第9話「◆再会はまだ早く、だけど、君の声を知っている」
今日もよろしくお願いします!
ストーリーに、どれだけ脂が乗っているか…ぜひ読んで確かめてください(*'ω'*)!
あれから──1週間が経った。
グリスはすっかり“黒き手”のギルドに溶け込んでいた。
地下の空気にも慣れ、油の匂いももう気にならない。今日も盗賊たちは出発前にグリスの前に並び、どこかで買ってきた胡散臭いおみくじのような紙を持って「占ってくれ!」と叫んでいた。
「よお、グリス。今夜のルート、北門か南門、どっちがマシだ?」
「うーん、南門。昨日から北の巡回増えてるって情報あったから。あと、靴下は左右逆に履くとラッキーかも」
「お、ありがてぇ!」
「ほんとにラッキーになるのか?」
「ならなくても“占い通過儀礼”だろ?」
シロ=モッフが隣で笑う。
「お前、すっかり“ギルドの福豚”だな」
「だからその言い方やめてってば……あと、フォーチュンスニッチャーだってば!」
グリスは苦笑しながらも、その“定位置”に心地よさを感じていた。
(……ああ、ちゃんと居場所があるって、こういう感じなんだ)
その日の午後、ギルドの掲示板に張り出された“緊急依頼”が目に入った。
──依頼主:貴族“バレンスタイン家”より
──内容:機密書簡を指定邸宅へ届ける
──条件:土地勘のある者、記憶力に自信のある者
「ほぉ……こんな依頼、珍しいな」
「届けるだけじゃん、楽勝だろ」
「いや、場所が厄介なんだよ。あの丘の上の迷路みたいな地区だろ?」
「方向音痴が行ったら、屋敷の裏庭で一生彷徨うって噂のとこじゃね?」
そのとき、全員の視線がある一点に集中した。
「……ボク?」
「そうだ、グリス! お前、道覚えてるよな!」
「え、あ、うん……」
気づけば、手に書簡が握らされていた。
「頼んだぜ、“運命を盗む占術師”様!」
「もうその肩書き、半分呪いみたいになってるよぉ……」
丘の上へ続く道は、かつてグリスが子供の頃に遊んでいた記憶の片隅にあった。
(この階段の傾き、木の配置……ああ、懐かしいな)
指定された屋敷の門の前に立つと、銀色の紋章が目に入った。
──バレンスタイン家。そこはかつての友人、リーアの家──だった。
貴族街の奥、装飾的な鉄柵の門の前に立ち、グリスはひとつ深呼吸をした。
重厚な門柱には、細かく彫られたバレンスタイン家の紋章──魔を滅する剣と聖なる剣が交差する美しいレリーフ。
「……すごいな。さすが、名門中の名門ってやつか」
グリスは思わずつぶやいた。
こんな場所に“手紙を届けるだけ”のはずが、鼓動は妙に高鳴っていた。
扉に備えられた銀の呼び鈴を押すと、ほどなくして静かに扉が開いた。
現れたのは、黒のロングスカートに白のエプロンドレスを身に着けた、気品ある年配のメイド。
「ご用件をお伺いいたします」
「ええと、...ギルド《黒き手》から参りました……グリスです。ご依頼の件で──」
「……お待ちしておりました。どうぞ」
一礼したメイドは、グリスを導くように館の中へと歩き出した。
バレンスタイン邸の中は、外観以上に静謐で荘厳だった。
大理石の床、天井から垂れるシャンデリア。壁には歴代当主の肖像画が並び、窓辺のレースカーテンは風にそよぎながらも、凛とした気品を崩さない。
「こりゃ……本気の“お嬢様”だな」
シロ=モッフが、グリスの肩で小さくつぶやいた。
(……わかってるよ。でも、まだ会うって決まったわけじゃ……)
不安とも期待ともつかない感情が、胸の奥をチリチリと揺らす。
奥へ進むにつれて、香る空気も変わった。
甘くも清廉な──どこか懐かしい、あの香り。
「お嬢様、お連れしました」
メイドが告げ、重厚な両開きの扉をゆっくりと開いたその先。
──そこに、彼女はいた。
「……やっぱり、君だったんだ」
服のすそをゆるやかに揺らし、振り返るその姿。
透き通るような白金のウェーブロングが、月光のように光を宿していた。
アクアブルーの瞳は澄んだ水面のようにまっすぐで、見る者を吸い込む力がある。
彼女の名は──リーア・ルクレシア・バレンスタイン。
グリスよりふたつ年上でありながら、気さくでお茶目な笑顔と、名門貴族としての誇りを自然とまとった“戦姫令嬢”。そのグラマラスな体躯としなやかな所作が、広間の空気すらも優雅に塗り替えるようだった。
「リーア……」
その名を口にした瞬間、胸の奥から懐かしさと、ほんの少しの罪悪感がこみあげてくる。
「……よく来てくれたね、グリスくん」
「え……知ってたの?」
「うん。名前を見た時に、ピンときたの。“運命を盗む占術師”って、まさかあのグリスくんが……って」
グリスはバツが悪そうに笑った。
「まさか、こんな形で再会するなんてね」
リーアはくすりと微笑むと、少し首をかしげた。
「冗談♬ ごめんごめん♬ ……でも、ちょっと嬉しかったよ」
変わらない──いや、少し大人びた彼女の笑顔に、グリスは不意に目を逸らした。
「……お前、全然変わってないな。いや、変わったか……ますます美人になった、って言ったら殴られる?」
「褒め言葉はちゃんと受け取っておく。でも……次、冗談抜きで言ったら──」
グリスの耳元に顔を寄せ、リーアはにこっと笑って囁いた。
「罰として、紅茶のフルコース付きで昔話、全部聞かせてね♡」
「え、そんな罰ある!?」
「あるの♡」
「......。(え?こいつらオイラを横目にしてイチャついてやがる!なに?会えなかった期間長いのに、
ちょっとはギクシャクする感じとかないわけ??あんなに、時間かかったんだよ?ここまで来るのにさ?
ねえ、みんなもそう思わない!?)」
「ん?どうしたんだよ、シロモフ??」
「んん~何でもないよ!」
肩をすくめる仕草をするグリスと白い毛玉に、リーアはくすくすと笑った。
その笑顔に──心の奥で、何かがほどけていくのを感じた。
(やっと、ちゃんと向き合えるかもしれない)
そう思えたのは、グリスが“居場所”と“名前”を得たからだ。
フォーチュン・スニッチャー”ー運命を盗む占術師ー。
少しずつ、グリスは“あの頃の自分”を追い越しはじめていた。
──再会は、まだ早いと思っていた。
でも。
君の声は、ちゃんと、心に残っていた。
【次回予告】第10話「君に届け、心の中のあの日の手紙」へつづく
届くはずのなかった言葉が、今、風に乗って動き出す。
盗賊として、占術師として、そして一人の“人間”として──
グリスの初めての依頼が、世界をほんの少しだけ変えていく。
どうも、お世話様でございます!
焼豚の神でございます。
新キャラですぞ~( ^)o(^ )♬
いや~、ここまでが長かった!
本間に長かったで!
ヒロインと主人公が邂逅を果たすまでのストーリーを描くのに!!
でも、描けてよかった!
これから物語が加速度的に面白くなっていくからお楽しみに(^_-)-☆
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