第3話③「笑顔を守りたい”ただそれだけ――少年が運命を書き換える決意の夜」
今日もよろしくお願いします!
今日のお話には、センシティブな内容が含まれているため、苦手な人は流し読みで飛ばしながら読み進めていった方がいいかもしれないです。今回ストーリーがようやく動く兆しが見えます。ストーリーに、どれだけ脂が乗っているか…
ぜひ読んで確かめてください(*'ω'*)!
(※本エピソードには自然災害や喪失に関するセンシティブな描写が含まれます。心身に不安のある方は飛ばし読みをおすすめします)
――暗い部屋に、ペンのかすかな軋みだけが響いていた。
「なんで……なんで書けないんだ……!」
目の前の“本”――《運命写本》――は、さっきまで脈打っていたのに、今は冷たい石のように沈黙している。
ページは微動だにせず、ペン先も宙を滑るばかり。どんなに意志を込めても、何も起こらない。
震える手でペン《綴筆》を握りなおし、グリスはもう一度、本に向かって文字を書こうとする。
「あんなに優しい子が……死ぬなんて……そんな未来、絶対に許さない……っ!書き換えてやる……!」
だが、“本”は応じなかった。
文字は浮かび上がらず、ペン先から力が抜けるように滑り落ちる。
「なんでだよ...。」
まるで今のお前には“書き換える資格がない”と言われているようだった。
そのとき――
部屋の隅で静かに佇んでいた“兄弟”の片割れが、グリスを見下ろして言った。
「……占術エネルギーが、足りないんだよ」
「えっ……せんじゅつ何?」
「記録の書き換えには、代価がいる。君はまだ、その代価を支払えるほどの存在じゃない」
「代価……?」
黒髪の少年に見えるもう一方の兄の方は、静かにグリスの肩に手を置いた。
「君はもう、“クロニクル・ベアラー”として選ばれてしまった。……記録を『読む』だけの記録者では、もうない。君の記す文字は、運命にさえ影響を与える。
……だからこそ、世界はその力に“見合う覚悟”を求めてくるんだ」
「覚悟……?」
手のひらを見下ろす。まだ熱を帯びた指先に、かすかな痛み。
爪の根元が、うっすら赤く染まっていた。
「これは……?」
兄がうなずく。
「君の“記す力”は、消費型の力だ。すなわち、代償と引き換えに力を使っている。少しずつ、気づかないうちに、自分を削っているんだ」
「嘘……だろ……?」
「それに……」
黒髪の弟が口をつぐみ、少しだけ目を伏せてから呟く。
「君の力は、まだ未完成だ。俺たちもすべてを把握しているわけじゃない。
“物語を綴る者”の能力は、記録、書き換え、予知、共鳴……多岐にわたる。
でもそのすべてに共通するのは、“代償”が必ず伴うということ。
……そして、もっとも厄介なのが――」
「厄介なのが?」
「“Chronicle Regression-クロニクル・リグレッション-”と呼ばれるモフ化状態にある...。」
「モフ……?」
それは、書き換えすぎた者に起こる、“記録過多”による強制リセット現象。
ある閾値を超えると、人格や記憶が巻き戻されるかのように不安定化し、
一時的に身体が“異形の存在”へと変質するという――
詳細は分かっていない。
記録されている資料も少なく、兄弟でさえ完全な把握には至っていない。
ただひとつ分かっているのは、“それが起きると戻れなくなる可能性がある”ということだけ。
「……うそだろ……?書き換えたら、ボクが……そんなことに……?」
だが、彼の瞳に恐怖はなかった。
あるのは、ただ――
「それでも……ボクは、選ぶよ。まだ、あの時逃げたことを謝っていないんだ。だから、ボクは……選ぶよ」
その言葉に、兄弟はしばし黙り込んだ。
白銀髪の兄ツカサが静かに息を吐き、目を細めて呟く。
「……選ぶか。そうか。
君は、選んでしまったんだな。
運命の分岐点を越える者の目になってるよ」
黒髪の弟レンジが、ゆっくりと“本”を指差した。
「今はエネルギーが足りない。でも、満たす方法はある。
君が……人の心に触れれば触れるほど、そのエネルギーは少しずつ積み重なる」
「人の、心……?」
「君が誰かと心を通わせ、誰かの“記憶”を抱えるたび、
その想いが力に変わる。運命を書き換える、燃料になる」
グリスは、一度だけ目を閉じた。
リーアの笑顔が、脳裏に浮かぶ。
笑っていた。あの子は、いつだって。
人のために、必死だった。誰かを助けようとしていた。
ボクは、見ていた。
あの優しさを、まだお礼すら言えていないのだから。
「……分かった。やるよ。
だったらボクは、もっと人と関わって、もっと想いを集めて……絶対にこの未来を変えてやる」
その声は、かすかに震えていた。
けれど、確かに前を向いていた。
グリスが運命の本に触れ、決意とともに「名」を告げたとき――
空間に柔らかい音が鳴った。
ぱら、ぱら、とページが捲れる音。けれど、風は吹いていない。
気づけば、彼の目の前に浮かび上がる――まるで“ゲームのステータス画面”のような半透明のウィンドウ。
――ステータス更新――
クロニクル・ベアラー(物語を綴る者)
称号取得に伴い、初期能力を開示します。
【クロニクル・ステータス】(ver.1.0)
ステータス 数値 備考
HP(生命力) ★★★☆☆ 安定しています。
MP(記録魔力) ★★☆☆☆ 低密度。変動の兆候あり。
WIS(叡智) ★★★☆☆ 潜在値が高いです。
LCK(運命値) 変動中 信頼関係により変動。
MOF(モフ度) 3% 問題ありません。
【パッシブスキル】
記録干渉体質
→ “運命の本”と共鳴し、未来の断片を自動受信。
真視の瞳
→ 現実の層に重なる“未来の影”を見ることが可能。
【アクティブスキル】
・ 運命改筆
状態:使用可能(発動条件を満たす必要あり)
①【選択意志値】が 70%以上
当事者(グリスまたは対象者)が“自らの意思で選んだ行動”であること
外的要因や強制によるものでは発動不可
※「誰かのせい」「仕方なく」などの選択では数値が低下
◎ 明確な自己選択により最大値(100%)まで上昇
②【感情干渉値】が 80%以上
強い感情が発動のトリガー(怒り・絶望・希望・愛情 など)
感情が空虚または冷静すぎると発動不可
◎ 感情イベント(喪失・救済・共鳴)で大きく上昇
※打算・理性優位だと減少し、50%以下で自動失敗
③【運命設計率】が 60%以上
グリスが「どんな未来を書きたいか」を具体的に思い描けているかの指標
漠然とした希望だけでは筆は動かない
◎「こうなってほしい未来」を自分の言葉で表現できるほど数値上昇
※「とにかく変えたい」「ただ怖い」だけでは発動不可
【発動の難易度】
発動成功率は、3項目の平均が 70%以上 で初めて 50%超
すべて90%以上であれば、成功率は100% になる(確定発動)
備考:運命改変には代償が伴います。
◎?????(ロック中)
状態:潜在スキル/現在は開示されていません。
解放条件:強い感情干渉 or 臨界状態の到達
◎【特殊条件スキル】
???????(識別不能)
状態:未覚醒
備考:高危険度/使用には存在への影響が懸念されます。
グリスは、その“ステータス画面”に言葉を失う。
「……何これ?前、神様の家でやったげーむ?の画面にそっくりだ。何か怖い。でも……」
目を伏せると、本のページにうっすらと浮かんだ“白いスペース”が見えた。
まだ書かれていない物語。まだ開示されていない力。
けれど。
「それでも……選べるのなら、ボクは――」
彼は小さく、静かに笑った。
名もなき未来に、自らの選択で言葉を綴っていくことを決めた者の笑み。
それは、運命に抗う第一歩だった。
クロニクル・ベアラー ― 物語を綴る者(Chronicle Bearer: Weaver of Fates)
選ぶことができるのなら――ボクは、
「命よりも、大切なものを選ぶよ」
――
第3話④「そして、“最初の運命”が動き出す」つづく
どうも、お世話様でございます!
焼豚の神でございます。
今回も読了しに来てくださった皆様ありがとうございます('◇')ゞ!
遂に主人公が得た能力の片鱗が見え隠れしてきました!
これから、グリス君がどのように町の危機と”あの子”を救っていくのか。そして、神様兄弟たちはいったい何者なのか、徐々に明らかになっていきます。今後のストーリー展開を、お楽しみに(^_-)-☆
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