第14話「◆綴られし手紙◆───レイテ家元当主、最後の言葉」
今日もよろしくお願いします!
今回はいつものストーリー(^_-)-☆
ストーリーに、どれだけ脂が乗っているか…ぜひ読んで確かめてください(*'ω'*)!
夜風が温室の残り香をさらった後、三人の女性の前には、蝋封がされた三通の手紙が並べられていた。
父が、夫が、この世を去る前に残した最後の手紙。
それぞれに宛てられた羊皮紙は、年月の黄ばみを宿してなお、確かな温もりを抱いているようだった。
月明かりの下で、リイナがそっと一枚を取り上げた。
封蝋には、家名と父のイニシャル──E.L.(エドワルド・レイテ)。
指先が震える。封を切る音が小さく響いた。
■リイナへの手紙
『愛しきリイナへ
お前がこの手紙を読む頃、私はもう隣にいてやれないだろう。
小さな手を握って庭を歩いたあの日のことを、私は今も鮮明に覚えている。
リイナ。お前は小さな頃から泣き虫で、けれど誰よりも強くて優しい心を持っていた。
母を支え、妹を導き、時には自分の悲しみを奥にしまってでも人を思いやれる子だった。
本当は泣きたい夜もあったろう。弱音を吐きたい日もあったろう。
それでもお前はいつも立派に笑ってくれた。
……すまない。
父として、もっと傍にいてやれたらよかった。
もっとお前の小さな背中を抱きしめてやれたらよかった。
どれだけ後悔しても、もう私には声をかけることはできない。
けれどリイナ。お前はひとりではない。
母を、妹を、そしてお前を愛する人々がいる。
もし迷ったら思い出してほしい。
お前は、私の誇りだ。
リイナ、ありがとう。
お前の父親として生きられたことを、私は誇りに思う。
そして何より──愛しているよ。』
リイナの頬に、大粒の涙が零れ落ちる。
何度も瞬きをしても、文字が滲んで読めなくなる。
肩を震わせ、声を押し殺しながら、彼女は父の残した言葉を胸に刻んだ。
隣でレイナがそっと、姉の背中に手を置く。
■レイナへの手紙
今度は、レイナが震える指先で二通目の封を開く。
『愛しきレイナへ
小さなお姫様。
お前がこの手紙を読む頃、私はどこか遠いところでお前を見守っているだろう。
レイナ。お前は幼い頃から無邪気で、人一倍の感受性を持っていた。
小さな花を見つけては笑い、鳥の声に耳を澄まし、母と姉を幸せな気持ちにしてくれた。
だが私は、父としてお前の前でどれだけの笑顔を返せただろう。
私の仕事は多くの時間を家族から奪った。
言い訳にはしたくないが──もっとお前の話を聞いてやればよかった。
レイナ、どうか笑っていてほしい。
悲しいことがあったとしても、誰かを信じる気持ちを手放さないでほしい。
お前の純粋さは、母に似て、ときに誰かに利用されるかもしれない。
それでも──それでも私は、レイナ、お前の笑顔が世界で一番美しいと信じている。
お前の父として生きられたことに、私は救われた。
ありがとう。そして──愛しているよ。』
読み終わったレイナの小さな嗚咽が、温室の隅に柔らかく響いた。
肩に置いたリイナの手を、レイナは両手で握り返す。
小さな頃からずっと守ってくれた姉が、今もここにいる。
父の言葉が、二人の心の奥に再び灯をともす。
■マルグリット夫人への手紙
最後の一通を、マルグリットがそっと手に取った。
指先に当たる封の硬さが、どこか遠い日の夫の声を呼び戻す。
そっと封を割り、ゆっくりと便箋を取り出す。
『愛するマルグリットへ
こうして手紙を書いていると、不思議と結婚した日のことを思い出す。
無骨な私の隣で、笑ってくれた君がいてくれた。
忙しさにかまけて、寂しい思いばかりさせた。
誰よりも強く、誰よりも優しい君に、私は甘えてばかりだった。
子供たちが生まれてからは、君が母としてだけでなく、私にとっては家そのものだった。
君が笑えば家は光に満ち、君が泣けば世界が灰色に見えた。
私が先に旅立つことを、どうか許してほしい。
本当はもっと一緒にいたかった。
君と、リイナとレイナと、もっと季節を重ねたかった。
私はこの家族の一員として、君の夫として、幸せだった。
マルグリット。
どうか残された時間を穏やかに、そして君らしく生きてほしい。
私の最愛の妻へ──
愛しているよ。』
マルグリットの睫毛に、涙が溜まる。
静かに息を詰め、封の端を握りしめた手が、小さく震えた。
そばでリイナとレイナが、母の肩をそっと抱く。
何も言わない。ただ、共にいる。
夜風が温室の花々の残り香を撫で、父の声が今もこの空間に満ちているかのようだった。
少し離れた場所で、その光景をじっと見つめていたグリスが、小さく息を吐いた。
胸の奥で、何かがじんわりと温かく広がっていく。
小さな囁きが漏れる。
「……これが、家族の在り方なんだな。」
肩に乗るシロモフが、ふわりと耳元で囁き返した。
「そうだよ。家族は喜怒哀楽を享受して、互いに感情を共有して、悲しみも喜びも一緒に纏う……そんな大切なものなのだモフ。」
グリスは笑ったような、泣いたような顔で目を伏せた。
リイナの涙、レイナの嗚咽、マルグリットの微かな微笑み。
人が人を愛し、誰かが誰かを想い続ける限り──物語は途切れない。
クロニクルベアラーとしての役目を超えて、グリスの胸に一つの確信が残った。
誰もが物語を持っている。
そしてそれを支えるのは、こうして手を握る誰かの温もりなのだと。
夜の温室に、月光が静かに降り注ぐ。
それは遠い誰かの祝福のようで、
生き残った者たちを優しく包む、あたたかな灯りだった。
第15話「◆継ぐ者の背を押す灯火◆──バレンスタイン邸への帰り道」へつづく
どうも、お世話様でございます!
焼豚の神でございます。
謎解きも面白いものですな~( ^)o(^ )♬
書いてみると(^_-)-☆
◆グリスの「モフ度」と能力関連設定◆
グリスの能力:「クロニクルベアラー(物語を綴る者)」
→ 他者の記憶・感情・空間の“物語構造”を感知し、世界を“読み解く”力。
→ 使えば使うほど“内側の温度(感情)”が昂ぶり、モフ度が上昇する。
モフ度
- 0~19%:平常
- 20~29%:末端ふわ化
- 30~49%:耳/尻尾ふわ化
- 50%以上:ぬいぐるみ化進行、人格への影響(語尾に“ぷぅ”など)
- 75%以上:上半身下半身がぬいぐるみ化急行、人格への影響(発声NGなど)
- 100%:完全ぬいぐるみ化(意識あり)=“魂を綴る最後の綴り”
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