♥間話♥「想いは想ふ──リーアの胸に宿る灯」
今日もよろしくお願いします!
今回はいつもと違うヒロイン視点のストーリー(^_-)-☆
ストーリーに、どれだけ脂が乗っているか…ぜひ読んで確かめてください(*'ω'*)!
夜の帳が落ちて、バレンスタイン邸の灯りが遠ざかる。
柔らかな毛布の中に潜り込んだリーアは、
窓の外に滲む月の輪郭を、ひとりきりの寝室からぼんやりと眺めていた。
自室の隅に置いたランプの灯りが、ほんのりと金色に揺れている。
目を閉じても、思い出すのは、つい数時間前の出来事だ。
──グリスの胸に、顔をうずめた自分。
ふわりとした体温。
少し乱れた心音。
あの時、彼の身体から伝わってきた安堵と、微かな震え。
グリスは何も言わずに、結局離れようとしていたけど、
わたしはあの瞬間、絶対に手を離したくなかった。
(飾らない。驕らない。全部、素のまんま。)
リーアは寝返りを打つと、頬を枕に押し当てた。
「怖い」と思う人もいるはずだ。
人の運命を少しだけ変えることのできる者なんて。
だけど、わたしは──
ただの一度も、怖いと思ったことはなかった。
(むしろ……楽なんだよね。)
人に言えないことも、平気で言える。
兄に話すよりも、友達に打ち明けるよりも、
不思議と、肩の力が抜けてしまう。
それがグリスだ。
◇
視線を落とすと、机の上に置かれた白い紙封筒が目に入った。
依頼完遂の報告書。
レイテ家に関わった今回の件のすべてが、そこに綴られている。
傭兵として依頼を任せたのは、自分だ。
自分が依頼を出すたびに、グリスは嫌そうな顔をしても結局は動いてくれる。
グリスの頭脳は、誰よりも優れている。
初めてそれを目の当たりにしたのは、今でも忘れない。
(でも、……可愛いんだよね、あの子。)
無意識に、小さく声が漏れた。
「でも……可愛いって言ったら少し拗ねてたけど、それもまた可愛かったのよね。」
枕に顔をうずめて、思わずくすりと笑う。
グリスは、あのときお腹に顔をうずめて離れないわたしを、
びっくりした顔で見ていた。
“モフモフの代償”だなんて言ってたけど、
わたしの方が、ドキドキしてた。
(幸せだったな……あのとき。)
柔らかくて、あたたかくて。
誰かの胸に顔をうずめて、こんなに心が休まるなんて。
わたしの方こそ、依存してるのかもしれない。
(……ダメだな、ほんと。)
リーアは、自分の胸にそっと手を置いた。
まだ、“恋”だとは思っていない。
けれど、確かにそこにある。
兄でも弟でもない、友達とも違う。
わたしだけが知っている“彼”への、特別な信頼。
──
◆根っこの棘
けれど。
グリスの心には、わたしも知っているようで知らない“棘”がある。
──避けるようになった理由。
それを、リーアは思い出す。
──
◇
まだグリスがクロニクルベアラーとしての力を得る前──
ただ“完全記憶能力”と“人並外れた言語能力”だけで、
彼はある商家の不正をリーアと一緒に暴いた。
依頼先の重鎮たちが隠し続けた帳簿の改竄、
噂話で煙に巻こうとした偽りの契約書。
数時間足らずで全てを言い当て、裏付けを並べ立てたグリスを、
わたしは目の当たりにした。
その場の誰もが息を呑んだ。
けれど、空気を裂いたのは賛辞ではなく──
怒号と、憎悪だった。
──「この悪魔め!全てを明るみにして満足か!」
──「我々を嘲笑って満足か!偽善者気取りの不気味な豚め!」
──「二度と私たちの前に現れないで!この気色の悪い豚め...。」──
その時のグリスの顔を、リーアは忘れられない。
誰にも感情を読ませないように、
ただ淡々と嘘を切り刻む姿。
それがどれだけ孤独だったか、想像すると胸が痛む。
(……あれ以来、だよね。)
あの夜を境に、グリスは“必要最低限”しか能力を使わなくなった。
無駄に人の裏を読むこともない。
あれだけ記憶力も論理も冴えているのに、
人前では、まるでそれを隠すように生きている。
(……不器用だな、ほんとに。)
リーアはそっと毛布を握りしめた。
けれど──わたしは知っている。
あの時の鋭い目(すべてを見透かしているような瞳)は、誰かを傷つけたいわけじゃなかった。
ただ、嘘に踊らされる人を、これ以上見たくなかっただけ。
彼の能力は、誰かを壊すための刃じゃない。
誰かを救うための光になるはずだ。
(だから……もっと使えばいいのに。)
リーアの唇が、そっとほころぶ。
「……もっと伸ばしてやるんだから。」
弟を甘やかす姉のような気持ちかもしれない。
でもその奥には、確かにもっと深い願いがある。
──
◇
(だからこそ、今度は私が、あの目を曇らせないようにしなくちゃ。)
リーアは、小さく笑いながら枕に顔を埋めた。
思い返せば、今日の胸に顔をうずめた時だって──
あれは私のほうが安心していた。
(ドキドキしてたの、私だけだったかもな……。)
でも、それでいい。
少しずつ、少しずつでいい。
この手を離さないでいるうちに、
彼の閉じた扉をこじ開けて、もっと自由にしてあげたい。
──
◆小悪魔の決意
「……ふふ。」
リーアは笑った。
このままじゃ終わらない。終わらせない。
彼を避けさせない。
何度でも依頼を出す。
何度でも顔を見せる。
時々は小さな悪戯を仕掛ける。
(お腹に顔をうずめるより、もっと困らせちゃおうかなぁ~♬)
からかい上手のリーアとして、
これからもグリスの背中を引っかいてみせる。
絶妙な距離を保ちながら、でも少しずつ踏み込む。
「……待っててよ、グリス。」
リーアはそっと指を組んだ。
すると、いつの間にか、小さな白い毛玉が室内でフワフワ浮いてリーアを見ていた。
「あれは、いつもグリスと一緒にいる……確か……シロモフさん。」
部屋の前にいたのは、あの白いモフモフの妖精。
グリスの肩にいつも乗っている、小さな毛玉のような影。
(怪しいのよねぇ……あの白い生き物も。何より、あれは一体何なのかしらねぇ~。魔力感知にも引っかからないし...。)
グリスの味方をしているのはわかる。
けれど、わたしの知らない何かを知っている目をしている気がする。
時々、彼とだけで何かを話している声が、
遠くからでも聞こえることがある。
「……まあ、いいわ。それは追々として。」
リーアは小さく笑って、シロモフの目をじっと見つめた。
「グリスのこと、これからも頼んだよ。」
「...モフ。」
短く鳴くと、シロモフはくるりと尻尾を振って姿を消す。
──
◆甘さと棘
リーアは毛布を肩まで引き上げて、ほんのり笑いながら目を閉じた。
甘くて、温かい。
けれど、その奥に潜む棘は、まだわたしも触れていない。
(……きっと、もっと奥がある。)
それでもいい。
どれだけ絡んでいても、わたしは糸をほどいてみせる。
何度だって。
──
◆そして、また会いに行く
「……次は何の依頼にしようかなぁ。」
瞼の裏に浮かぶのは、
面倒くさそうにしているくせに、
いつもどこかで頼りになる、あの後ろ姿。
(次はどんな風に困らせてあげようかしらね♥クスクス♬)
にやり、と口元がほころぶ。
小悪魔の決意は、月明かりにそっと溶けていった。
☆閑話☆「レイテ家の灯、継がれる約束」へつづく
どうも、お世話様でございます!
焼豚の神でございます。
いや~、ヒロイン視点の回想シーンも面白いものですな~( ^)o(^ )♬
書いてみると(^_-)-☆
◆グリスの「モフ度」と能力関連設定◆
グリスの能力:「クロニクルベアラー(物語を綴る者)」
→ 他者の記憶・感情・空間の“物語構造”を感知し、世界を“読み解く”力。
→ 使えば使うほど“内側の温度(感情)”が昂ぶり、モフ度が上昇する。
モフ度
- 0~19%:平常
- 20~29%:末端ふわ化
- 30~49%:耳/尻尾ふわ化
- 50%以上:ぬいぐるみ化進行、人格への影響(語尾に“ぷぅ”など)
- 75%以上:上半身下半身がぬいぐるみ化急行、人格への影響(発声NGなど)
- 100%:完全ぬいぐるみ化(意識あり)=“魂を綴る最後の綴り”
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