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第8話「◆運命を盗む者◆──占術師、始動」

今日もよろしくお願いします!


ストーリーに、どれだけ脂が乗っているか…ぜひ読んで確かめてください(*'ω'*)!

──夕暮れ時。赤く染まった空の下、グリスは広場のベンチに腰を下ろしていた。


マッサージ店での激戦(筋肉との戦い)を終えた身体はまだ小刻みに震えている。


「……はぁ。あれが世の中ってやつか……」


「“働くってことはつまり全身の筋繊維とプライドを同時に粉砕されること”……って辞書に書いといていいよな?」


「そんな辞書、誰も使わないけどな」


隣には、相棒(?)のシロ=モフがぷかぷか浮かんでいた。白い毛玉のような姿はどこまでも安らぎを与えてくれる。


「でも……働いた分、銀貨もらえた時は、なんかこう……嬉しかったんだ」


グリスは手の中の小さな袋を見つめる。重みはない。でも、自分の行動で得た“はじめての報酬”。その光る小さな粒よりも、それを得た意味が、胸の奥にずっしりと染み渡っていた。


「それに気づけただけでも、お前、けっこう成長してると思うぞ」


「……じゃあ、次に進まなきゃな。だけど──次、何すればいいんだろ……」


真剣なまなざしで夕日を見つめるグリス。


「ボクに……何ができる? 何が得意なんだろう?」


──その問いに、シロ=モフも珍しく静かになった。





※ ※ ※




夜。偶然通った路地裏で、グリスは妙な既視感を覚える。


「……ここ、前にも通った気が……」


(右に傾いた街灯、地面のヒビ、壁の染み……間違いない。確かに見た)


記憶が映像のように蘇り、ある“感覚”に導かれるまま、手が壁に触れる。


──ズズ……。


目の前のレンガの一部がわずかに沈み、そこに、ひび割れた鉄の扉が現れた。


「……あった、隠し通路……!」


吸い寄せられるように地下へ続く階段を下る。下は、まるで異世界のような賑わい。薄暗いランプの光、酔っ払いの笑い声、そして漂う煙草と油の混ざった空気。そして、お酒とたばこ、男たちが談笑しあう笑い声が室内に響いていた。


そんな喧騒は、グリスとシロ=モッフの登場でシーンと鳴りを潜めていた。一様に、二人に目を向ける大人たち。そして、そんな二人に声を掛ける男が一人。


「よう、新入りか、お前?」


「なんか小さいな。子供じゃねぇか?」


「オーク族か? んん?でも焼けてるぞ、コイツ?」


「焼豚族って新種? なんかうまそう……ジュルリ」


「誰が焼豚だああああああ!!」


盗賊ギルド『黒き手』──そこが、彼の足を踏み入れた場所だった。





グリスが騒がしい酒場のような空間へ一歩踏み出した瞬間、空気が変わった。


そこには街の喧騒とも、旅の道中で感じたものとも違う「密度」があった。笑い声が響いているのに、

どこか殺気立っている。油断すれば背中を刺されそうな温度の空間。


(……なんだろう、この空気……)


焼豚族だの、オーク族だのとからかわれながらも、グリスは心のどこかで妙な感覚を抱いていた。

──懐かしい。いや、違う。これは、「安心」に近い。


「おい、大丈夫か? 怖気づいたなら帰るか?」


シロ=モッフがひそひそと耳元で囁く。


「……ううん、ちょっとだけ安心してる。なんだろう……怖いけど、落ち着くっていうか」


「おい、こんな物騒なとこで落ち着くなよ! お前の“感覚”どうなってんだ!?」


(そうだ、ボク──小さい頃から、こういう“場”をよく知ってる)


街の裏道。人の目を盗むルート。隠れて暮らしていた日々。

“陽”では生きられなかった少年には、むしろこういう“陰”の気配が馴染んでいた。




「なぁ坊主、占い屋か? テーブルなんか出して。見世物か?」


「……ううん、なんか、やってみたくなっただけ」


グリスはギルドの隅にあった空きテーブルに腰を下ろし、紙切れと小枝のようなペンを手にした。何も決まっていない。でも、やってみようと思った。


──ボクに、できること。


目の前の盗賊たちは物珍しげに近づいてくる。


「占い? お前、そんな歳で?」


「オレの死期、当ててみろよ」「恋愛運お願いしまーすw」





茶化す声、疑いの視線。でも、グリスはそれを遮るように、じっとその男の「目元」を見つめた。


(……まばたきが不規則。寝不足、じゃなくて不安か。腰の革袋……あれ、位置が変わってる。何か隠してる……)


視線、癖、動作、装備。小さな違和感が“言葉”へと変換される。


「……あのね、明日あなた、すごく怒られる。ちゃんと、昨日の報告してないよね?」


「えっ……!? な、なんでそれ……」


「バレてるよ、たぶん。あの“口元にホクロのある女幹部”に」


「……あの鬼女かよ……マジか……」


周囲がざわつく。


(やっぱり……ボク、無意識に“見て”、それを“繋げて”るんだ)


別の盗賊が、面白がって前に出た。


「オレは恋愛運だ。最近、いい感じの女がいてさ〜」


(首元に香水。手の甲に薄い掻き傷……猫……?あ、いや、爪じゃない。ネイル……女物……)


「その女の人、他にも男がいる。……たぶん、ギルドの中にも一人。気をつけたほうがいいよ」


「……マジかよ……いや、昨日、別の男と歩いてたな……!」


「ま、マジで当たってんのかコレ!?」「すげぇぞコイツ!」


冗談のつもりだった場が、一転、熱を帯びていく。

いつの間にか人が集まり、まるで“占いブース”のような状態になっていた。


「グリス、お前──」


「うん。もしかしたら、これ……“できる”かもしれない」


自分では当たり前だった“観察と記憶”が、ここでは“占い”として認められている。

しかもそれは、ただの娯楽ではない。情報は、彼ら盗賊にとって“生きる手段”なのだ。


「……情報を渡す代わりに、銀貨でもパンでもくれれば……生活もできるし……」


それは、彼にとって“生きる手段”にもなる職業だった。


──その夜、盗賊ギルドの誰かが言った。


「お前の占い、マジで当たるじゃねーか。予知と潜入を合わせたみてぇな……占術&盗賊をあわせるとしたら......なんて言うんだ……ああ、そうだ」


「──運命を盗む占術師フォーチュン・スニッチャー──だな!」


グリスは驚いた顔で目を見開いたあと、そっと口元を緩める。




「……その名前、気に入ったかも」


肩の荷が、ふっと降りた気がした。


(──もしかしたら、ここが“ボクの居場所”なのかもしれない)







そう言ってくれたのは、数日前まで「うまそう」と言ってきた盗賊だった。


誰もグリスを笑わなかった。

誰も“焼豚”のままで扱わなかった。


彼の言葉は、もう彼の価値になっていた。






その夜、グリスはギルドを後にしながら空を見上げた。星が瞬いていた。


「……ボク、ここに居場所を見つけたんだな」


「言っただろ。お前には人の記憶に残る力があるって」


シロ=モッフがそっと肩に乗る。


「もう、あのころのボクじゃない。少しずつだけど、前に進んでる。落ち込まないし、もうブレない」


風が吹く。その先の路地の向こう、馬車が止まっていた。


──その横に立つ、ローブ姿の女性。


黄色みががかった金の髪、月明かりに照らされる姿。

その顔は見えなかったけれど──胸がきゅっとなった。


(……やっぱり、あの人に似てる……)


手を伸ばすのをやめて、足を止める。


(でももう、逃げない。……もう謝る準備はできてる)


「なあ、シロ=モッフ。運命って、たまに面白いくらいピタッとはまるんだな」


「おう。焼豚にしては上出来だな!」


「だからそれやめて!!」


ふたりの笑い声が夜に溶ける。


心は──あの頃より、ずっと温かかった。




◎次回予告◎

第9話「再会はまだ早く、だけど、君の声を知っている」へつづく


盗賊ギルド《黒き手》での生活にも慣れはじめたグリスは、“占術師”として少しずつ仲間の信頼を得ていた。

そんなある日、彼に舞い込んだのは、貴族邸へ手紙を届けるという初めての正式な“依頼”。

その行き先は、かつて逃げた彼女との“再会”を告げる場所でもあった──。

過去と向き合う覚悟が試されるなか、運命の歯車が静かに回り始める。

そして、扉の向こうから現れたのは──懐かしくて、少しだけ遠い“あの声”だった。



どうも、お世話様でございます!


焼豚の神でございます。

新キャラ登場です~( ^)o(^ )♬


誰なのかは、徐々に明らかになっていきますよ(/・ω・)/

お楽しみに(^_-)-☆


良ければ、感想・ブクマ・お気に入り、おかわり自由でお待ちしてます!

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