第5話②:「“帰れるかもしれない”その予感が、ボクの中でざわめきを起こした」
今日もよろしくお願いします!
ストーリーに、どれだけ脂が乗っているか…
今日のお話は、グリス君が己の心の弱さと対峙して克服していくお話になります。
ぜひ読んで確かめてください(*'ω'*)!
──“怖い”は、進んでる証拠だから。それでも、前に進みたいという気持ちが己の弱さに打ち勝つ方法なのさ。
そんなツカサの言葉に背を押されるようにして、グリスはまたひとつ、前へと歩を進めていた。
夜が明け、東の空が白み始めた頃。
グリスはひとり、ツカサたちの店の裏庭にいた。朝露に濡れる芝の上、静けさに包まれたその場所で、彼は膝に開いた本と、右手に握られた万年筆を交互に見つめていた。
(この力……“クロニクル・ベアラー”って、やっぱり自分には重すぎるのかな……)
ページの上で、ペン先が微かに揺れる。何度も何度も、同じ問いが頭をよぎる。なぜ自分だったのか。なぜこの力を託されたのか。
グリスは、思い返す。
──異世界で目覚めたあの日。目の前に現れたのは、仁義に熱く釜の飯を一緒に食べたらそれはもう一種の家族だと、温かい言葉を発した二人の青年だった。
ひとりは、気さくで少しお調子者の兄・ツカサ。
もうひとりは、冷静で厳格な弟・レンジ。
二人は「君には“書く力”がある」と語った。記録し、選び、未来を描き直す力。
神様兄弟の試練と契約のなかで、グリスは学び、問いかけられ続けた。
“記録とは何か?”
“変えるとはどういうことか?”
それは、ただ強くなることじゃない。
世界を都合よく書き換える力でもない。
過去の痛みと向き合いながらも、真実を記し、可能性を選び取る意志。
(……だけど)
グリスはペンを握り直し、空を見上げた。
(今のオレに、それを使いこなす資格なんて……)
「……思い出して」
ふいに聞こえた声に、グリスは目を見開いた。
誰もいないはずの庭に、風のような気配。
──それはかつて、森の中でツカサが語った言葉だった。
「記録は、痛みと向き合った者にだけ、意味を持つんだ」
「……君は、“弱かった自分”を知ってる。その時点で、十分に強いんだよ」
そう、あの日、ツカサは言ってくれた。
レンジもまた、無言でそっと背を押してくれた。
(……思い出した)
異世界で初めて、誰かに本気で期待されて、誰かの“弟”として必要とされたあの日を。
「ボク、やっぱり……書くよ」
静かに、けれど確かな決意が声に乗る。
「“帰ること”も、“残ること”も……自分で選べるようになるまで」
その瞬間、本のページが光に包まれた。
白紙だったページの中央に、淡い筆跡が浮かび上がる。
《未来記録・発動条件:承認完了》
万年筆の先端が、まるで小さく震えたかのようにぴたりと止まり、風が庭を優しくなでた。
「……っ」
思わず、グリスの胸にこみ上げるものがあった。
ずっと過去に縛られて、何者にもなれなかった自分。
でも、今は違う。
たとえまだ力が未熟でも、選ぶのは自分だ。
(ボクは、もう逃げない)
まるでそれを祝福するように、東の空が赤く染まりはじめる。
そのとき、背後からもうひとつの気配が近づいてきた。
「ようやく、その気になったか」
ツカサの声。
振り向けば、レンジも隣に並んでいた。
「今の言葉、聞かせてもらったよ。……よく言ったな、グリス」
「承認完了の光……あれは、君の決意を神格が受理した証だ」
「だから今からが、本当の試練だ」
レンジが静かに言い放つ。
「未来を“記す”者として、そして“書き換える”者としての適性……“クロニクル・ベアラー”の本質を、今から俺たちが試す」
「グリス。これが、最後の試練だ」
ツカサの口元に笑みが浮かぶ。
「それを乗り越えたら、君は本当に、自分の物語を歩き出せる。……準備はいいか?」
グリスは、まっすぐに二人を見据え、ゆっくりと頷いた。
「うん。ボクは……自分の意思で、未来を選ぶって決めたから」
その瞳には、もう迷いはなかった。
──こうして。
少年は、選んだ。
書くことを。
変えることを。
そして、受け止めることを。
次回。
第0章、最終試練――。
“書き手”として、一歩目を踏み出す物語が始まる。
どうも、お世話様でございます!
焼豚の神でございます。
今回も読了しに来てくださった皆様ありがとうございます('◇')ゞ!
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