第15話「◆継ぐ者の背を押す灯火◆──バレンスタイン邸への帰り道」
今日もよろしくお願いします!
今回はいつものストーリー(^_-)-☆
ストーリーに、どれだけ脂が乗っているか…ぜひ読んで確かめてください(*'ω'*)!
温室を満たしていた静かな月光が、遠い窓の外へと流れていく。
手紙を読み終えたリイナとレイナ、そしてマルグリット夫人の三人は、
今も尚、父から夫から託された最後の言葉を胸に刻むように、そっと涙を拭っていた。
その傍でグリスは、壁にもたれて静かに目を閉じていた。
シロモフがふわりと肩に乗り、まだ残る言葉の残響を見つめる。
ふいにリイナがグリスの前に立った。
「……グリスさん。」
その声は、弱くも儚くもなかった。
確かに父の言葉を受け継いだ者の声だった。
レイナも、マルグリット夫人も後ろに並ぶ。
リイナは深く頭を下げた。
「父の想いを……私たちに繋いでくれて、本当にありがとうございます。」
レイナも小さく礼をする。
「私……グリスさんがいてくれて、よかったです……。」
マルグリット夫人は微かに笑みを浮かべ、グリスの前で跪くように膝を折った。
「貴方は私たちの家の“光”でした。
……どうか、もう一度だけ言わせてください。
グリスさん、レイテ家に仕えませんか?
この家の物語を、共に紡いでほしいのです。」
グリスは目を伏せ、シロモフがちょこんと頭を撫でた。
答えは決まっている。
ゆっくりと、けれどはっきりと顔を上げる。
「……ありがたいお言葉です。でも俺は……物語を拾って歩くだけの、ただの平民です。誰かの屋敷に縛られたら、多分すぐにダメになります。」
マルグリットが静かに瞳を伏せ、そして小さく頷いた。
「……そうですか。わかりました。」
だがすぐに顔を上げたその目には、母としての強い光があった。
「ただ一つだけ。もし今後何かあったら……どんなに小さなことでもいい。
私たちレイテ家が、貴方の後ろ盾になります。
グリスさん。貴方がどこにいても、どんな物語を紡いでも……私たちは
貴方の味方ですから。」
リイナとレイナも、涙を浮かべながら笑う。
「絶対ですよ、グリスさん。」
「何かあったら、すぐに言ってください……!」
グリスは小さく息を吐いた。
モフリンクで敏感になりすぎた耳に、三人の声が深く染みてくる。
「……ありがとう。じゃあ、そのときは……。」
言葉の続きは飲み込んだ。
シロモフがこっそり小さく「モフ……」と鼻を鳴らす。
温室を後にするグリスの背中を、月光と家族の小さな灯がそっと見送った。
──
◆
ノルテ邸を出たのは、夜が白む少し前だった。
空の端に星が滲む。
冷たい夜気に包まれながら、グリスは一歩一歩を噛み締めるように、古い石畳を踏みしめていた。
シロモフが首元でぷらぷら揺れる。
「……グリス、泣かなかったモフね。」
「泣くかよ。泣くほど、まだガキじゃない。」
「……でも、鼻は赤いモフ。」
「モフるな。」
肩をすくめると、また一歩、夜の道が長く伸びた。
ようやく街外れの坂を下りきった頃、グリスはふと足を止めた。
街灯の残り火の下、懐から【術式カード】を取り出す。
「さて……。」
小さく息を整え、掌を掲げる。
すると空中に、青白い光の文字が浮かび上がる。
それは《クロニクルベアラー》専用のステータス表示。
ノルテ邸でのモフリンク、そして数々の残響読解……限界まで酷使した己の残り値を示す。
──% 53%。臨界点突破。
グリスの脳内でアナウンスが流れた。
《これより、フォーチュン・リトリート《占術収縮》を強制執行を開始します。3,2,1.....リアライズ開始!》
「はぁ……やっぱりか。」
言葉の終わりと同時に、体の奥から違和感が膨れ上がる。
次の瞬間。
「ボフンッ」
乾いた音が夜気に弾け、グリスの右腕がふわりと白い毛玉に包まれる。
肩、首筋、耳の先、背中に至るまで、あちこちがフカフカに。
「……ツラ……い……。こ……れ、どう……す……んだ……モフ……よ……。」
グリスの呟きを、シロモフが肩でけらけら笑った。
「言ったモフ、使いすぎモフ! でも帰ったら、どうせリーナに頭撫でてもらうんだから大丈夫モフよ!」
「いや、でも……。あの人に頭撫でられると、なんか……いい匂いするし……心が落ち着かないし……恥ずかしいし……モ……フ。」
あれこれ必死に反論するグリスを、シロモフは小さく鼻で笑った。
「このムッツリめ!!」
「ムッ……ツリ……じゃ……ねえ……っつ……の……モ……フ!」
そのやり取りの間に、二人はバレンスタイン邸の門前に立っていた。
朝の気配が遠くに滲む。
門番に挨拶を済ませ、静かに中庭を抜けると、広い玄関ホールに淡い光が差し込んでいた。
そして──
「グリス!?」
扉を開ける音と同時に、リーナの声が響いた。
寝間着の上から羽織ったローブのまま、眠たげな顔で駆け寄った彼女の視線が、グリスの“モフ化”した全身に釘付けになる。
「え……ちょっと……そのモフモフした体……どうしたの……何かの呪い!?」
リーナの声が裏返る。
彼女の翠の瞳が、まじまじとグリスの右腕、肩、首筋を交互に見比べる。
「い……や……まぁ、そ……の……。ちょっ……と使い……すぎ……てな……。」
「使いすぎて……って……何これ……!?」
グリスは居心地悪そうに頭をかいた──が、モフ化した指の間から白い綿のような毛が揺れるだけだ。
「……はぁ、やっぱ……りか。ツラ……い。これ……、どうや……った……ら戻……るん……だ……よ……。(クソッ、上手く発音できねぇ。これも、代償の制約か。)」
リーナはしばし唖然としていたが、突然ふわりと息を漏らし、
頬をほんのり赤く染めて目を細めた。
「……モフモフ……。」
「……え?」
「……可愛い……。」
「い……や可愛……いっ……て……! 俺……これ……で……も男……」
「……ふわ……触っていい……?」
「……………………は?」
リーナは恐る恐る、グリスの右腕のモフモフに指を伸ばした。
指先が触れると、ふわっふわの柔らかさが指を包む。
そのまま撫でると、シロモフよりも弾力があるらしい。
リーナの目が、完全に“とろり”ととろんだ。
「……はぁ……可愛い……。」
「い……や、待……て、リー……ナさ……ん……こ……れは……代償……で……恥ず……かし……いか……らやめ……」
「……グリス。」
顔を上げたリーナの目が、いたずらっ子みたいに輝いている。
「お願い。……ギュ~ってさせて……!」
「はぁ!?」
「だって……すごく……抱き枕みたい……モフモフで……。
お願い、ギュ~ってさせて……。」
グリスは必死に視線を逸らしたが、肩に乗ったシロモフがケタケタ笑う。
「観念するモフ! これは“モフの代償”モフ!」
「誰が“モフの報酬”だ……!」
しかし、リーナの瞳が潤んだ子犬のように見つめてくる。
普段は凛とした彼女が、こんな顔をするのは反則だ。
「……ちょっとだけだぞ……。」
観念したグリスの言葉を聞くと、リーナは顔をほころばせた。
「やった……!」
次の瞬間、ふわりと温かい腕がグリスを包み込む。
首筋、肩、胸のあたりまで、リーナがぎゅっと抱きつくと、モフモフの毛が彼女の頬をくすぐった。
「……すごい……ふわふわ……。」
「……恥ず……かし……い……。」
グリスの声が情けなく漏れた。
けれどリーナは、そんな彼の背にそっと額を預けると、
モフモフの奥に微かに残る体温を感じ取って、小さく囁いた。
「……無理させてごめんね。
ありがとう、グリス。」
グリスは何も言えなかった。
ただ、膨らんだモフ毛の奥で、自分の心臓が小さく高鳴っているのを感じるだけだった。
外の空が白んでいく。
その中で、モフ化したクロニクルベアラーは、
主の無邪気な“ギュ~”を受け止めるしかなかった。
夜が終わり、新しい朝がまた始まる。
物語は、まだまだ続いていく。
第16話「◆ほどけぬ腕と語られる真実◆──モフの向こうに灯る火」へつづく
どうも、お世話様でございます!
焼豚の神でございます。
謎解きも面白いものですな~( ^)o(^ )♬
書いてみると(^_-)-☆
◆グリスの「モフ度」と能力関連設定◆
グリスの能力:「クロニクルベアラー(物語を綴る者)」
→ 他者の記憶・感情・空間の“物語構造”を感知し、世界を“読み解く”力。
→ 使えば使うほど“内側の温度(感情)”が昂ぶり、モフ度が上昇する。
モフ度
- 0~19%:平常
- 20~29%:末端ふわ化
- 30~49%:耳/尻尾ふわ化
- 50%以上:ぬいぐるみ化進行、人格への影響(語尾に“ぷぅ”など)
- 75%以上:上半身下半身がぬいぐるみ化急行、人格への影響(発声NGなど)
- 100%:完全ぬいぐるみ化(意識あり)=“魂を綴る最後の綴り”
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