第16話「◆ほどけぬ腕と語られる真実◆──モフの向こうに灯る火」
今日もよろしくお願いします!
今回はいつものストーリー(^_-)-☆
ストーリーに、どれだけ脂が乗っているか…ぜひ読んで確かめてください(*'ω'*)!
バレンスタイン邸の書斎に、朝の柔らかな光が差し込む。
普段はひんやりとした空気を含む重厚なこの部屋も、
いまはモフモフの毛と、甘い空気に満ちていた。
グリスの右腕と肩、耳のあたりにまで広がった白いモフ毛に、
リーナが頬をすり寄せている。
まだ、ずっと。
「……あのー……リーナさん……。」
小さく肩を揺らしながら、グリスは情けない声を漏らした。
自分の腹のあたりで、リーナがすっぽりと腕を回し、顔を埋めている。
くすぐったいのに、動けない。
「そろ……そろ……いい加……減、離れま……せん?」
リーナの返事は、モフ毛に埋もれたまま、もごもごと響いた。
「……え〜……あと……五分だけ……。」
シロモフが肩の上で「ぷふっ」と笑いを噛み殺す。
グリスは天を仰ぐしかなかった。
「……五分……な。……五分……だ……けだ……ぞ。」
静かな時間が流れた。
リーナは、まるで子どもが大きなぬいぐるみにしがみつくように、
グリスのモフモフに顔を埋めたまま動かない。
その温もりが心地いいのか、時折、くすぐったい息遣いが伝わる。
五分が経ち──十秒ほど過ぎていた。
グリスがしびれを切らして声をかける。
「……リーナさん? もう五分はとっくに過ぎてますよ。(あれ?声が普通に戻ってる...。)」
モフ毛に埋もれたまま、リーナの声がもごもごと漏れる。
「……ん〜……あと……十……分……だけ……。」
その甘ったるい呟きに、グリスが深くため息をついた、その瞬間だった。
脳内に、小さく硬質な声が響く。
──《モフ度、現在15%。肉体形状、正常化開始──》
「……は?」
グリスの目が大きく見開かれる。
モフ毛の感覚が、肩から、腕から、すうっと引いていく。
白くふわふわだった右肩の毛並みが溶けるように霧散し、
温もりを失った肉体が本来の形に戻っていく。
「ちょ、待て待て待て──!!」
思わず声が裏返る。
リーナは気づかない。まだ、モフ毛に顔を埋めているつもりで、
グリスの腹に、真っ直ぐ頬を預けている。
──つまり、今戻ったら。
「これ……普通に……俺の腹に……リーアさんの顔が、埋まってんじゃ……!!」
頬の辺りに、リーナの柔らかい吐息が伝わってきて、
グリスの理性が猛烈に警報を鳴らした。
──やばい! 誤解される! いや、誤解以前に理性が!
「……無理無理無理! 離れろおおおっ!」
グリスは、リーナの腕をそっと外そうとしたが、
全然外れない。むしろ、ぎゅっと抱きしめる力が強くなる。
「ん……もうちょっと……。」
「ちょっとじゃない!! もう戻るんだから! ……離れろ、離れろおおお!!」
えいっと強引に身体を引き抜くと、
リーナは「あぁ〜!」と情けない声を漏らし、両腕で空気を抱く形になった。
腹に頬を預けていた温もりが一瞬で消えて、
リーナは呆けた目でグリスを見上げる。
「……グリス……? モフ……どこ……?」
その視線が、腹のあたりからグリスの顔へ、寂しそうに往復する。
グリスは思わず後ずさった。
「戻ったんだよ……! 今、普通の俺だ! だからもうモフはないの! わかってくれ!」
シロモフが肩の上で「プププ……!」と笑いを堪えていた。
離れたリーナの頬が、ほんのり赤い。
名残惜しそうに手を空へ伸ばしながら、小さな声で呟く。
「……あと……ちょっとだったのに……。」
「勘弁してくれ……!!」
「……もっと……モフ……。」
手持ち無沙汰にふにゃりと指を動かすリーナの姿に、
シロモフがぷるぷると肩で笑いを噛み殺す。
「さすがにモフ中毒モフ……。」
「否定ができない……のが悔しい!」
グリスは喉を鳴らしながら、軽く咳払いをして体勢を整えた。
ふと見れば、リーナが目を潤ませながらも、頬を赤くしている。
「……可愛すぎたんだもん……。」
「……何が……。」
「だって……グリスのモフ……ふわふわで……。」
言いかけたリーナに、グリスは額に手を当てて深くため息をついた。
だが、空気を切り替えるように、すっと表情を正す。
「……さて。遊びはここまでです。」
モフ毛が揺れる肩にシロモフを乗せ直し、グリスはリーナの前に向き直った。
「リーナさん。ご依頼の件、報告させてください。」
リーナも息を整え、真剣な眼差しで頷いた。
──
◆依頼の詳細報告
「……温室の奥、父君──レイテ様が残した“思い出の回廊”を、
リイナさんとレイナさんが無事に解きました。」
グリスの言葉に、リーナは微かに瞳を伏せ、耳を澄ます。
「回廊の最奥には、父君から三人宛の手紙が隠されていました。
リイナさん、レイナさん、そしてマルグリット夫人それぞれへ一通ずつ。
──家族へ向けた謝罪と愛の言葉でした。」
リーナの目元が僅かに潤む。
「……そう……。レイテ様……。」
グリスは頷き、続ける。
「三人とも涙を流されて、でもちゃんと前を向いてくださいました。
……その後、俺に“当家に仕えないか”とも言ってくださいましたが……。」
「断ったんだ?」
リーナが少しだけ笑って尋ねる。
グリスは肩をすくめた。
「はい。俺はただの平民ですから。」
シロモフが「モフ!」と誇らしげに声を挟む。
「ただ、“何かあれば後ろ盾になる”と。レイテ家が、今後は俺の味方になるそうです。」
リーナの瞳に安心の色が灯る。
「……そう……良かった……。
彼女たちの心が少しでも救われたなら、この依頼は大成功よ。」
「はい。」
グリスは小さく息を吐く。
──
◆能力の真実
リーナはふと、モフモフの右腕を見つめて小首をかしげた。
「それにしても……グリス。そのモフモフの能力について……改めて聞いてもいい?」
「……え?」
「あなたの能力……“クロニクルベアラー”。
普段は物語を拾ったり、残響を読んだりするだけじゃないわよね?」
グリスは口を閉じ、一瞬だけシロモフを見た。
シロモフが「言っても大丈夫モフ」と小さく頷く。
グリスは椅子に腰掛け、ゆっくり言葉を選んだ。
「……昔。俺には“師匠”が2人いました。名前は……まぁ、伏せますが。
その師匠が、ある日……人間には到底持てない“物語の残響を辿る力”を俺に授けてくれた。」
リーナは息を呑む。
「この能力は、“クロニクルベアラー”──物語を綴る者の証です。
時に思考を巡らせ、失われた真実を呼び戻す。
けれど……力を使いすぎると、ああなる。」
今は普通の右腕を軽く持ち上げる。
「体の感覚が限界を超えると、代償として“フォーチュン・リトリート《占術収縮》”という代償が発生する。俺の場合、使い過ぎの度合いによって体の一部だったり、身体全体がああいう“人形化”して、元の形が維持できなくなる。」
「元に戻る方法は?」
リーナが心配そうに訊く。
「自然に回復するか……あるいは、
…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………。」
「ん?あるいは何?」
「…………………………………………あるいは、誰かに癒してもらうとかして、モフ度を落ち着けるしかない。」
グリスはやや照れながら言葉を発し、リーナは頬をほんのり赤く染めながら、キラキラした眼差しで、
「……じゃあ……またモフ化したら……ギュ~していい!?」
「……許可してねぇけど……まあ、はい。」
呟きながら、グリスの耳の先が赤くなる。
「……それと。どこで師匠に会ったのかは……。
ちょっと……いろいろあってな。」
「いろいろ?」
「まぁ……別の町(世界?)で、変な神様に呼ばれた……とか……。」
「神様?」
「いやいや、冗談だって……。とにかく、今はもう会えない師匠2人から譲り受けた力だってことです。」
リーナは何かを言いかけたが、小さく笑って首を振った。
「……わかったわ。詳しくは、いつかグリスが話したくなったときに聞く。」
グリスは静かに頷いた。
──
◆新しい朝に
窓の外に、柔らかな朝陽が差し込む。
リーナは立ち上がり、そっとグリスの頭に手を置いた。
「……グリス、ありがとう。
貴方がいてくれて、本当によかった。」
「……勘弁してくれ……撫でるなって……。」
しかしくせ毛であるグリスの髪は、リーナの掌に心地よく馴染んだ。
シロモフが「モフモフ~」と楽しそうに揺れる。
物語はまた一つ、次のページを開く。
けれど、この静かな朝のモフモフだけは、
もう少し──続いていてもいいかもしれない。
第17話「◆いつものギルドに、いつもの声◆──占い師グリスの日常帳」へつづく
どうも、お世話様でございます!
焼豚の神でございます。
謎解きも面白いものですな~( ^)o(^ )♬
書いてみると(^_-)-☆
◆グリスの「モフ度」と能力関連設定◆
グリスの能力:「クロニクルベアラー(物語を綴る者)」
→ 他者の記憶・感情・空間の“物語構造”を感知し、世界を“読み解く”力。
→ 使えば使うほど“内側の温度(感情)”が昂ぶり、モフ度が上昇する。
モフ度
- 0~19%:平常
- 20~29%:末端ふわ化
- 30~49%:耳/尻尾ふわ化
- 50%以上:ぬいぐるみ化進行、人格への影響(語尾に“ぷぅ”など)
- 75%以上:上半身下半身がぬいぐるみ化急行、人格への影響(発声NGなど)
- 100%:完全ぬいぐるみ化(意識あり)=“魂を綴る最後の綴り”
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