第58話◆「第一幕・刻を戻す奸計」◆
おはようございます!
今日もよろしくお願いします!('◇')ゞ
森全体が赤黒く軋み、影が荒波のように押し寄せていた。天地が唸り、空気そのものが刃と化す。
その中心に立つレオニスは、もはや“人”ではなかった。剣を振るうたびに戦場が裂け、風が悲鳴を上げる。大地の怒りと死の意志を一身に宿した存在――まさしく戦場そのものが彼の肉体と化していた。
「くっ……まだ来るか!」 ライナーの盾が火花を散らす。鉄と鉄が軋み、腕は震え、血が滲む。だが彼は一歩も退かなかった。
「ライナー! 下がって!」 リーアが横に滑り込み、双剣で隙を埋める。荒い息と共に、汗と血が混ざり合い頬を伝う。それでも瞳には決して折れぬ光が燃えていた。
「未来が……見える……けれど……重なりすぎて……!」 セフィーナは両手でこめかみを押さえた。枝分かれする無数の未来、そのすべてをレオニスの殺気が揺らし、視界は赤黒く滲む。
その背後では――。
「……“もしも”を、繋げ!」 グリスの魔導書が炎のように輝き、ペンが走るたび仲間の動きに補強が宿る。
《もしも》ライナーの盾が砕けなかったなら。 《もしも》リーアの刃があと一寸届いたなら。 《もしも》セフィーナの未来が一本に収束したなら――。
“物語”が編まれ、現実に縫い込まれていく。
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「はぁっ……はぁっ……っ!」 リーアの脚が震え、剣先がわずかに揺れる。未来視の導きも、盾の支えも、限界はすぐそこに迫っていた。
「……俺が……受けるッ!」 ライナーが咆哮と共に突撃する。盾を掲げたその背に、グリスの筆跡が光を刻む。
『砕けぬ壁』
神話のような光が盾を覆い、レオニスの剣をわずかに止める。
「――今だッ!」 リーアが全身を投げ出すように斬撃を放つ。その刃は未来視の一点に導かれ、物語の加護に意味を与えられる。
鋼鉄の閃光が、レオニスの胸を貫いた。
「――グァアアアアアアアアアアッ!」
空を裂く絶叫。レオニスの声は血と憎悪と無念の塊だった。森全体がその咆哮に震え、影が崩れ落ちるように波打つ。
巨躯が崩れ落ちる。黒き霧は裂け、影の兵たちも砂のように消えていった。
「……やった……のか……」 ライナーが肩で息をしながら呟く。盾はひび割れ、膝が震えていた。
「倒せた……! 本当に……!」 リーアの声は涙に震えていた。剣を支えきれず、膝をつきながらも笑みを浮かべる。
「未来が……ようやく……静かに……」 セフィーナは膝をつき、震える指で瞳を覆った。無数の未来は途絶え、ただ澄んだ現在だけが残っていた。
グリスは大きく息を吐き、ペンを下ろす。 「……物語は、一度、ここで……終わったんだな」
勝利の余韻が胸に広がり、全員の心に希望の灯がともる――。
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――だが。
「見事だ。なるほど、これほどの連携を見せるか」
森の奥から声が響く。影の帳を割り、豪奢な衣を纏った男が歩み出た。傲慢に満ちた眼差し、帝国貴族ヴァルツェルだった。
「ヴァルツェル……!」 セフィーナの声が震える。
その隣には背を曲げた痩せた男。背に奇怪な器具を背負い、口元に貼りついた狂気の笑み――帝国の狂科学者、ドクター・グライム。
「素晴らしい……実に素晴らしいデータだ! この連携、この極限! すべてが我らの計画を肥やす!」
ヴァルツェルは冷ややかに笑む。 「余はただ確かめたかった。お前たちがどこまで抗うかをな。……十分だ。これで“試練”の条件は満ちた」
「試練……?」 グリスの毛並みが逆立つ。
ヴァルツェルは印を結び、冷酷に告げる。 「さあ、戻ろう。“刻”を」
瞬間、大地が裂け、空が反転し、森が音もなく崩壊した。
「な、なんだ!? 身体が……引き裂かれる……!」 「未来が……消えていく……!」 「おいッ! これはどういう――!」
仲間たちの叫びは白い光に飲み込まれる。グリスは必死に魔導書を開くが、文字は滲み、掠れていく。
「……ッ! ダメだ……物語そのものが……上書きされていく……!」
虚無へ沈む中、ヴァルツェルの声だけが残響した。 「繰り返せ、繰り返せ。抗えども抗えども、お前たちは刻に絡め取られる。だが、その絶望こそが我らの望む“真なる物語”だ」
気づけば、グリスはひとり、白く果てのない虚空に立っていた。毛並みは乱れ、胸は早鐘を打つ。
「……みんな……? リーア……ライナー……セフィーナ……!」
返事はない。静寂の中、遠くから声が届く。
「――やっと来たな、クロニクルベアラー。いやブラザー!!」 「お前に新たな試練を与えよう!マイブラザー!!」
現れたのは、かつて異世界の町中華で出会った“神様兄弟”。兄ツカサと弟レンジが、なぜか悠然と中華鍋を振るっていた。
「……おい、なんで鍋ふるってんだよ! ここ虚空だろ!? 中華屋じゃねえだろ!」 グリスが思わずツッコむ。
ツカサは穏やかに微笑み、レンジが楽しげに笑った。 「敵の策略にまんまと嵌った。今ここにいるということは……出発の時と同じ。最初からやり直しだ」
その言葉は、心臓を氷で締めつけられるような衝撃だった。勝利も、努力も、仲間との絆も――すべて無に帰したと告げられたのだ。グリスの胸の奥に、絶望が黒い霧のように広がっていく。
爪が震える。唇を噛み切りそうなほど噛みしめる。だがその目はまだ、死んではいなかった。
「どうする? このまま俺たちと一緒に鍋振るうか!?」 レンジが冗談めかして問いかける。
「……いや! 振るわねぇ~よ! まだ諦めてたまるかってんだ!! 俺は戻るぞ!」 グリスが吠えるように叫んだ。震えていた手は、強くペンを握りしめていた。
ツカサとレンジは顔を見合わせ、声をそろえる。 「さすが俺たちのブラザー(義弟)だ!」
絶望が胸を締め付ける。それでも――。
グリスは唇を噛み、震える手でペンを掲げる。 「……戻る。必ず。仲間のところへ」
その瞳に、消えぬ決意が宿っていた。
******
虚空が割れ、空が開く。青く澄み切った大空が広がった。
グリスは深く息を吸い、ペンを掲げる。 「――さあ、もう一度だ。物語を綴ろう」
その声と共に、冒険は再び始まる。
“リスタート”の物語が、ここから紡がれていく――。
第一幕完!
第二幕 第1話「《またここから!?大空リスタート》」へつづく!
どうも、お世話様でございます!
焼豚の神でございます。
最後までお読みいただきありがとうございます。('◇')ゞ
物語が現在、狡猾と狡猾が交差しています!
今後も加速度的に物語が進行していきます!
それでは、引き続き物語をお楽しみください!('ω')ノ
また、次話でなんと!!
100話達成します!!!!
これもひとえに読者の皆様のおかげです!
次話から少々特別なエピソードを投稿予定です!!
お楽しみに♪('ω')ノ
◆グリスの「モフ度」と能力関連設定◆
グリスの能力:「クロニクルベアラー(物語を綴る者)」
→ 他者の記憶・感情・空間の“物語構造”を感知し、世界を“読み解く”力。
→ 使えば使うほど“内側の温度(感情)”が昂ぶり、モフ度が上昇する。
モフ度
- 0~19%:平常
- 20~29%:末端ふわ化
- 30~49%:耳/尻尾ふわ化
- 50%以上:ぬいぐるみ化進行、人格への影響(語尾に“ぷぅ”など)
- 75%以上:上半身下半身がぬいぐるみ化急行、人格への影響(発声が可愛くなるなど)
- 100%:完全ぬいぐるみ化(意識あり)=“魂を綴る最後の綴り”
良ければ、感想・ブクマ・お気に入り、おかわり自由でお待ちしてます!
また、良かったら筆者に別作品である『ナナシの豪腕とモンスター三姉妹 ―最弱から始まる最強クラン伝説―』通称:【ナナクラ】も是非、この機会に知って頂けますと幸いです!
それでは、また次話でお会いしましょう~~~(^^♪




