第3話②「“届いてほしい”と思った願いを届けるために、その最悪の未来を覆したいんだ」
今日もよろしくお願いします!
今日のお話には、センシティブな内容が含まれているため、苦手な人は流し読みで飛ばしながら読み進めていった方がいいかもしれないです。今回ストーリーがようやく動く兆しが見えます。ストーリーに、どれだけ脂が乗っているか…
ぜひ読んで確かめてください(*'ω'*)!
【※注意:このエピソードには、自然災害および喪失に関するセンシティブな描写が含まれています。心身にご不安のある方は、飛ばし読みをおすすめします。】
――それは、まるで悪夢だった。
“本”が突然、黒く脈打ち、闇色の光を放った。
ページはめくられるでもなく、風にあおられるでもなく、勝手に文字が刻まれていく。
グリスはただ、震える手でその本を見つめていた。
『半年後、この地は崩れる。』
その一文から始まった未来の記録には、信じがたい光景が、淡々と、しかし容赦なく綴られていた。
――連日の雨が地面を緩ませ、
山の斜面が、わずかな前触れと共に崩れ始める。
轟音。
大地が裂ける。
家々が、畑が、道が。
次々と濁流に呑まれ、木々ごと押し流される。
村の境にあった小川は、もはや川とは呼べない。
暴れ狂う茶褐色の洪水となり、土砂を巻き込みながら人々の生活をなぎ倒していく。
悲鳴。
祈り。
泣き声。
けれど、自然は聞いてくれない。
人々は必死に逃げ惑うが、足元の地面すら、もはや信じられない。
土砂の中に沈んでいく家屋の柱。
行方不明者の名前が記された巻末には、
あの子の名が、静かに、最後に、刻まれていた。
――リーア。
金色の髪と、サファイアのような澄んだ瞳を持つ少女。
この街の“偉い人”と呼ばれる人物の娘でありながら、
彼女は誰に対しても分け隔てなく、明るく接していた。
グリスにとって、唯一“やさしさ”をくれた存在だった。
笑うとき、目がきゅっと細くなって、誰にでも明るく声をかけるその子は、街の誰よりも早く広場に出て、幼い子どもたちに水を汲み分けたり、困っている大人を手伝ったりしていた。
一度だけ、グリスに言ったことがある。
「きみはさ、たぶん遠くに行ける人だと思うんだよね。だから、ちゃんとごはん食べなよ?」
あの時の言葉が、まだ心に残っていたのに。
“記録”が語った未来では、
災害が街を襲ったその日、リーアは避難誘導を手伝っていた。
幼い子どもたちを連れて、街の外れの小屋に避難させ、
最後の一人を抱えて飛び込んだ直後――
天が唸り、巨大な瓦礫が崩れ落ちた。
小屋の中で、幼い子どもは無事だった。
だが、その子を庇うように覆いかぶさっていた少女だけが、
……もう、声を発することはなかった。
未来のページには、変わらぬ結末だけが、静かに焼き付けられていた。
グリスの手が、本から離れた。
足が震えていた。
目の奥が熱い。
喉の奥が詰まって、何も言えなかった。
「……こんなの、あんまりだ……」
ボクはただ、暮らしたいだけだった。
誰にも迷惑かけず、そっとしておいてほしくて、毎日をやり過ごしてきた。
だけど。
だけど、この未来だけは、絶対に、見過ごせない。
あの子の笑顔が消える世界なんて、
みんなが泣いて、誰かの名前を呼び続ける世界なんて――
断じてあっていいはずがない。それはボクが許さない。
グリスは、そっと“本”を閉じた。
震える手で、今度はペンを握る。
「……書くよ。ボクは、書く。絶対に……この未来を変えてやる。」
その瞳に宿ったのは、恐怖でも、絶望でもなかった。
たとえ、どんな犠牲を払うことになったとしても。
ボクがどうなったって――あの子の笑顔だけは、消させない。
“記録者”から”物語を綴る者”として目覚めた少年の、
静かな、そして揺るぎない決意だった。
第3話③「“選ぶこと”ができるのなら、ボクは――」(つづく)
どうも、お世話様でございます!
焼豚の神でございます。
今回も読了しに来てくださった皆様ありがとうございます('◇')ゞ!
遂に「ヒロイン」らしき影が見えましたね!主人公がどのように町の危機と”あの子”を救っていくのか。今後のストーリー展開を、お楽しみに(^_-)-☆
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