第10話「◆君に届け、心の中のあの日の手紙」
今日もよろしくお願いします!
今日はちょっと謎解き要素も入っているので一緒に考えながら読み進めると
物語とシンクロできて面白いですよ~( ^)o(^ )♬
ストーリーに、どれだけ脂が乗っているか…ぜひ読んで確かめてください(*'ω'*)!
──白銀の陽が差す、静かな朝。
グリスはバレンスタイン邸の応接間にいた。重厚なソファに腰かけ、手には丁寧に封蝋された一通の手紙。依頼はこれを“確実に”、ある人物へ届けること。
「ねぇグリス、手紙、しっかり握ってる?シワになってない?」
リーアの声は、からかいと心配の中間くらいで揺れている。長い睫毛の奥で、アクアブルーの瞳がこちらをじっと見ていた。
「大丈夫だって……ていうか、まだ気にしてんの?」
「だって、相手はあの《レイテ侯爵家》。しかも侯爵令嬢“姉妹”。この街でも一、二を争うほど“変人”って噂の──」
「気難しいって言われてる人ほど、案外普通だったりするんだよ」
「……そんなふうに思えるようになったのね、グリスも」
ふと、リーアが微笑を深める。
「昔は、あたしに話しかけるのも顔真っ赤にしてたのに」
「なっ──今だって赤くないから!」
「ふふ。冗談♪ ごめんごめん♪」
お茶目に笑うリーアに、グリスもつられて苦笑するしかなかった。
──そんなひとときが、心地いい。
でも、今日は依頼がある。
彼は立ち上がり、そっと一礼した。
「じゃあ……行ってくるよ」
「うん、気をつけて。“未来を盗む者”さん?」
「……やめてよ、その言い方」
「ふふ……冗談♪」
※ ※ ※
◆レイテ侯爵邸──“姉”からの第一の試練
高台に建つノルテ侯爵邸。その玄関前で、グリスは凍てついた並木道に目を細める。まるで「邸そのものが心を試す装置」であるかのような空気が流れていた。
「よく来てくれました、配達人さん」
迎えに現れたのは、白銀の髪を丁寧に結い上げた女性──リイナ・レイテ侯爵令嬢。
「……グリスです。手紙の配達に来ました」
「ふふ。“ただ届けるだけ”では、つまらないでしょう?」
彼女は凛とした態度で扇子を畳み、笑う。
「ならば……邸宅に足を踏み入れる前に、ひとつ、試させてもらうわ」
「あなたには、邸宅の中にある“正しい道”を選び、ここに辿り着いていただきます。もちろん、一本道ではありません」
(……やっぱり“変人”姉妹だ)
リイナは、邸内図が描かれた紙と、箱を一つ差し出した。
「箱の中には“7枚の鍵”が入っています。館には“6つの扉”がある。それぞれに開く鍵はただ1つ。もし、間違った鍵を使えば……違う場所に誘導される。つまり“迷う”ということです」
「……正解ルートを見抜けってことですね」
彼女が差し出したのは、何の変哲もない“7つの鍵”と、一枚の手描きの見取り図。
「この館の“正門”を開ける鍵は、この中にただ一つ。だが、選び方は普通とは違うわ」
「……ヒントは?」
「この邸は、かつて“語り部の家”と呼ばれていたの。正門にふさわしいのは、“未来の扉”を開く鍵よ」
グリスは鍵を見下ろした。
刻まれた文字は:「夢」「罪」「断絶」「赦し」「始」「終」「輪」
──“クロニクルベアラー《物語を綴る者》”の力が、ふっと胸の奥から湧きあがる。
グリスは、目を閉じた。
《物語とは、起承転結ではない──“開かれるべき感情の順序”だ》
そして脳裏に、静かに“語られなかった物語”が描かれはじめる。
「罪」があり、「赦し」が生まれる。
「断絶」は「夢」に変わり、やがて「輪」を繋ぎ──────
────────────
「終」末から始まり、終わってから始まることもあれど────
それでも“未来”を選ぶには、「始」が必要だ。
目を開ける。
「この鍵です。“始”」
リイナは、驚いたように目を細め──やがて、静かに微笑んだ。
「……見えているのね。“語られない物語の先”が」
鍵は音もなく、重厚な門を開いた。
「なるほど……あなた、只者じゃないのね」
「……お褒めにあずかり光栄です」
リイナは、厳しい面差しをふと和らげると、グリスの持っていた封蝋を手に取った。
「この手紙──妹へ届けてください。あの子は変わり者ですが……心根は、誰よりも繊細な子なんです」
※ ※ ※
◆レイナの“迷宮”──記憶と直感の境界線
再び邸の奥へ。妹レイナ・レイテ侯爵令嬢が待つ迎賓の間へ案内される。
彼女は椅子に深く腰かけ、グリスに視線だけを向けた。
「ご苦労様。姉に認められたってことは……あなた、“面白い”のかもね」
「……手紙、お渡しします」
「でも、私はすぐに受け取らないわ。うちの“伝統”ってやつがあるの。挑戦、してもらうわよ?」
レイナは立ち上がり、グリスを邸内の“記憶の回廊”と呼ばれるエリアへと誘う。
「“ある共通点”を見抜いてもらうわ。うちの客間を三つ巡って、“違和感のある部屋”を選んで」
「……いいですよ。やりましょう」
各部屋に飾られた花瓶、絵画、カーテン、時計。
微細な装飾と家具の向き……一見しただけでは“どこも同じよう”に整っている。
だが、グリスは再び能力を使う。
──“言葉にならない物語”の流れを、視線と記憶でなぞる。
“この部屋には、今日という時間が流れていない”
“そこに飾られた花が、唯一 ──枯れていた”
「……二番目の部屋。“花が昨日の朝に切られていた”ものです。今日の光じゃない。空気が止まってました」
レイナは数瞬、無表情のまま、
やがて──ふっと口元を緩めた。
「あなた、やっぱり“面白い”わね」
そして、グリスにもう一通の手紙を手渡す。
「ねぇ、グリス。実は私、“あなたの観察眼”に注目してたの。お姉さまからの手紙も、“もう一つ”あるのよ。私じゃなくて、レイテ家のマルグリット様、つまり私たちのお母さまに渡すものが」
グリスの目が驚きに見開く。
「これは、レイテ家の女主人マルグリット様へ。……姉様が託した、ほんとうの“依頼”よ」
※ ※ ※
◆レイテ邸──心の奥の依頼
夕暮れに差しかかるころ、レイテ邸の門が開かれた。
レイテ邸へ足を運ぶと、女主人マルグリットは静かにグリスを迎える。
彼女は、館の書斎へと案内し、重々しい空気の中で口を開いた。
「──この街の“中心”にあるのに、“どの地図にも描かれず、どこからも見えない”場所があります。そこは、亡き夫が好んだ場所でした」
「質問ですか?」
「いいえ。“信頼の確認”です」
グリスはしばらく考え……そして、そっと言葉を紡ぐ。
“描かれない”のではない
“描けない”のだ。
なぜならそれは、“罪と記憶”が交錯する“祈りの空間”。
建築物ではなく、“許されざる思念の保管庫”──
だから、どの地図も、そこを“空白”にした。
「それ、教会のことですよね。地図では“十字架の影”だけが、さりげなく描かれていた。でも実際の構造から考えて──そこに建物がないのは“不自然”すぎます」
マルグリットは、しばらく何も言わなかった。
やがて、グリスに向かって深く頭を下げた。
「あなたは“言葉にならない領域”を見通す方なのですね。──亡き夫が遺した“手紙”が、この館のどこかにあります。それを、どうか探していただけませんか」
刻々と物語が刻まれ、次の断片へと誘われていった。
第11話「◆バレンスタイン邸への帰り道──再び灯る夜」へつづく
謎解きの旅を終えたグリスは、契約精霊シロモフとともにバレンスタイン邸へ帰還。
疲労から“モフ度”が上昇し、ぬいぐるみ化の危機に直面するが?
どうも、お世話様でございます!
焼豚の神でございます。
これから新キャラバンバン出てきますぞ~( ^)o(^ )♬
ホッホッホ♬
私のペンの脂もノッテきておるしの!
良ければ、感想・ブクマ・お気に入り、おかわり自由でお待ちしてます!




