第26話「◆決意の剣姫、霧の村を裂く」
今日もよろしくお願いします!本日2回目の投稿です!
1回目を読んでいない人は、前の話を読んでから今回の話を読むと物語の進行具合がわかるよ!
ストーリーに、どれだけ脂が乗っているか…ぜひ読んで確かめてください(*'ω'*)!
──村長コマツナ・シゲ~ルの歪んだ笑みが、夜霧に溶けていく。
古びた廃屋を囲むように、仮面を貼りつけた村人たちがじわじわと歩を進めてくる。
暗がりに浮かぶ無表情の顔、乾いた足音、そして時折吹く冷たい風が、夜の気配を軋ませた。
月明かりは雲の切れ間から薄く差し込み、霧の向こうにぼんやりと村の廃墟を照らしている。
そのわずかな光の中で、グリスは肩に乗せたシロモフをそっと撫でた。
「……来るぞ。」
小さな白狐が、耳をぴんと立てて震える。
「モフ……わかってるモフ……! モフモフは無敵モフ……でも怖いモフ……!」
小さな声に、グリスは短く笑った。
だが目の奥には、魔導書の頁を通じて見えた“断片”が、重く焼き付いている。
人の心を奪い、操り人形に仕立てる《術式》の根。
どす黒い糸が霧に潜み、この村の土の奥底に絡みついている。
リーアは、グリスのすぐ前に立った。
その腰に佩かれた剣は、月光をはじき返しながら、すっと鞘から半分ほど抜かれている。
夜気が刃に触れた途端、霧が微かに震えた。
「グリス様。……ここから先は、私が切り開きます。」
振り返ることなく告げる声は、穏やかで凛としている。
けれど、その肩越しに漂う空気には、
誰もが“神速の剣姫”と恐れた彼女の気迫が、剣の冷たさに宿っていた。
「……切るだけじゃ、駄目だ。」
グリスの指が、胸の内ポケットの魔導書に触れる。
カードが微かに青い光を放ち、風が周囲を巻く。
「まだ“仕組み”の核心を割り出せてない。
何としても、口を割らせる……!」
リーアは小さく頷き、剣を抜ききった。
澄んだ金属音が、冷えた夜霧に響く。
「切る前に、引き摺り出します。」
その背後で、護衛騎士たちが静かに息を整える。
大剣を担いだストラウスが、リーアの横に立つように歩み出た。
銀色の大剣が、夜気に微かに鈍く光る。
「お嬢様──後ろは俺たちが抑えます。ご安心を。」
その言葉に、二人の間に緊張が走ったのを、グリスも感じ取った。
双剣のディセルが、霧の奥を睨みながら声を潜める。
「相手は人とはいえ……遠慮はいりませんね?
この手で縛り上げてでも、白状させます。」
リーアは小さく笑んだだけで、視線を前の村人たちに戻した。
「私たちは……私たちのやり方で“正解”を掴むだけです。」
小屋の壁の影から、小さな影が跳ねてシロモフの背に飛び乗った。
魔術の小精霊が、一匹、また一匹と肩に止まる。
“異質”を喰らう気配が、静かに舞い落ちる。
◇
じわり、じわりと迫る村人たち。
誰も叫ばず、誰も顔を歪めない。
その顔には、“人”としての感情を貼りつける仮面がべったりと張り付いていた。
グリスが息を呑む。
──何人分の記憶と命が、この術式の糧になっている?
ふと、一歩前に出た村人のひとりが、ぎこちなく首をかしげた。
「……この村に……余計な詮索は……ご無用です。」
がくがくと震える口が、何かを吐き出すように言葉を紡ぐ。
その指先が、ゆっくりと上がる。
鈍く光る小刀。
粗雑だが、殺すには十分な刃。
(……操り人形か。)
グリスの目が冷たく細められる。
その瞬間。
「──グリス様、後ろに。」
リーアが前に滑り出た。
剣の切っ先が一瞬で霧を裂き、月光を割る。
冷たい刃が空を跳ねた瞬間、押し寄せてくる湿った夜気を力ずくで押し返すかのようだった。
「……貴方方は、彼を脅かす資格などありません。」
リーアの声は、夜気に飲まれそうなくらい静かで冷たい。
だが、その背中を包むのは、グリスだけが知る温かさだった。
(守りたいんだ。俺を、だろ……?)
剣姫の背には、小悪魔の仮面。
――優しさも、恐怖も、何もかも隠して、いまはただ刃として立つ。
「ストラウス、ディセル。」
リーアが背中越しに呼びかけた。
「切り捨ては不要です。動きを止めて、口を割らせる。」
「承知。」
ストラウスが大剣を肩に担ぎ直し、夜霧に向けて構えを低くする。
「任せろ。この大剣で骨だけ残すように叩き伏せてやる。」
ディセルは小さく肩を回し、双剣を両手に構える。
「散らせばいいんですね。霧よりも早く。」
◇
刹那。
村人のひとりが、歪んだ笑いを浮かべたまま、
獣じみた足音を立てて突進してくる。
リーアの瞳が細く光る。
一閃。
まるで肩を軽く叩くような、静かな動き。
だがその一太刀で、村人の握る刃は弾き飛ばされ、土に転がった。
村人は首を傾げたまま止まり、足元に散った小刀をただ眺める。
そこに、もはや人としての意思はない。
リーアは構えを解かず、低く村長を射抜く。
「もう一度、問います。」
細い剣先が、闇に溶ける村長の影を捉える。
「マリィを……私の護衛を……どうしたのです。」
村長コマツナ・シゲ~ルは、夜霧に笑みを刻んだ。
「大丈夫です……彼女には……何も害は及びません。」
「害がない……?」
リーアの眉が、わずかにひそめられる。
声が氷のように冷たい。
「私の騎士を奪ったことを……害ではないと?」
その横で、ストラウスが低く唸った。
「吐け……! 貴様の口を捻じ開けてでも吐かせる。」
ディセルが村長の足元を一瞥して、鼻で笑う。
「“役目を果たした”だと? 寝言は土の下で言ってろ。」
村長の笑みは、まるで子供のように純粋だった。
「彼女は……役目を果たしただけです。」
――グリスの胸の奥で、何かが弾けた。
この男にとっては、人の命は“役目”の一言で片付けられるものなのか。
グリスは、魔導書から一枚のカードを抜き取り、指を鳴らした。
《クロニクル・アクセス》
霧が震え、視界の奥に、黒くねじれた“記録の糸”が浮かび上がる。
村の記憶が、死者の言葉が、土と血と霧の底で絡まり、呻き声を上げる。
「モフ……繋がったモフ……!」
肩のシロモフが、声を震わせながらも背を張った。
◇
リーアは剣を下げ、静かにグリスの隣に寄った。
その頬が、月明かりの下で白く光る。
「……無茶は……なさらないでください。」
静かに、声を落とす。
そして、小さく身を寄せて、耳元に吐息を落とした。
「もし……無理をするなら……私が、ぎゅっとしますから。」
その声の端に、確かにあの時の“悪戯な女の子”の残り香が混じっている。
グリスの肩が震えた。
「……やめろ、集中できねぇ……。」
リーアは小さく笑い、頬をわざと柔らかくかすめる。
シロモフが、小声で呟いた。
「モフ……どっちが攻め手かわからんモフ……。」
――それでもいい。
守る者と、暴く者。
この小さな一幕の中に、二人が背負うもの全てが凝縮されている。
グリスは深く息を吸った。
《俺が……暴く。この村を蝕む全てを。》
リーアが剣を構え直す。
《私が……断つ。彼を脅かす全てを。》
二人の気配が、霧の中でひとつに溶けた。
ストラウスとディセルの背中が、その後ろに並ぶ。
廃屋の奥で、誰かのすすり泣く声が聞こえた気がした。
それは、かつてこの村で笑っていた誰かの残響。
あるいは、ここに繋がれた死者の後悔。
だがもう、夜は終わる。
(すべてを“暴いて”終わらせる。
そして……誰一人として、泣かせない。)
夜霧がざわめき始める。
霧の向こうに、次の敵影がゆらりと揺れた。
──決意の剣姫が、剣を握る。
──クロニクルベアラーが、記す。
──騎士たちが、盾となる。
今、盤上の戦いが、始まろうとしていた。
第27話「◆欠けた名と古井戸の咆哮」へつづく
どうも、お世話様でございます!
焼豚の神でございます。
村全体の謎を解く回も面白いものですな~( ^)o(^ )♬
書いてみると(^_-)-☆
もう1話書けそうな感じなので、17時10分に3話目投稿ささります!
◆グリスの「モフ度」と能力関連設定◆
グリスの能力:「クロニクルベアラー(物語を綴る者)」
→ 他者の記憶・感情・空間の“物語構造”を感知し、世界を“読み解く”力。
→ 使えば使うほど“内側の温度(感情)”が昂ぶり、モフ度が上昇する。
モフ度
- 0~19%:平常
- 20~29%:末端ふわ化
- 30~49%:耳/尻尾ふわ化
- 50%以上:ぬいぐるみ化進行、人格への影響(語尾に“ぷぅ”など)
- 75%以上:上半身下半身がぬいぐるみ化急行、人格への影響(発声NGなど)
- 100%:完全ぬいぐるみ化(意識あり)=“魂を綴る最後の綴り”
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