気が裂かれる。
護衛騎士の一人、長剣のマリィが、ぐにゃりと首を傾げてそこに立っていた。
しかしその目は、いつもとは違う。
焦点の定まらない瞳。吊り上がった口角。ぬらりと笑む影。
「……マリィ……!」
リーアが一歩前へ出た。
マリィの口が、軋むように動いた。
「……詮索は……無用……」
「マリィ……! 目を覚ませ!」
ディセルが叫ぶ。だが、マリィは無反応に長剣を引きずるように持ち上げた。
「……グリス様……貴方は……ここで終わり……」
その声は、マリィ自身のものだが、その奥に誰か別の意思が巣食っているのがわかる。
ストラウスが、大剣を地面に突き立てた。
「グリス様、命令を!」
グリスは短く息を吐き、背後の騎士たちを見た。
「ディセル、ストラウス。マリィを傷つけずに止めろ。できるか?」
ディセルは双剣をくるりと回し、にやりと口元を歪めた。
「言われなくても……俺の双剣は仲間には当たらねぇ。」
ストラウスも、大剣を肩に担ぎ直して低く唸る。
「重い剣でも……彼女一人くらい、寝かせてみせます。」
その刹那、マリィの足が地面を蹴った。
ぬらりとした動き。
まるで糸で引かれた人形のように、長剣が霧を裂いてディセルへと迫る。
ディセルは紙一重で身を捻り、双剣の片方で刃を受け止めた。
ぎん、と金属音が霧の中に散る。
「マリィ……お前、本当に……!」
ストラウスが背後から踏み込み、マリィの動きを断ち切るように大剣の柄で横から打ち払った。
「すまん、マリィ!」
鈍い衝撃音。マリィの身体がぐにゃりと揺れ、地面に膝をついた。
「……まだ……まだ……。」
マリィの口が、どこか遠い場所を見つめながら、掠れた声で言葉を吐く。
「……私は……村のために……。」
ディセルが、剣を逆手に握りしめ、低く唸った。
「クソ……催眠か、これ……!」
グリスの指先が、淡い光を編み込む。
「繋ぐ……!」
《クロニクル・アクセス》。霧に潜む記憶の糸を、マリィの中へ潜らせる。
小さな白狐が肩で尻尾を立てた。
「モフ……モフモフ……!」
リーアはマリィの傍で膝をつき、そっとその頬に触れた。
「マリィ……目を覚まして……私の声を……。」
マリィの目が、かすかに揺れた。
その背後、夜霧の奥で、村の古井戸が呻くような音を立てる。
――そこに、バルク・ムキムキとオババ・ハイテンションの気配。
グリスの目が鋭く光る。
「……行くぞ、リーア。」
「はい……グリス様。」
護衛騎士たちが、背後を固め直す。
夜霧の向こうで、村の“核”が牙を剥く。
欠けた名を繋ぐ、その先に潜む“古井戸の咆哮”。
クロニクルベアラーの記録が、夜の奥で輝いた。
(絶対に……終わらせる。)
月が裂けた雲を割って、二人の影を淡く照らした。
――戦いの幕が、今、上がる。
第28話「◆咆哮の核を追え──剣姫と記録の狩人」へつづく
どうも、お世話様でございます!
焼豚の神でございます。
少し不穏な回でもありましたね~( ^)o(^ )♬
これから物語がどうなっていくのかお楽しみに!
今日は、筆のノリがいいからもう1本21時10分に投稿しようかな♬
滾ってくるぜ~~~(/・ω・)/
◆グリスの「モフ度」と能力関連設定◆
グリスの能力:「クロニクルベアラー(物語を綴る者)」
→ 他者の記憶・感情・空間の“物語構造”を感知し、世界を“読み解く”力。
→ 使えば使うほど“内側の温度(感情)”が昂ぶり、モフ度が上昇する。
モフ度
- 0~19%:平常
- 20~29%:末端ふわ化
- 30~49%:耳/尻尾ふわ化
- 50%以上:ぬいぐるみ化進行、人格への影響(語尾に“ぷぅ”など)
- 75%以上:上半身下半身がぬいぐるみ化急行、人格への影響(発声NGなど)
- 100%:完全ぬいぐるみ化(意識あり)=“魂を綴る最後の綴り”
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