第17話 「記録なき世界 ― The Blank Chronicle ―」
おはようございます!
よろしくお願いします!('◇')ゞ
――光が、ゆっくりと退いていった。
世界を包んでいた白の奔流が静まり、代わりに漂うのは、音も色も匂いもない“無”。
地も空も存在しないのに、確かにそこに立っている感覚だけがあった。
「……ここは……?」
リーアの声がかすかに響く。
だが、反響も風の音も返ってこない。まるで、声そのものが存在を拒まれているかのようだった。
グリスは拳を握り、空を仰ぐ。
白い世界の中で、唯一動いているものがあった。
――文字。
無数の文字の断片が、空中をふわふわと漂っている。
それは、焼け焦げた日記のページのように、言葉を欠いた“記録の残骸”だった。
「記録が……壊れてる?」
「いや、違う」
グリスは手を伸ばし、ひとつの文字を掴んだ。
それは、すぐに崩れて消えた。
「最初から、“記録されていない”んだ」
リーアの瞳が細く揺れる。
「記録されていない世界……。それじゃあ、ここは――」
「そうだよ。名を持たない世界、“ブランククロニクル”」
その声が、ふたりの背後から響いた。
振り返ると、白の中にひとりの男が立っていた。
黒い衣、銀の笛、静かに笑う唇。
「――オルフェウス」
「やあ、また会えたね」
笛吹きの男は、柔らかく微笑む。その表情には、以前のような冷たさはなかった。
「ここは、創造主が“存在の外側”として作った場所だ。
記録も、記憶も、歴史もない。すべての観測から外れた、“白紙の世界”。
君たちは、塔での決断によってここに流れ着いた」
「……つまり、私たちは死んだの?」
リーアの問いに、オルフェウスは首を横に振る。
「死とは、終わりの形だ。君たちは、まだ“途中”にいる」
グリスは沈黙の中、男を睨みつける。
「……お前、何者なんだ? 創造主の使徒か、それとも――」
オルフェウスは笛を指で回しながら、ふっと遠くを見る。
「私はね、“記録の守人”だった。
世界のすべての出来事を記し、保存することが使命だった。
けれど、創造主アイオーンは言った。『記録は神を腐らせる』と」
リーアが息を呑む。
「……だから、あなたは記録を棄てたのね」
「正確には、彼女に棄てられたんだ」
オルフェウスの声が微かに震える。
「記録を守る者は、永遠に過去に縛られる。
だが“創造主”は未来を創る者。――両立しないのさ」
白の空間に、ふっと風が吹いた。
言葉の破片が舞い上がり、彼らの周囲を旋回する。
その中に、一瞬だけ“過去の情景”が映った。
それは、幼いグリスとリーア。
崩れかけた村の外れで、手を取り合い、夜空を見上げている。
――『約束しよう、いつかこの世界を直そうね』
リーアの喉が、かすかに震えた。
「これ……わたしたちの……」
オルフェウスが頷く。
「そう。これは、“記録されなかった約束”だ。
だからこそ、君たちがまだここにいる」
グリスの胸に、何かが突き刺さる。
「……全部、決まってたってことか? この世界も、俺たちの出会いも、リスタートも……」
「決まっていたようで、決まっていなかった。
運命は“記録される”ことで固定される。
だが――ここでは、まだ何も書かれていない」
白の世界が震え始めた。
オルフェウスが笛を唇に当てる。
「さあ、選べ。
記録を終わらせるか――それとも、“新しいページ”を開くか」
静寂の中、笛の音が流れた。
それは、悲しみと希望のあいだに揺れる旋律だった。
リーアがグリスの手を握る。
その手は温かかった。
「ねえ、グリス。もう一度、約束しよう」
「……ああ。今度こそ、この世界を“生き抜く”ってな」
ふたりの言葉が重なった瞬間、空に光の線が走る。
白紙だった空間に、ひとつの新しい“文字”が刻まれた。
――【Re:Creation】(再創)
オルフェウスが目を細め、笛を下ろす。
「そうか……君たちが、“書き手”になるのか」
光が再び世界を包み、記録なき空白は色を取り戻していった。
遠くで風が吹く。
どこかで鐘の音が鳴った。
――世界が、再び動き出す。
◆ ◆ ◆
)次回予告(
記録なき世界から蘇る、“もうひとつの世界”。
グリスたちはそこに、“人が神を綴るための図書館”を目にする。
そして――封印されていた“創造主の最後の書”が、ついに開かれる。
第18話「輪廻の書架 ― Library of Re:Genesis ―」へ続く。
どうも、お世話様でございます!
焼豚の神でございます。
最後までお読みいただきありがとうございます。('◇')ゞ
物語が現在、狡猾と狡猾が交差しています!
今後も加速度的に物語が進行していきます!
それでは、引き続き物語をお楽しみください!('ω')ノ
これもひとえに読者の皆様のおかげです!
◆グリスの「モフ度」と能力関連設定◆
グリスの能力:「クロニクルベアラー(物語を綴る者)」
→ 他者の記憶・感情・空間の“物語構造”を感知し、世界を“読み解く”力。
→ 使えば使うほど“内側の温度(感情)”が昂ぶり、モフ度が上昇する。
モフ度
- 0~19%:平常
- 20~29%:末端ふわ化
- 30~49%:耳/尻尾ふわ化
- 50%以上:ぬいぐるみ化進行、人格への影響(語尾に“ぷぅ”など)
- 75%以上:上半身下半身がぬいぐるみ化急行、人格への影響(発声が可愛くなるなど)
- 100%:完全ぬいぐるみ化(意識あり)=“魂を綴る最後の綴り”
良ければ、感想・ブクマ・お気に入り、おかわり自由でお待ちしてます!
また、良かったら筆者に別作品である『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』通称:【ナナクラ】も是非、この機会に知って頂けますと幸いです!
それでは、また次話でお会いしましょう~~~(^^♪




